■アメリカ経済のスピード感は日本の四〜五倍
NY株価は、最高値を更新――。
その背景には、企業業績の回復がある。住宅着工が増加し、しかも住宅価格が上昇している。
自動車販売も、大型車が売れている。3月のアメリカ自動車販売は前年同月比3.4%増となり、5ヶ月連続で年率1500万台超の伸びを維持している。
しかもビッグ3、つまりアメリカ車が大きく伸びている。割安の韓国車が低迷に転じ、日本車は強含み程度になっている。
リーマン・ショックは08年9月のことだ。その時は住宅需給が大崩壊したが、まるで逆のトレンドだ。アメリカの景気は、リーマン・ショックなどいつのことだったか、というばかりの動きである。
アメリカは4年ちょっとでリーマン・ショックの痛手を克服した、ともいえるかもしれない。凄いスピード回復である。
対照的に、日本は「失われた20年」である。日本は、1980年代後半にあの不動産バブルがあり、1990年代前半にその崩壊があった。それから20年あまり景気の底ばい状態が続いている。
アメリカと日本の経済、その彼我のスピードは4〜5倍の違いがある、という見方がかねて語られている。あながちそれが大げさではないことを裏付ける景気のスピード感といえる。
■「金融危機」の最後の局面か
しかし、世界景気のねじれはまだ残っている。欧州では、キプロス問題がくすぶっている。
キプロス問題といえば、昔はギリシャとトルコの地域紛争のことだったが、いま起こっているのは金融危機である。
預金封鎖、あるいは高額預金者への課税が表面化しているが、本質はキプロス金融恐慌であり、銀行への取り付け騒ぎが起こっている。
キプロスは「タックスヘブン」として、ロシア新興財閥などの資金を取り込んできたが、いまやその預金をそっくり返却はできない事態となっている。いわば、『踏み倒し』、はたまた『取り込み詐欺』という結果になろうとしている。
これをギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリヤと続いた「金融危機」の最後の局面と見るべきか。つまりは楽観論の立場で見て、危機の連鎖の終わりの始まりなのか。あるいは、そうではないのか。
■問われる「ミックス」のコア部分へのスピード感
話を景気回復のスピードに戻せば、EUもそうスピードは出ないということになる。一応、危機の終わりの始まりと、いまの現象を楽観的に見てもそういうことになる。
ユーロという単一通貨で欧州諸国を結んでおり、その構造が全体のスピードを鈍らせている。つまり、ユーロによる一種の『護送船団方式』を採用しているわけでスピードは望めないのではないか。
ひるがえって、アベノミクスを掲げる日本だが、そのスピードはどうか。
アベノミクスは3本の矢による「ミックス」、つまりはやれることは何でもやるという混合混在の経済政策だ。
マーケットは、金融超緩和による円安株高を超スピードで実現した。このスピードたるや、確かに凄いものだった。
ただ、アベノミクスの「ミックス」のコア部分、すなわち経済成長分野の創出のスピード感はいまひとつだ。いろいろ打ち上げられているが、スピード感がないということは本気ではない、ということになりかねない。
「日本の経済を取り戻す」という目標からすれば、「ミックス」のコア部分へのスピード感ある着手が不可欠である。アベノミクスはここまで順調な歩みをとげてきている。だが、スピード感を持ってせっかちにそして厳しくいえば、いよいよ『真贋』が問われる段階に来ている。
(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
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2013年04月03日