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2016年06月16日

生化学工業は自己株式取得とSI−6603の海外ライセンス基本合意を発表

 生化学工業<4548>(東1)は関節機能改善剤アルツが主力の医薬品メーカーである。15日に自己株式取得とSI−6603の海外ライセンス基本合意を発表した。17年3月期は薬価改定や円高の影響で減収減益予想だが、高齢者人口増加を背景として中期的に関節機能改善剤の需要拡大が期待される。株価は地合い悪化も影響して戻り一服の形だが、自己株式取得も好感して出直り展開が期待される。

■関節機能改善剤アルツなど糖質科学分野が主力の医薬品メーカー

 糖質科学分野が主力の医薬品メーカーで、国内医薬品(関節機能改善剤アルツ、白内障手術補助剤オペガン、内視鏡用粘膜下注入材ムコアップ)、海外医薬品(米国向け関節機能改善剤スパルツ、米国向け単回投与関節機能改善剤ジェル・ワン、中国向けアルツ)、医薬品原体(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸)、LAL事業(エンドトキシン測定用試薬関連)を展開している。高齢者人口増加を背景に関節機能改善剤の需要拡大が期待される。

 内視鏡用粘膜下注入材ムコアップについては販売提携先を変更し、16年4月から新たにボストン・サイエンティフィック・ジャパンと日本国内における独占販売契約を締結した。ボストン・サイエンティフィックのエンドスコピー事業は、消化器疾患ならびに肺疾患治療用機器の世界的リーダーである。

 海外は重点地域の米国での事業展開加速に向けて、14年10月の米国駐在員事務所開設に続き、15年5月に北米戦略室を新設した。製品認知度向上策や製品価値向上策で販促を強化し、LAL事業の拡大も推進する。

■新薬開発は糖質科学分野に焦点

 09年3月策定の「生化学工業10年ビジョン」に基づいて、研究開発は糖質科学分野(糖鎖や複合糖質を研究する科学分野)に焦点を絞り、国際競争力を確立する「グローバル・カテゴリー・ファーマ」としての発展を目指している。開発中の新薬としては、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI−6603(コンドリアーゼ)、変形性膝関節症改善剤SI−613(NSAID結合ヒアルロン酸)、ドライアイ治療剤SI−614(修飾ヒアルロン酸)がある。

 腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI−6603は、日本で14年1月に製造販売承認申請して審査継続中である。米国・欧州では15年4月に安全性評価を主目的としたオープン試験を開始し、15年7月にフェーズ3試験の症例登録を完了した。現在は経過観察中である。

 6月15日にはスイスのフェリング社と、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI−6603の海外におけるライセンスに関する基本合意書の締結を発表した。米国を中心とした海外での独占的販売等のライセンス契約を締結することを前提としたもので、正式契約は17年3月期上期中を予定している。なお日本における独占的販売契約については、12年12月に科研製薬<4521>と締結している。

 変形性膝関節症改善剤SI−613は、日本で14年10月フェーズ2試験(反復投与)の治験届を提出し、15年7月症例登録が完了、16年1月フェーズ2試験(反復投与)が終了した。現在は取得したデータの解析を実施中である。ドライアイ治療剤SI−614は、米国・欧州で15年1月フェーズ2・3試験が終了した。次相試験について検討中である。

 16年2月にはジェネリック医薬品である眼科手術補助剤「シェルガン0.5眼粘弾剤」の製造販売承認を取得した。当社製品である眼科手術補助剤オペガンと同様に参天製薬<4536>が販売し、16年6月の薬価基準収載後の発売に向けて準備を進める。

■品揃え充実で重点地域の米国におけるプレゼンスを強化

 15年12月には、変形性膝関節症を適応症とする医療機器「VISCO−3」について、米国食品医薬局(FDA)の承認取得を発表した。ヒアルロン酸主成分とする関節機能改善剤で、1治療あたり3回投与の3本キット製品である。14年3月から3回投与の競合製品との非劣性臨床試験を実施して、FDAの承認を新たに取得した。

