いまでは信じられないだろうが、資産バブルが崩壊するまでは、東京市場では長くエクイティ・ファイナンス(新株式発行を伴う資金調達)は、ポジティブな材料として株価押上げ材料として受け取られていた。その証拠にすでに死語となってしまった「株高促進運動」、「転換促進運動」などとするセールストークが、大手を振るって罷り通っていた。発行会社と幹事証券会社が、発行価格を高く決め、転換社債の早期転換を図るべくツルんで相場操縦まがいの資本政策を進め、投資家サイドもそれを承知でセールストークに乗って、入手競争厳しい公募株や転換社債を何とか手に入れ、うまうまと一回転、二回転させたのである。
それが「失われた20年」を経て新株式発行は、株主価値を希薄化させ需給を悪化させると忌み嫌われる売り材料に一転して、株価は増資発表とともに急落してしまう繰り返しとなった。昨年の日経平均株価は、年末こそ1万円台を回復したものの、夏には9000円台を割っていたが、この引き金となった悪材料としては、円高進行、欧州のソブリンリスク、民主連立政権の参議院選挙大敗とともに、メガバンクの大量ファイナンスが、需給悪化要因に数えられていた。
それが今年は新年早々、その新株式発行を発表したJVC・ケンウッド・ホールディングス(6632)が、株価急落どころか2日間もストップ高を続ける様変わりの展開となり、前週末7日に新株式発行を発表したりそなホールディングス(8308)も、今週どう反応するか注目を集めている。JVCケンウッドの連続ストップ高は、日証金が貸借取引を停止した需給要因や、東証が、公募増資に絡むインサイダー取引にストップをかける空売り禁止などの規制強化を検討していることなど、さまざまな要因が取り沙汰されている。ただ、2009年12月に公募増資(発行価格230円)を強行して市場の顰蹙を買った日立製作所(6501)が、大発会直後に昨年来高値まで買い進まれたことなどを勘案すると、エクイティ・ファイナンスに対する市場の風当たりも若干変わったのか、考えられないこともない。
もともと発行会社は、既存株主のマイナスとなり、需給・市況悪化材料になることを重々承知しながら強引に実施した新株式発行である。これが単なるヤラズブッタクリのカネ集めでなく、調達資金で企業価値を高める経営戦略を展開していることを株主や市場に説明しなければならない経営責任を負っている。
新株式発行に「良いファイナンス」と「悪いファイナンス」があるとして、「良いファイナンス」証明の最大の根拠となるのは、自社の株価の動向である。株価が、発行価格を割っていたりすれば問題大ありで、株主総会はまず「お詫び」、平身低頭から入らなければ乗り切れない。3月決算会社の株主総会は、今年6月末に一斉開催である。株価が発行価格を割っている発行会社はもちろん、スレスレの会社も株価意識を高めることになり、自社株式取得、株式分割などの株価刺激材料が飛び出さないとも限らない。
昨年ファイナンスを実施し株価が低迷中の大京(8840)、アルバック(6728)、三井住友フィナンシャルグループ(8316)、テイクアンドギブ・ニーズ(4331)、パイオニア(6773)、コロワイド(7616)、ヤマハ発動機(7272)、メディカルシステムネットワーク(4350)、東レ(3402)、ラウンドワン(4680)、みずほフィナンシャルグループ(8411)、国際石油開発帝石(1605)、ケネディクス(4321)、日本板硝子(5202)、カゴメ(2811)などから「第2の日立」が浮上することを期待するのもあながち間違いではなさそうだ。
浅妻昭治(あさづま・しょうじ)
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。
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