アベノミクスでいえば、この先、経済の成長戦略、すなわち成長市場&企業の創出が大きなハードルとして控えている。
成長企業の創出には、規制緩和がいちばんのテコだが、これがそう簡単ではない。ハードルどころか、絶壁に近い障害物が行く手を阻みかねないアジェンダである。
■規制緩和に立ちふさがる「絶壁」
つい先日、最高裁は、医薬品(大衆薬)のネット販売を認める判決を出した。
厚生労働省は、省令で、医薬品は安全性の面から対面販売しか許可しない、という規制を行っていた。これが高裁、最高裁と相次いで否定された。
しかし、厚生労働省といわゆる「族議員」たちなのか、次は法律をつくり医薬品のネット販売禁止に動くとしている。
ここから透けて見えるのは、医薬品の対面販売を守るサイドの利害関係だ。
これは邪推かもしれないが、対面販売の薬店を守ることで、業界団体に「天下り」などの利権もしっかり確保できることになる。
議員も、自民党、民主党ともに、業界出身や業界団体から推薦されて、票をもらって当選してきた「族議員」が存在する。
医薬品のネット販売ひとつ取っても、政・官・財の「既得権」の問題があり、一筋縄ではいかない。ハードルどころか、「絶壁」のようなものが大手を広げて立ちふさがる。
■サプライサイド強化を塞ぐ「護送船団方式」
いま、医薬品販売では、医療用医薬品にしても大衆薬にしても、ドラッグストアチェーン店で購入するとポイントがもらえる。ポイントは、現金と同じことだから、ポイントが貯まれば、それで買い物ができる。
お客にとっては、せめてもの競争だが、これを禁止しようとする規制がつくられようとしている。
ドラッグストア以外の一般の薬店は、ポイントが出せない。いや出そうと思えば、出せるのだろうが、値引き販売になるとしてポイントを出さない。
一般薬店をあくまで基準にして、ドラッグストアをそれに合わせようとする動きである。
太平洋戦争のさなか、制空権が失われ、最速スピードの駆逐艦がスローにしか動けない輸送船を護衛することになった。駆逐艦艦長からは不満が出た。最速の駆逐艦がノロノロ運転では絶対矛盾、コンセプト無視もはなはだしい。
話は横にそれたが、政・官・財の一部からは、そうした「護送船団方式」が当然のこととして沸いて出てくる。
アベノミクスは、サプライサイド強化を謳っている。それは正当なことだが、サプライサイド強化の前提になる競争を阻害するのが「護送船団方式」だ。根強くはびこっている「護送船団方式」も、サプライサイド強化を塞ぐ障害ということになる。
■「座」を引きずる日本経済に切り込めるか
実は、室町期どころではない。平安朝、あるいは奈良朝時代に「座」が発生したといわれている。
代表的なのが、お酒である。お酒は、原料が人々の主食であるお米だ。お米が人々に行き渡るまでは、むやみにはつくれない「規制品」だったとみられる。
しかし、都に膨大な人々が集まり、貴族や僧侶、商人などの富裕・有閑階級が生まれてくるとお酒の需要は大きくなる。寺社、地主、商人などがお酒の製造・販売に乗り出し、規制緩和が促進される。
お酒は高付加価値商品であり、儲かる。お米で儲け、お酒にして儲け、さらにそのおカネで土倉(質屋・金貸し業)などに業容拡大する向きも生まれてくる。
そうなるとお上のほうからお酒に税金を課して財政を賄う動きも出てくる。お酒の製造や出荷に税金を課し、その酒税コストを原価に上乗せして流通させろ、ということになる。
酒税を払う業者もそれだけでは納まらない。
お酒の税金を膨大に負担しているのだから、新たにお酒の製造や出荷に参入する業者を許認可するかどうかは、既存の業者に決定させろ、という動きに出る。
おそらく、不況で市場が縮小したような時期に「新規参入権」を業界が握る権限を得ることになる。これが「座」である。
いまの日本経済においても、中世の「座」が張りめぐらされた経済構造に似たようなところが否定できない面がある。競争や新規参入は歓迎されず、新陳代謝は進まない。そして誕生してくる新規企業も多くはなく、ビジネスモデルも横並びのものが一般的だ。
これでは成長戦略を根付かせること自体が難事だが、規制緩和のテコ入れで成長市場、成長企業をつくるしか手はない。
アベノミクスは、この先、成長戦略、つまりは成長企業の創出に歩を進めなければならない。アベノミクスは、規制緩和をテコに、停滞を呼んでいる日本経済の根本構造にはたして切り込むことができるだろうか。これはおそらく「アベノミクスの崖」といえるクライシスゾーンにほかならず、アベノミクスにとって最大の試金石になると予想される。(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』『日本の時短革命』など著書多数)
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2013年01月19日