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2013年03月11日

【小倉正男の経済羅針盤】アベノミクス―問われる「成長戦略」の本当の姿

小倉正男の経済羅針盤 なにげなく使っているのだが、「観光」という言葉がある。いまでは旅行、物見遊山を指す。「観光」は、『易経』から由来しているが、自国や他国の勢い(=光)を見るのが語源である。いわば、元来は政治や軍事用語にほかならない。

 2年前の3・11は、この世でこんな悲惨を見るのかという思いだった。大地震、大津波、原発(メルトダウン)事故――、ウソだろ、と思いたいが、まぎれもなく現実だった。

 3・11以降、少なくとも2、3週間は、東京では街から人気が失せた。銀座の目抜き通りは、昼だというのに人々が歩いていない。ガラーンとしている。それまでは中国からの家族連れ旅行客が闊歩していたが、これもまったく消えた。

 スーパーの棚から、水が消えた。パン屋では、食パン一斤を並ばないと買えない状態になった。原発事故の処理や情報は人々から不審を買い、首都圏から避難を考えないといけない寸前までいった。

 あのときの日本を「観光」すれば、最悪の事態だった。

■NYダウは4年ちょっとで最高値に到達

 2年を過ぎて、被災地の復興はいまだの感が否めない。ただ、東京などには、いまようやく人々の賑わいが戻ってきている。

 アベノミクス効果で、株価はリーマン・ショック前の水準を回復した。一部企業を中心に賃上げやボーナス増も出始め、消費にも高額商品に動きが見え始めている。

 日本は「失われた20年」から離脱できるかどうか、という瀬戸際にある。アベノミクスに、経済界などが協力的なのも、「失われた20年」に終止符を打ちたい、という暗黙の思いがあるからに違いない。逆にいえば、今回もダメなら失望感は相当に深いに違いない。

 株価といえば、NYダウは史上最高値を更新した。リーマン・ショックから4年ちょっとで最高値に到達――。そのスピードたるや、驚かされる。

■試金石は「成長戦略」の本当の姿

 円安転換による株高の恩恵で、高額消費などに波及する可能性が出てきている。

 また、円安効果による製造業など企業業績の回復期待で、賃上げやボーナス増が多少とも促進され、これも消費にプラス要因となる見込みだ。

 こうした動きがみられるようになったのは、少なくともいままでにないことだ。希望はほのかなものだが灯った。

 だが、それだけではまだ対処療法でしかない。景気を浮揚させるにはパンチ不足ということになる。

 TPP問題が典型だが規制緩和による構造改革に歩を進めないと、「失われた20年」から決別できない。アベノミクスと景気浮揚の関係では、ここが最大のボトルネックであり、ここにどこまで切り込めるか。

  改革に「聖域」を設けるのか、設けないのか――。要は、アベノミクスの試金石である「成長戦略」の本当の姿がまだ見えない。

 日本の株式が、リーマン・ショック以前の水準を回復したのは大変な出来事だが、もろ手を挙げて喜ぶわけにはいかない。

 このまま時間を“浪費”していけば、おそらくアベノミクスの賞味期限がひたひたと押し寄せてくる。アベノミクスに支持が高いうちに、抵抗勢力の動きを封じて、構造改革に手を打つ必要がある。

いまの日本を厳しく冷静に「観光」すれば、大底を叩いて浮上を遂げたが、このまま上に行くのか、あるいは下に舞い戻るのか、判断しかねる状況だ。

 ほのかに灯った希望をふくらますことができるか、希望が再び失望に変わるのか。時間はあまりない。「成長戦略」の本当の中身で、アベノミクスの真価が決まることになる。(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)

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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 06:56 | 小倉正男の経済コラム