TAC<4319>(東証スタンダード)は「資格の学校」運営を主力として、出版事業や人材事業も展開している。中期成長に向けて、主力の教育事業では事業環境変化に対応した新サービスの提供、出版事業では新規領域への展開、人材事業では医療事務関連の子会社を統合してサービス向上と業務効率性向上を推進している。24年3月期第2四半期累計は減収減益だった。法人研修事業は堅調に推移したが、個人教育事業では民間企業による若手人材の積極採用などに伴い学生の申し込みが低調だった。ただし通期の2桁営業増益予想を据え置いた。個人教育事業の早期回復、新たな事業領域への挑戦、株価資産倍率(PBR)改善施策などに取り組む方針としている。第2四半期累計は減益だったが、通期ベースでは積極的な事業展開により収益回復を期待したい。株価は小動きだが徐々に下値を切り上げている。1倍割れの低PBRや高配当利回りも評価材料であり、出直りを期待したい。
■「資格の学校」を運営
財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)、その他分野(情報・国際、医療・福祉など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営する個人教育事業、法人研修事業を主力として、出版事業や人材事業(会計系、医療系)も展開している。さらに成長戦略として新事業領域への展開も推進している。
23年3月期のセグメント別構成比(調整前)は、売上高が個人教育事業52%、法人研修事業23%、出版事業23%、人材事業3%で、営業利益が個人教育事業▲91%、法人研修事業82%、出版事業103%、人材事業6%だった。
■教育事業は事業環境変化に対応して新サービス提供を推進
23年3月期の教育事業受講者数は22年3月期比4.1%減の19万6706人(個人が4.7%減の11万2628人、法人が3.3%減の8万4078人)だった。
分野別売上高(前受金調整後)構成比は財務・会計分野が19.5%、経営・税務分野が16.1%、金融・不動産分野が23.4%、法律分野が6.5%、公務員・労務分野が20.0%、情報・国際分野が8.2%、医療・福祉分野が1.3%、その他分野が5.0%だった。
コロナ禍による事業環境変化に対応し、オンライン学習環境の強化(WEB SCHOOLの機能拡充など)や、法人向け研修における多様な受講方法の整備、新たなサービスの提供、オンライン受講の増加に伴う直営校の床面積の適正化などに取り組んでいる。法人研修分野ではWEB会議システムを利用した研修が多くの企業で定着している。
なおプロeスポーツチーム「忍ism Gaming」とスポンサー契約を締結して22年10月から活動開始した。引退者のセカンドキャリアについても、資格という側面から貢献したいとしている。22年11月には人生100年時代に役立つ「実用講座」を開講した。当複業(副業、起業、兼業)や、知っておきたい知識シリーズ(株式投資、介護等)など6分野で開講し、順次拡大予定としている。
23年1月には「TAC CBT(Computer Based Testing=コンピュータ試験)およびIBT(Internet Based Testing=インターネット試験)システム」によるテスト配信サービスの開始を発表している。21年3月より日本全国の主要都市に直営校舎を持つ強みを生かした「TACテストセンター」サービスを行っているが、さらにCBTおよびIBTシステムを用いた試験問題の配信や採点等を行う「TAC CBTおよびIBT配信」サービスを加えることで、これまで培ってきた試験の申込受付や運営管理等のノウハウをパッケージ化した総合的なサービスを提供する。
■出版事業は事業領域拡大
出版事業はTAC出版と早稲田経営出版(W出版)が展開している。両社の合算売上高の5億81百万円(TAC出版が5億02百万円、W出版が78百万円)は出版業界12位規模(出典:2022年度丸善ジュンク堂書店出版社売上ベスト300)で、資格書籍を主力とする出版社としては有数の規模となっている。
事業領域拡大に向けて、高等学校商業科で使用する文部科学省検定済教科書(高校1年生で履修する簿記およびビジネス基礎)分野に参入した。22年4月には高等学校商業科教科書「簿記」および「ビジネス基礎」を刊行、23年4月には高等学校商業科教科書「原価計算」および「財務会計T」を刊行した。さらに今後もラインナップ拡充を推進する方針だ。
■人材事業は会計系・医療系人材紹介などを展開
人材事業は、子会社のTACプロフェッションバンクが会計系の人材紹介・派遣事業、医療事務スタッフ関西が関西エリアで医療事務に関する労働者派遣事業、診療報酬請求業務請負、診療報酬請求明細書(レセプト)点検業務を展開している。
なお23年4月に、医療事務スタッフ関西が、診療報酬請求明細書点検業務を展開するクボ医療を吸収合併した。業務の関連性が高いため、人的資源やノウハウを共有することにより、サービス向上と業務の効率性を高める方針だ。
■四半期業績に季節変動要因