 米国では高齢化に伴って関節機能剤の市場拡大が予想されているため、単回投与製品「Gel−One」、5回投与製品「SUPARTZ FX」(15年10月にSUPARTZからブランド名変更)に加えて、3回投与製品「VISCO−3」を新たに市場投入し、成長戦略における重点地域である米国に置いてプレゼンス強化を図っている。

■薬価改定、為替、研究開発費などが影響する収益構造

 収益は販売数量、薬価改定、為替、研究開発費、受取ロイヤリティーなどが影響する。16年3月期連結業績は15年3月期比4.9%増収、10.0%営業減益、12.7%経常減益、29.4%最終減益だった。ジェル・ワン数量増などで増収だが、米国SI−6603オープン試験組み入れが想定よりも進展して研究開発費が想定以上に増加した。平均為替レートは1ドル=120円14銭(10円20銭のドル高・円安)で売上高への影響額は約11億円だった。

 売上総利益率は58.4%で同0.5ポイント低下、販管費比率は51.5%で同0.7ポイント上昇した。減価償却費は同22.3%増の31億91百万円、研究開発費は同6.2%増の86億49百万円だった。営業外収益では受取ロイヤリティーが増加(15年3月期2億41百万円計上、16年3月期3億61百万円計上)したが、為替差損益が悪化(15年3月期は差益5億46百万円計上、16年3月期は差損25百万円計上)した。なお一過性の税率低減要因(米国子会社有償減資に伴う税率減)が終了したため16年3月期は税金費用が増加した。ROEは3.7%で同1.7ポイント低下、自己資本比率は87.0%で同横ばいだった。

 配当は15年3月期と同額の年間26円(第2四半期末13円、期末13円)で配当性向は57.3%だった。株主還元については、超長期的な視点に立って安定的かつ継続的な配当を目指し、1株当たり年間26円を継続する方針としている。また今後の事業展開や総還元性向を勘案しながら、自己株式の取得を適宜検討するとしている。

 セグメント別売上高は、医薬品事業が同3.5%増の255億18百万円(国内医薬品が同0.2%増の169億28百万円、海外医薬品が同15.1%増の73億円、医薬品原体が同8.4%減の12億89百万円)、LAL事業が同11.7%増の54億44百万円だった。海外売上高は同15.8%増の115億81百万円、海外売上比率は同3.5ポイント上昇の37.4%となった。

 国内医薬品では、関節機能改善剤アルツが後発品使用促進の影響を受けたが、販売提携先の拡販努力などで微増収だった。海外医薬品では、米国向け単回投与関節機能改善剤ジェル・ワンが現地販売の増加に円安も寄与して増収だった。米国向け関節機能改善剤スパルツFX(15年10月スパルツFXにブランド名変更)は3回投与の競合品が伸長する中で、販売提携先の拡販努力によって現地販売が前年同期並みを維持し、円安効果で換算売上が増加した。米国VISCO−3は販売提携先を選定中である。中国向けアルツは政府主導による公定価格制度廃止の影響で現地販売が減少したが、販売提携先が在庫水準を高めたことと円安効果で増収だった。

 なお16年3月期の四半期別の推移を見ると、売上高は第1四半期(4〜6月)77億62百万円、第2四半期(7〜9月)81億92百万円、第3四半期(10〜12月)74億83百万円、第4四半期(1〜3月)75億25百万円、営業利益は第1四半期8億83百万円、第2四半期11億67百万円、第3四半期6億93百万円、第4四半期5億99百万円の赤字だった。

■17年3月期は減収減益予想

 今期(17年3月期)の連結業績予想(5月12日公表)については、売上高が前期(16年3月期)比4.6%減の295億50百万円、営業利益が同53.4%減の10億円、経常利益が同4.3%減の33億50百万円、純利益が同1.1%減の25億50百万円としている。配当予想は前期と同額の年間26円(第2四半期末13円、期末13円)で予想配当性向は57.9%となる。国内における薬価改定やドル安・円高の影響で減収減益予想としている。想定為替レートは1米ドル=110円、為替感応度(1米ドル1円変動時の年間影響額)は売上高で約1億円、営業利益で約40百万円である。

