TAC<4319>(東1)は「資格の学校」運営を主力としている。出版事業の好調などで16年3月期業績予想に増額余地があり、新規事業領域への展開も強化して収益改善基調である。株価は地合い悪化も影響して軟調展開だが、売られ過ぎ感を強めて反発のタイミングだろう。なお2月5日に第3四半期累計(4月〜12月)の業績発表を予定している。
■財務・会計分野を中心に幅広い分野で「資格の学校」を運営
財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)、その他分野(情報・国際、医療・福祉など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営している。また法人研修事業、出版事業、人材事業も展開している。
■M&Aも積極活用して新規事業領域への展開を強化
財務・会計、経営・税務、法律など既存領域の市場が縮小傾向のため、中期成長に向けて、オンライン教育サービス(Webなどの通信系講座)や、M&Aも積極活用して教員、医療、介護、語学など新領域への事業展開も強化している。
13年12月に増進会出版社(子会社のZ会が通信教育事業などを展開)と資本業務提携し、当社の教室運営ノウハウや資格系コンテンツ開発力と、増進会出版社の通信教育ノウハウや教養系コンテンツ開発力を融合させたソリューションの提供を目指している。なお14年8月には増進会出版社が第2位株主となって資本関係を強化した。
14年6月には、レセプト点検・整理業務を中心に医療機関事務分野の人材サービスを展開するクボ医療(兵庫県加古郡)と、医療事務に関する労働者派遣事業・レセプト作成請負業務を展開する医療事務スタッフ関西(兵庫県神戸市)を子会社化した。
14年11月に関西の4校舎で「医療事務講座」を開講し、14年12月には子会社TAC医療事務スタッフを設立した。クボ医療および医療事務スタッフ関西を子会社化し、自ら育成した医療機関系人材を幅広い医療機関に提供することが可能になったため、関東エリアでも医療事務スタッフ派遣事業や診療報酬請求事務請負事業を展開する。
14年11月にはトーハン・コンサルティングとの業務提携と介護系資格取得支援事業の開始を発表し、15年1月にトーハン・コンサルティングが展開する介護系資格取得教室を、当社の主要校舎において「介護教室ケアマイスター TAC教室」の名称で開講した。
15年1月には「相続アドバイザー講座」の開講を発表した。銀行業務検定のうち相続アドバイザー3級は14年3月から実施された新しい試験である。15年から相続税および贈与税の税制改正が行われたため、初回試験の受験者が約1万人に達する注目度が高い試験だ。
15年3月には、一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)公認で、日本初の大規模公開オンライン講座提供サイト「gacco(ガッコ)」に対して、無料の実務・資格講座を提供すると発表した。
15年4月には日本商工会議所と連携し「高等学校日商簿記学習支援プログラム」を開始した。日商簿記検定試験の高等学校向け教育支援の一環として、個人向け・法人向けに販売している当社の日商簿記教育コンテンツの基本講義部分を高等学校向けに無償で提供する。これによって日商簿記検定試験の一層の普及促進を図るとしている。
15年7月にはTMMCの株式12.5%を取得して資本業務提携した。当社グループの医療医務人材サービスと、TMMCの病院経営・業務改善コンサルテーションサービスおよびレセプトチェックサービスを融合し、病院・診療所・クリニック等への販路拡大を推進する。
15年9月にはパイプドビッツと協業して「ストレスチェック義務化トータルソリューション」サービスを提供すると発表した。従業員50人以上の全事業所にストレスチェック実施を義務付ける改正労働安全衛生法(ストレスチェック義務化、15年12月1日施行)に対応したサービスである。
なお15年10月には、15年8月に開示した桐原書店(東京都)の事業全部譲受の中止を発表した。桐原書店の代表的な出版物についての出版権が期日までに移転されないことが確実になったため、事業譲受の目的の実現が不可能と判断した。そして11月には事業譲受のために設立したTAC桐原書店を解散すると発表した。16年3月期業績予想に織り込んでいないため事業譲受中止の業績への影響は軽微としている。
■四半期業績は季節変動の特徴
当社の四半期業績は、資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係などで季節変動の特徴がある。第2四半期(7月〜9月)と第3四半期(10月〜12月)の公認会計士・税理士講座は、翌年受験のための受講申込が集中する時期となるため、現金ベース売上高が突出して多くなるとともに、翌四半期に向かって前受け金として繰り越されることから、発生ベース売上高の増加が少なくなる傾向がある。
また第4四半期(1月〜3月)から第1四半期(4月〜6月)にかけては、夏・秋の本試験時期に向けて全コースが出揃う時期にあたり、稼働率の上昇から前受金戻入額が増加することを通じて発生ベース売上高が増加する傾向にある。こうした売上の傾向に対して、売上原価や営業費用は毎月一定額計上されるため、四半期ごとの営業利益が変動しやすい。
15年3月期の四半期別の推移を見ると、売上高は第1四半期(4月〜6月)54億04百万円、第2四半期(7月〜9月)49億56百万円、第3四半期(10月〜12月)43億91百万円、第4四半期(1月〜3月)47億84百万円、売上総利益率は第1四半期44.4%、第2四半期39.4%、第3四半期31.1%、第4四半期35.1%、営業利益は第1四半期5億75百万円、第2四半期2億12百万円、第3四半期4億28百万円の赤字、第4四半期2億19百万円の赤字だった。
15年3月期の受講者数は、個人受講者が同7.0%減の13万147人、法人受講者が同3.0%増の6万4507人、合計が同3.9%減の19万4654人だった。15年3月期のROEは4.9%で14年3月期比17.0ポイント低下、自己資本比率は20.6%で同1.7ポイント低下した。配当性向は8.9%だった。
