
このIPOが、当の上場した企業にとってゴールなのか通過点なのかは難しい問題である。オーナー社長が、保有株を売出して創業者利潤をフトコロに入れるところをみれば、株式上場は、「出口戦略」でゴールとみえないこともない。ただ上場した企業の経営者は、インタビューに際して異口同音に上場によって重みを増す社会的責に言及し、さらに株主価値の極大化を進めるとコメントし、IPOはなお通過点との認識を示すのが共通ではある。
かつてIT(情報通信)バブルとベンチャービジネス・ブームが同時に起こった当時は、このIPOは、「べんちゃらビジネス」と揶揄され、証券会社は、オーナー経営者に取り入っていかに公開価格を高く設定するかのバトルを繰り広げ、幹事証券入りを狙ったものである。その当時は、「IPOは3度おいしい」ともいわれたものだ。
これは、IPO株が3回、濡れ手で粟の資金調達が可能となることを指している。1回目が新興市場へのIPO時の新株式の発行と株式売出し、2回目が、新興市場から東証第2部への新規上場時のファイナンス、3回目が、東証第2部から東証第1部への指定替え時のファイナンスである。
最近は、東証第2部から東証第1部の指定替え基準が緩和され、指定替えと同時にファイナンスを実施しない企業も増えてきたが、それでも律儀に「3度のおいしさ」を享受する企業も少なくない。
では、もうひとつ問題である。この3回目の東証1部の指定替えを実現した企業は、これはゴールか、なお通過点かということである。すでに3回目の上がりに到達しており、これ以上のさらなるステージがあるとすれば、あとは海外市場への上場が残っているくらいだろう。
この上がりの東証第1部への上場を実現した企業のうちで、問題がややこしくなるのは新興市場からいきなり東証第1部に上場した銘柄である。途中の東証第2部への上場を省略したからだ。マラソンを短距離で走ったようで、通過点かゴールかは企業自身もいきなりのスケールアップに社内体制の整備が追いついていないのではなかといささか心配になる。
その心配は、株価面に如実に表れている。昨年2012年に新興市場から東証第1部に上場した企業は、11社あるが、この3分の2の銘柄が、前週末2月22日の終値が、東証第1部指定替えの上場日の株価を割っているのである。昨年10月以降の直近指定替え銘柄に限ると6社のうち4社の株価が上場日株価を下回っている。確かに指定替え当時は、東証株価指数(TOPIX)への算入開始でTOPIX連動型のファンドの買い需要などが発生して上値評価はされたが、その後は鳴かず飛ばずで不遇をかこっているのである。
ただこの心配は、逆からみると株価的にはチャンスとなる可能性も想定される。この証左が、前週末22日に株式分割を発表したバリューコマース<Vコマース、2491>(東1)で、同社は、指定替え後も自己株式取得や連続増配の株主価値の向上策を続け、一時、上場日株価近くまで調整した株価が人気を盛り返して大きく指定替え後高値を更新、さらの株式分割で上値追いが有望となる。逆転の発想をすれば、この「第2のVコマース」を期待することができるのである。不遇をかこっている指定替え銘柄が、逆に株価対策をさらに強化する可能性がなくはないわけで、逆張り余地が生まれることになる。
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