■アベノミクスと営業外収益改善
アベノミクスで円安株高は進行しているが、景気の実感はといえば一進一退である。
特に、設備投資関連の中堅部品メーカー経営者などからは、厳しい声が出ている。
「仕事はまったく増えていない。前年同期と比べて精々横ばいといったところ。アベノミクスの効果は出ていない。このままだとアベノミクスはやはりダメだ、という失望や反動が出る。実体景気が戻らないとなれば、安倍晋三総理の人気は急速にしぼむのではないか」
部品メーカーは日々の受注から景気の実体には肌身で接している。復興関連などの需要は出ているが、EU経済の低迷などから中国関連企業の設備投資が止まっていることが響いている。
反面、その企業経営者は意外なことを言う。
「ただし、営業外は信じられないぐらい良くなっている」
「営業外」というのは、資金の運用で株高が貢献して営業外収益は好転しているというのである。
「それもあって交際費など営業費用は使うようにしている」とは冗談も入っているのだろうがくだんの経営者。
円安株高は、それはそれで廻りまわって景気に作用しているということになる。
■出始めた一見良識派からのゼイタクな意見
テレビなどのニュースコンテンツを見ていると、いつものことだが、株高などにやや批判的な意見も出始めている。
「株高というが、外人が買っており、日本の機関投資家は売っている。外人は自分の身勝手なカネ儲けで売買しており、まさにハゲタカ。日本の産業・企業を成長させようなどとはまったく考えていない。それに我々庶民には株高の恩恵は一切ない」
一見して良識派に見えるような意見である。
だが、アベノミクス以前は、日本の株式市場はほとんど”死んだ”も同様な状態だった。外人の資金の大半は中国やアジア新興国の株式市場に向かっていた。
そうしたちょっと前までの日本経済のなすすべない低迷を見れば、かなりゼイタクな意見ということになる。
■新成長戦略は種まき・芽吹き促進にこそ使命
アベノミクスの問題は、経済の新成長戦略ということに絞られる。
確かに、足元を見れば、中堅企業などからの設備投資資金需要が活発化しているという状況にはない。銀行など金融機関の企業向け融資は依然として低迷している。
「営業外」は急改善となったが、「営業」、すなわち売り上げ、営業利益が右肩上がりになる事態はいまだない。
新成長戦略では、環境、エネルギー、健康、観光、農業などといった各分野で新業態・新技術などの開発や勃興が緊急課題になる。緊急課題を打開するために思い切った特例的な規制緩和も促進するとしている。
だが、新しいビジネスが開花するには、不可避的に時間がかかる。
アベノミクスに求められるのは、新ビジネスの種まきや芽吹きである。開花や収穫まで欲張ってはならない。
現状を冷静に見れば、アベノミクスの新成長戦略は、その種まきや芽吹きの促進にこそ使命があるのではないか。
この10〜20年ほとんど見られなかった経済への種まきや芽吹きで新市場が沸き立てば、これはこれで大変なことにほかならない。
開花や収穫はこの先の5年後〜10年後に任せるしかない。
”新成長戦略で早く答えを出せ”、というのはこれも急ぎ過ぎというか、ある種ゼイタクな意見とはいえないだろうか。
(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
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2013年05月18日