■株式への運用が劇的に増加、国債は減少
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資金運用に変化が起こっている。端的にいえば、株式への資金運用が増加し、国債への運用が減少している。
その変化たるや、顕著というか、むしろ「劇的」といってよいかもしれない。
GPIFは現状129兆円の運用資産を持ち、「世界最大クラスの機関投資家」といわれる。
それだけにその運用の劇的変化には、国内のみならずアメリカの株式市場などからも注目を集めている。
GPIFの前2013年度の運用資産は126兆5771億円、収益は10兆2207億円(収益率8・64%)。2012年度に続いて大きな収益(利回り)を確保している。
2013年度の運用内訳は、国内債券55・43%、国内株式16・47%、外国債券11・06%、外国株式15・59%――。
利回りの好転は、株式への運用が16%台に増加し、国内債券(国債)が60%を大きく割り込んだことが貢献している。アベノミクスによる株式市場の復活とシンクロナイズした成果である。
■株式が20%台乗せ、国債は50%台割れの動き
今2014年度のGPIFの資金運用では、国内株式への運用が上限とされてきた18%を超えて20%台に増加する見込みである。
一方、国内債券、すなわち国債への運用は下限とされる52%を下回り、50%台を割り込むと見られる――。どうやら、そんな動きになっている。
国債金利たるや10年もので0・5%。おおよそほとんど「ゼロ金利」といってよい。GPIFの国債への運用もそうだが、日銀の国債大量買付けなどでこの「ゼロ金利」を維持してきている。
極端に低い利回りでも国債をせっせと買ってくれる「金融インフラ」がつくられている。これにより国は公共投資資金を賄い、為替を「円安」に誘導する動きをとってきている。
■円安で貿易収支、経常収支が過去最大の赤字化
この先はまだ見えないが、いまの円安を是正する動きが出てこないだろうか。
2014年上期の貿易収支は7兆5984億円の赤字、経常収支は5075億円の赤字――。いずれも過去最大の赤字である。
円安になったが輸出は思うような増加はなかった。工場・生産拠点がグローバル配置になり、円安で輸出が増える構造ではなくなっている。
一方、輸入は原油価格の100ドル超への上昇が災いしている。しかも円安が追い討ちとなり超割高な輸入主力品=LNG(液化天然ガス)を買わざるをえない構造になっている。
これにより円安のもとで、貿易収支、経常収支とも記録的な赤字となっている。
円安で輸出売り上げを伸ばそうとしたが不発だった。それなら円高にして、輸入を金額ベースで圧縮する――。
差し引きで貿易収支、経常収支を回復させる。先行きには、そうしたアプローチもありうるのではないか。
■アメリカの公的年金OASDIは国債に資金運用を限定
アメリカの公的年金であるOASDI(老齢・遺族・障害年金保険制度)の社会保障信託基金に触れておきたい。OASDIの資金運用はすべてアメリカ国債、しかも市場には流通していない「特別債券」に充当されている。
かねてOASDIの資金が株式市場に入れば、政府が民間企業の大株主になり、民間企業への「介入」になりかねないという配慮があったといわれている。ただし、アメリカ国債金利は、過去に10%を軽く超える時期があったように利回りは相当に高かった。
OASDIの運用利回りは現状でも過去に買った特別債券の恩恵で4%台の利回りを得ていると見られる。
ただし、問題はこの先だ。リーマンショックを経て、アメリカ国債金利も低下し、現状は10年物で2・4%程度。このままでは資金運用は破綻する――、と低金利見直し=金融政策転換を促している。
もちろん、カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)などの州ベースの年金基金は、OASDIとは異なり株式への資金運用を主力としている。
公的年金の資金運用は、国によってそれぞれ異なる。日本のGPIFはGPIFで独自の動きをたどることになる。その動きが内外からにわかに注目されていることは興味深い。
(経済ジャーナリスト・評論家、『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
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2014年08月15日