■安いナショナリズムがもたらすもの
尖閣諸島をめぐるニュースが何かと騒がしい。
中国が執拗に挑発行動を繰り返している。日本のメディアは一切無視したらどうだろうか。
中国は大国というか膨大な国土を所有している。国境線が膨大に長い。強みでもあろうが、弱みでもある。
国境線はたえずモメるから、その“防衛”には膨大な人員、カネがかかる。
いまの国境線を守ると称して隣国の国境線を押し戻したり掠めたりと「膨張主義」になる。国土膨張エネルギーは歯止めのないものになりかねない。
中国もそれに韓国も、そして実は日本もそうだが、いまの政治の指導者は苦労をしていない世代である。
中国でいえば、周恩来、ケ小平といった苦労を重ねた世代は去り、深い知恵はそう求められないのではないか。
「愛国教育」とか安っぽいナショナリズムに走る。国境線は安いナショナリズムに火がつく問題だから、これは片付かない問題になる。
■尖閣諸島問題の発火点
いまの尖閣諸島をめぐる問題は、石原慎太郎・前都知事が尖閣諸島を購入すると言い出したことが発火点である。
――東京都が、民間からの寄付も加えて所有者の地主から購入、港湾をつくるというのがその骨子。
これに慌てたのが当時の野田(佳彦)内閣だ。中国の反発を恐れるあまり、国が尖閣諸島を購入し国有化した。
民間の地主から他の民間人に所有が移るのがいちばんのあるべき姿だった。他の島々と同じように必要なら自治体などが粛々と港湾をつくればよいだけに話である。
石原・前都知事が自分のおカネで尖閣諸島を買うというなら、それはまだ道理があったのではないか。
沖縄県が“一時預り”の格好で買うというならわからないでもない。だが、東京都が尖閣諸島を買うというのは大きな無理があった。
野田内閣は言うに及ばず、小泉(純一郎)さんなど歴代の首相経験者を含めて、それを誰も諭すことがなかった。「石原さん、それは筋が違うのではないか――」。知恵や道理を説く人が存在しなかった。
これが中国の膨張主義に口実を与えたことを見逃してならない。
(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
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2013年09月21日