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2014年03月18日

【小倉正男の経済羅針盤】「第1の矢」だけでは限界、黒田・日銀総裁のジレンマ

■第二弾の金融緩和に踏み込む

小倉正男の経済羅針盤 日銀の黒田東彦総裁は、現行の量的・質的金融緩和について、「必要あれば調整を行う」と発言――。さらに、「その調整に限界があるということはない」と。

 これは日銀総裁に就任してちょうど1年を経過するに当っての抱負を語ったものだ。黒田総裁は「調整」、すなわち第二弾の金融緩和を行う腹だなと素直に受け取ってよい。

 4月には消費税が上がる。消費税増税をテコにした先食いの仮需が一巡する。つまり、4月を境に消費や設備投資が大きく低迷するのは確実である。

 そうなれば第二弾の量的・質的金融緩和に踏み込むタイミングということになる。その時期は5〜6月頃になるのではないかとみられる。

 黒田総裁は、昨年4月に異次元といわれる金融緩和を行った。2年後をメドにマネタリーベースを2倍に拡大、消費者物価を2%上昇させる、という野心的なものだった。

 デフレ克服への「バズーカ」と騒がれた。当初は、その効果で為替が円安に大きく振れ、株価を押し上げた。

 いまはその効果が剥げ、少し厳しく言えば一時の勢いを失った状況になっている。

 「戦力の逐次投入はしない」――。黒田総裁は異次元金融緩和時にそう語っている。黒田総裁には有言実行の面がある。量的・質的金融緩和第二弾もおそらく大胆なものになる。

■金融緩和の見返りは大手企業の賃上げ

 黒田総裁が行った異次元金融緩和は、アベノミクスの「第1の矢」――。
これが円安をもたらし、日本の主力産業である自動車関連などの大手製造業の収益改善を促進したのは間違いない。

 これによりこの春、曲がりなりにも大手企業はほとんど死語となっていたベースアップ=賃上げに踏み切った。大手企業労組の一部には、笑ってしまうが、賃上げ交渉の実務をほとんど忘却し、にわかに団体交渉術などを「学習」した向きもあったとか。

 安倍内閣は、円安など大手企業の外部環境を改善した。「今度は企業の番だ」、安倍内閣は大手企業になり振り構わず賃上げを要請した。

 円安の見返りは賃上げということで、いわば無理やり賃上げを呼び込んだわけである。

■それでもはびこるデフレ

 それでもデフレははびこっている。

 消費税増税後に金融緩和第二弾を大がかりに放っても、当面の効果は大きくても持続的かどうか、という問題は残る。デフレは頑強で、その克服はそう簡単ではない。

 黒田総裁はすでにそのジレンマを指摘している。

 以前に黒田総裁は、待たれるのは新産業育成などの経済成長戦略、すなわち「第3の矢」だ、と述べている。

 経済成長力の底上げ努力がなければ、消費者物価2%アップというインフレ目標はほとんど遠い蜃気楼のようなものでしかない。

 「第1の矢」は空中戦のようなものだ。しかし、「第3の矢」は陸戦、地上戦である。規制緩和ひとつ取っても、抵抗勢力は半端ない。果たしてそれでもアベノミクスに陸戦、地上戦をやり抜く決意はあるのか。

 黒田総裁は、「第1の矢」=金融緩和だけでは限界があるとはっきりと告白しているのだ。このシリアスな告白に応えなければ、アベノミクスそのものが戦力の逐次投入になる。

 アベノミクスのゴールは、大手企業ベースの収益回復・賃上げにとどまるのか。そうであるならば、アベノミクスはこの春でおおよそ賞味期限完了ということになる。

 そうではなく20年の長きに及んだ「失われた時」を克服して日本経済再生に切り込むのか。
 「第3の矢」が有効に放たれないのなら、黒田総裁の金融緩和は異次元といってもコケおどしに終わらざるをえない――。すでにそう見切る向きが増加している。

 そうした大方の思いを裏切ってみせられるか。アベノミクスの真価はいかなるものか?いまそこが問われている。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)

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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 12:42 | 小倉正男の経済コラム