■16年3月期第2四半期累計は期初計画を上回る増収増益
今期(16年3月期)第2四半期累計(4月〜9月)の連結業績は、売上高が前年同期比2.3%増の105億96百万円、営業利益が同33.5%増の10億52百万円、経常利益が同12.1%増の10億46百万円、純利益が同12.3%増の6億44百万円だった。期初計画を上回る増収増益だった。
法人研修事業や出版事業の好調が牽引する形で、売上高は5期ぶりに前年比プラスを達成した。差引売上総利益率は43.9%で同1.9ポイント上昇、販管費比率は34.0%で同0.4ポイント低下した。営業外収益では投資有価証券運用益が減少したが、営業外費用では支払手数料と持分法投資損失が一巡した。なお中間配当(1円)を5期ぶりに実施した。
セグメント別に見ると個人教育事業は売上高が同2.0%減の67億92百万円、営業利益が同9.1%増の4億57百万円、法人研修事業は売上高が同3.8%増の23億44百万円、営業利益が同5.7%増の6億99百万円、出版事業は売上高が同24.7%増の11億48百万円、営業利益が同61.3%増の3億93百万円、人材事業は売上高が同25.7%増の3億42百万円、営業利益が同2.3倍の35百万円だった。
個人教育事業における教室系・通信系の売上構成比は、教室系が前期60.0%から今期58.5%に低下し、通信系が41.0%から41.5%(うちWeb・DLが23.2%から25.3%)に上昇した。
受講者数を見ると、個人受講者が同1.6%増の8万5565人、法人受講者が同15.4%増の4万730人、合計が同5.7%増の12万6295人だった。分野別には財務・会計分野が同0.2%減、経営・税務分野が同2.3%増、金融・不動産分野が同13.6%増、法律分野が同0.1%減、公務員・労務分野が同3.7%増、情報・国際・医療・福祉・その他分野が同12.8%増だった。
出版事業では、資格試験市場の多様化に対応すべく、書籍・メディア・TACの模試やオプション講座・オリジナルフォローを融合した独学で試験にチャレンジする方向けに開発した「独学道場」や、見やすさ・理解しやすさという新たな商品価値を付加した初のフルカラー書籍(簿記・宅建士・FPなど)が好調に推移するなど、出版業界の慣習にとらわれないさまざまな施策の結果が売上に結びついてきている。
なお四半期別の推移を見ると、売上高は第1四半期(4月〜6月)55億92百万円、第2四半期(7月〜9月)50億04百万円、営業利益は第1四半期8億08百万円、第2四半期2億44百万円だった。
■16年3月期業績予想に増額余地
今期(16年3月期)通期の連結業績予想(5月14日公表)は、売上高が前期比2.2%増の199億61百万円、営業利益が同4.5倍の6億30百万円、経常利益が同47.0%増の5億94百万円、純利益が同80.3%増の3億75百万円としている。配当予想は同1円増配の年間2円(第2四半期末1円、期末1円)で予想配当性向は9.9%となる。
消費増税前駆け込み申込の反動減の影響一巡、日本商工会議所との連携による簿記受検者層の掘り起こし、医療事務コースの本格開講および医療系人材事業の推進、業務効率化・標準化の推進による外注費・人件費抑制、講師料の見直し、スクール規模の最適化による賃借料削減などの施策を推進して、営業損益が大幅に改善する見込みだ。差引売上総利益率は同38.5%、販管費比率は35.3%の計画としている。
通期会社予想に対する第2四半期累計の進捗率は売上高が53.1%、営業利益が167.0%、経常利益が176.1%、純利益が171.7%である。第1四半期の利益構成比が高い収益構造であることを考慮しても高水準だ。通期会社予想を据え置いているが、増進会出版社との提携効果の本格寄与や、新講座など新規事業領域の収益化も期待される。景気回復に伴って財務・会計系の求人ニーズが高まっていることも追い風だ。通期業績会社予想に増額余地があるだろう。
なお11月30日に和解による訴訟の解決および特別利益の発生を発表している。ハンド社(大阪市)との税務申告ソフト「魔法陣」に関する総代理店取引契約に基づく地位の確認を求める訴えを大阪地方裁判所に提起していたが、裁判上の和解が成立した。
主な和解内容は「当社とハンド社の総代理店取引契約は16年3月31日を以って合意解約する」「ハンド社は当社に対して合意解約に伴う売上補償として1億20百万円を支払う」で、売上補償の1億20百万円は来期(17年3月期)の特別利益に計上する予定だ。
中期成長に向けて、オンラインスクールによる売上創出、医療系人材事業の推進、TMMCとの資本・業務提携効果、建築士口座の売上拡大、Z会との連携による語学事業への注力、シナジー効果が見込めるM&A案件への積極的取り組みによる新規事業の開拓などに取り組んでいる。収益改善基調だろう。
■株価は売られ過ぎ感
株価の動きを見ると地合い悪化も影響して軟調展開だ。200円台でのモミ合いから下放れの形となり、1月21日には13年6月以来となる191円まで下押した。ただし売られ過ぎ感を強めている。調整の最終局面だろう。
1月21日の終値191円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS20円27銭で算出)は9〜10倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間2円で算出)は1.1%近辺、そして前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS236円95銭で算出)は0.8倍近辺である。時価総額は約35億円である。
週足チャートで見るとモミ合い下放れて200円近辺の下値支持線を割り込む形となったが、日足チャートで見ると25日移動平均線に対するマイナス乖離率が10%を超えて売られ過ぎ感を強めている。16年3月期業績予想に増額余地があり、収益改善基調や新規事業領域への積極的な展開を見直して反発のタイミングだろう。
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2016年01月22日
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