 セグメント別売上高の計画は、医薬品事業が同4.8%減の243億円(国内医薬品が同6.1%減の159億円、海外医薬品が同0.7%増の73億50百万円、医薬品原体が同18.5%減の10億50百万円)、LAL事業が同3.6%減の52億50百万円としている。海外売上高は同1.6%減の114億円としている。ドル安・円高の影響額は約10億60百万円を見込んでいる。

 国内医薬品は、薬価引き下げの影響で減収を見込んでいる。ただし関節機能改善剤アルツの新容器(16年4月プラスチックシリンジのルアーフィットタイプ)投入による営業強化、眼科手術補助材の新製品シェルガンの市場投入(16年7月)、ムコアップの販売提携先変更(16年4月)などの効果で数量ベースは微増を見込んでいる。SI−6603の売上は織り込んでいない。海外医薬品は競争激化で米国スパルツFXの現地販売が減少し、ドル安・円高も影響するが、米国ジェル・ワンの数量増効果で前期並みを見込んでいる。

 コスト面では減価償却費や研究開発費が減少するが、薬価改定、ドル安・円高、米国関連費用の増加などで大幅営業減益見込みだ。売上総利益率は同0.4ポイント低下の58.0%、販管費比率は同3.2ポイント上昇の54.7%、減価償却費は同6.0%減の30億円、研究開発費は同2.9%減の84億円の計画である。経常利益と純利益は、営業外で受取ロイヤリティーが大幅に増加するため、ほぼ前期並みの見込みとしている。

 なお6月15日発表したスイスのフェリング社とのSI−6603海外ライセンス基本合意書締結に関しては、正式契約(17年3月期上期中に締結予定)によってフェリング社から契約締結一時金5百万米ドルを受け取り、開発や販売等の進捗に応じて今後も複数年にわたりマイルストーン型ロイヤリティーを受け取る予定だが、本件による17年3月期業績への影響は織り込み済みとしている。

■新中期経営計画を策定

 16年5月策定の新中期経営計画(17年3月期〜19年3月期)では、4つの重点戦略として、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI−6603の確実な進展、変形性ひざ関節症市場におけるリーディングカンパニーとしての進化、開発パイプラインの充実、最適な生産・品質管理体制の追求を掲げている。

 腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI−6603の確実な進展では、日本での上市と拡販、および潜在市場規模の大きい米国での事業化を目指す。変形性ひざ関節症市場におけるリーディングカンパニーとしての進化では、成長ドライバーであるジェル・ワンの米国売上拡大と新規市場展開、製品改良による国内アルツの販売数量維持、次世代品となる関節機能改善剤SI−613の開発を推進する。開発パイプラインの充実では、糖質科学分野において他社を凌駕する基盤技術の保持、探査研究の加速、持続的な開発テーマの創製を推進する。最適な生産・品質管理体制の追求では、製品の安定供給、さらなる生産効率化の推進によって原価低減を実現する。

 経営目標値には、19年3月期売上高320億円、営業利益25億円、経常利益45億円を掲げた。想定為替レートは1米ドル=110円で、海外事業の拡大(海外売上高比率45%)によって国内薬価改定による減収をカバーし、研究開発費は高水準(対売上高比率25%〜30%)で推移する。また各種受取ロイヤリティーを営業外収益として織り込んでいる。

■6月15日に自己株式取得を発表

 16年5月31日付で自己株式177万株(消却前発行済株式総数に対する割合3.02%)を消却した。

 また6月15日に自己株式取得を発表した。取得株式総数の上限20万株(自己株式除く発行済株式総数に対する割合0.35%>、取得価額総額の上限4億円、取得期間16年7月1日〜16年7月29日としている。

■株価は地合い悪化も影響して戻り一服だが、自己株式取得も好感して出直り

 株価の動きを見ると、地合い悪化も影響して戻り一服の形だが、17年3月期の減収減益予想を嫌気した売りは一巡しているようだ。

 6月15日の終値1510円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS44円89銭で算出)は33〜34倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間26円で算出)は1.7%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1229円05銭で算出)は1.2倍近辺である。時価総額は約858億円である。週足チャートで見ると26週移動平均線を割り込んだが、自己株式取得も好感して出直り展開が期待される。(アナリスト水田雅展)



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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 07:31 | アナリスト水田雅展の銘柄分析