■規制はリスクを取らない習い性をつくる
このところ株価が乱高下というか、よく下がる。
株価は上がったり下がったりだから騒ぐべきではないが、「円安株高」とはよく言ったものだ。いま現在は1ドル=101円を割る円高なのだから、下がるのも無理はない。
為替に依存した株式の動向だけに、円高に転じればたちまち「円高株安」に陥る。
やはり、待たれるのは中身のある成長戦略の断行、ということになる。
アベノミクスでは、農業、観光、健康医療、エネルギー、環境などでこれまでにない規制改革や支援を行うと打ち上げている。これらは総論ではまったく異論のないところだ。
しかし、現実の各論段階では、「安全性が確認されていない」「前例がない」などの口実で規制改革はなかなか進んでいないように見える。
“原則=規制”の日本経済では、サプライサイドの企業・産業が沸き立つわけがない。これではいままでと同じである。
新しいマーケットを創り起こそうとする企業・産業の現場は、下手をすれば規制にもたれかかり、リスクを取らない習い性になる。「あれをしてはいけない」、「これをしてはまずい」、では“何もしないほうが偉い”と奨励しているようなものであるからだ。
金融緩和では、「(従来と)次元が違う」という表現を使ったが、規制改革でも「次元が違う」行動を見せてほしい。
■「規制改革をやるから企業はリスクを取れ」と覚悟を示せ
その昔の1960年代、当時の通産省は脆弱だった自動車産業の合併など再編統合を促進し、新規参入などは禁止するというバリバリの規制を行う法律をつくろうとしていた。
それに猛烈に反対し、自動車に新規参入を果たしたのがホンダである。
「通産省に言われたことと全部違うことをやってきた。だから、ホンダの今日がある」
後に、ホンダの創業者・本田宗一郎はそう語ったとされている。
ホンダが、東京・青山に本社ビルを初めてつくった時に、本田宗一郎は「ビルのなかは居抜きにしておけ」と命じたといわれる。
テナントなどを入れると売却する時に面倒だ、という意味だった。つまり、“会社などはいつ傾くかわからないから、いつでも売れるようにしておけ”、と。
“企業とはリスクを取るものだ”、という考え方が貫かれている。
いまの日本の企業の代表格であるトヨタにしても、戦前・戦後の苦難期には身内からも「トヨタ(財閥)をつぶす気か」という批判・非難があったとされている。
自動織機でせっかく成功したのに自動車のようなカネを食う“道楽”に血道を上げて何をしているのか、という批判・非難だ。
リスクを取った経営者(豊田喜一郎)がいたからいまのトヨタの世界的な成功がある。
アベノミクスでは、「安倍内閣は次元の異なる規制改革を行う」と宣言すべきである。政府は政府でリスクを取る。そして、安倍内閣は、「リスクを取る企業を応援する」、と。
だから、「企業はリスクを取って新規マーケットを創り起こすチャレンジをしてくれ」という立場を示すことが必要だろう。
要は、最後は覚悟である。覚悟がなければ、超金融緩和による「円安株高」の次元にとどまり、アベノミクスは“見せかけの経済政策”という非難・批判を撥ね返せないことになりかねない。
(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
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2013年05月31日