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2020年01月20日

【小倉正男の経済コラム】サプライチェーンを誤れば不良品の山〜韓国の部品「自国化」の顛末

■無理やり「自国化」すれば不良品の山を抱える

kk1.jpg 昨19年の9月19日付けのこの「経済コラム」で、サプライチェーンについては以下のように書いたものである。
 『サプライチェーンとは、原材料・部品・部材手当から製品化を経て、製品がマーケットに供給されて消費者の購買にいたる連鎖を指している。
 全体の「最適化」を目指すのがサプライチェーン。部品・部材が最適地の「最適企業」から「最適時」に供給され、最適企業が製品化してお客の手元に届ける。企業間競争では、このサプライチェーンがベースになって優劣を競うことになる。』

 文在寅大統領の韓国は、日本の輸出管理強化への対応策として高純度フッ化水素など部品・用品の国産化=「自国化」を奨励した。9月はちょうどその時期である。
 
 「経済コラム」では、そのときにこう指摘したものである。
 『下手に無理やり部品・部材を国産化して製品をつくれば、半年〜1年後には不良品の山を抱えることなる可能性がある。』
 
■高純度フッ化水素の純度が足りなかった?

 LGディスプレイが、韓国で「自国化」、すなわち韓国でつくられた高純度フッ化水素を使ってアップル向け「iPhone11Pro」シリーズ用有機ELパネルを製造――。おそらく昨19年9月頃の動きだが、韓国メディアはそうした報道をしている。

 韓国大統領府としては、高純度フッ化水素がそんなに簡単に「自国化」できるのかと思ったに違いない。これで日本の輸出管理強化は骨抜きにできる、と。
 日本から韓国への部品・用品供給は「経済侵略」で、「自国化」は「第2の独立戦争」としていたのだから、これは大勝利だということになる。

 しかし、時間がほとんどかからないうちに「自国化」はそう簡単ではない、いや至難であることが判明した。昨19年末には、LGディスプレイが製造したパネルに異常が生じたという報道がなされている。10万枚を大きく超えるパネルが不良品として廃棄されたというのである。
 
 高純度フッ化水素の純度が足りなかった、高純度ではなかったというのだ。発注先のアップルとしてはとんでもない迷惑だったに違いない。
 
 LGディスプレイとしては発注先の信用・信頼を回復するのは大変な作業になる。品質、納期はサプライチェーンとしてはいちばん最初に上げられるファクターであるからだ。発注先のアップルとしては、安心して仕事を任せられない。

■部品を変えて不良品発生から事業撤退

 優良企業のキヤノンが電卓事業を撤退したという「事件」がある。キヤノンの創業者・御手洗毅社長から前田武男社長、そして賀来龍三郎社長の時代である。
 
 よい時代というか、古い時代で大変恐縮だが、キヤノンは、カメラ、複写機、電卓の三本柱で経営を行っていた。
 しかし、カシオ計算機が登場して電卓の低価格化を徹底して推し進めた。なにしろ10万円を超えていた事務用電卓が1万円とかそれ以下の価格にあっという間に値下がりした。
 
 キヤノンとしてもそのトレンドに対応する必要があった。キヤノンは、安い発光ダイオード(LED、いまでは有機ELに進化)を購入して、得意とはいえない「低価格電卓」製造に取り組んだ。しかし、半年後、夏場になって気温が上昇するとともに発光ダイオードに不良が大量発生した。

 結果、キヤノンは電卓事業から撤退を余儀なくされることになった。電卓ではシャープとトップを争っていたのだが、マーケットから全面撤退となった。電卓事業の売り上げはゼロになったのである。
 
■サプライチェーン(部品供給)を軽く考える危うさ

 振り返れば、この時期がキヤノンにとって最大の危機だったと思われる。前田武男社長の時代だったが、キヤノンは創業して初めて無配に転落した。そんなことで前田社長は2年間でトップを交代している。
 
 当時、財務担当取締役だった賀来龍三郎氏(前田社長の後に社長就任、会長、名誉会長)の自宅に押しかけて取材させてもらったものである。先輩記者からは尻を叩かれキヤノンの財務分析記事を書かされた。
 
 後年考えれば、電卓撤退を思い切り断行したのはよかったともいえる。カメラ、複写機、さらには次の時代を担う半導体露光装置などに経営資源を集中できたからだ。その後、キヤノンは「経団連会長企業」に成長をとげていくことになる。
 
 部品・用品のサプライチェーンを甘く見て誤ると、企業としては深刻なことになりかねない。部品・用品を少し変えただけで、事業撤退ということもありうるということになる。
 
 キヤノンは失敗をテコにして、エクセレントカンパニーに再生できた希有な事例だ。他の企業ではそう上手くはいかない。
 サプライチェーンを軽くしか考えていない韓国の部品・用品の「自国化」をみて、そんな事例を思い出した次第である。

(「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営〜クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:10 | 小倉正男の経済コラム