四半期業績は資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係などで季節変動の特徴がある。第2四半期(7〜9月)と第3四半期(10〜12月)の公認会計士・税理士講座は、翌年受験のための受講申込が集中する時期となるため、現金ベース売上高が突出して多くなるとともに、翌四半期に向かって前受け金として繰り越されることから、発生ベース売上高の増加が少なくなる傾向がある。
また第4四半期(1〜3月)から第1四半期(4〜6月)にかけては、夏・秋の本試験時期に向けて全コースが出揃う時期にあたり、稼働率の上昇から前受金戻入額が増加することを通じて発生ベース売上高が増加する傾向にある。こうした売上の傾向に対して、売上原価や営業費用は毎月一定額計上されるため、四半期ごとの営業利益が変動しやすい。利益は期前半に集中し、下期は赤字となる収益特性がある。
■24年3月期2Q累計減益だが通期2桁営業増益予想据え置き
24年3月期連結業績予想は、売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が23年3月期比0.5%減の196億20百万円、営業利益が19.1%増の3億80百万円、経常利益が1.7%増の3億30百万円、そして親会社株主帰属当期純利益が2.2%減の2億10百万円としている。配当予想は23年3月期と同額の6円(第2四半期末3円、期末3円)としている。予想配当性向は51.8%となる。
第2四半期累計は売上高が前年同期比5.9%減の101億25百万円、営業利益が73.1%減の2億52百万円、経常利益が75.5%減の2億26百万円、親会社株主帰属四半期純利益が71.7%減の1億73百万円だった。減収減益だった。法人研修事業は堅調に推移したが、個人教育事業では民間企業による若手人材の積極採用などに伴い学生の申し込みが低調だった。
個人教育事業は、現金ベース売上高が4.0%減の54億04百万円で、現金ベース営業利益が2億29百万円の損失(前年同期は22百万円の損失)だった。法人研修事業は、現金ベース売上高が2.1%増の24億18百万円で、現金ベース営業利益が0.5%増の6億21百万円だった。
受講者数は、個人受講者が0.4%減の7万4158人、法人受講者が7.1%増の5万4737人、合計が2.7%増の12万8895人だった。講座別(個人・法人合計ベース)には、税理士講座が5.9%増、宅地建物取引士講座が7.8%増、FP講座が9.8%増、情報処理講座が23.2%増となった一方で、簿記検定講座が4.5%減、公認会計士講座が4.4%減、建築士講座が5.7%減、公務員(国家一般職・地方上級)が10.8%減となった。
出版事業(TAC出版、W出版)は売上高が12.3%減の18億67百万円、営業利益が47.0%減の3億11百万円だった。売上面は徐々に回復傾向だが、巣ごもり需要の反動減があった第1四半期の影響をカバーするまでには至らず、減収減益だった。人材事業は売上高が1.1%増の3億19百万円、営業利益が2.2%増の84百万円だった。医療系人材事業における新型コロナウイルス感染症関連業務の減少がマイナス要因だったが、会計系人材事業の広告売上や人材紹介が好調だった。
四半期別に見ると、第1四半期は売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)52億06百万円で営業利益1億23百万円、第2四半期は売上高49億19百万円で営業利益1億29百万円だった。なお、同社が重視している前受金調整前の現金ベースの売上高は第1四半期が6.3%減の44億43百万円、第2四半期が2.3%減の55億46百万円だった。
通期連結業績予想は据え置いている。個人教育事業の早期回復、新たな事業領域への挑戦、株価資産倍率(PBR)改善施策などに取り組む方針としている。第2四半期累計は減益だったが、通期ベースでは積極的な事業展開により収益回復を期待したい。
■株価は下値切り上げ
株価は小動きだが徐々に下値を切り上げている。1倍割れの低PBRや高配当利回りも評価材料であり、出直りを期待したい。11月27日の終値は204円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS11円58銭で算出)は約18倍、今期予想配当利回り(会社予想の6円で算出)は約2.9%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS341円58銭で算出)は約0.6倍、そして時価総額は約38億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)
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2023年11月28日
TACは下値切り上げ、24年3月期2Q累計減益だが通期2桁営業増益予想据え置き
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