■「ファイト イッパツ!」の大正製薬HDが非公開化へ、最高のMBO価格に隠された伏線とは
大正製薬ホールディングス<4581>(東証スタンダード・監理)のMBO(現経営陣による株式公開買い付け)のスケールは、ショッキングであった。MBO価格が、MBO発表前日の終値5517円に対して56.24%ものプレミアムが付与されて8620円に決定され、総買付代金が7700億円とこれまで最高のMBOとなったからだ。このショックを裏打ちするように株価は、このMBO価格にサヤ寄せして2日連続のストップ高を交えて8753円まで急騰し、前週末1日の引け値も8695円とMBO価格を上回った。ただ株価は、PBR0.9倍となお1倍を下回っているとクレームがついており、MBOの延長戦もありそうだ。
しかし、その肝心のMBO自体には、それほどショックを感じない投資家も少なくなかったのではないだろうか?MBOの伏線が、すでにその1年半前にあったからである。MBOの発表を目にして、「やっぱり」と1年半前を思い起したかもしれない。1年半前に何があったか?昨年4月4日の東証の市場区分再編である。同社株は、最上位市場のプライム市場の上場基準を充足していながら敢えてスタンダード市場に選択上場した。プライム市場は、世界経済をリードする企業向けの市場と設定され、世界標準の流動性とガバナンス、さらにグローバルバトルへの積極参戦が求められるが、同社は、これを忌避したとも受け取られ、それが今回のMBOによる株式の非公開化につながっているとすれば辻褄が合い「やっぱり」となる。とすれば今回のMBO後を境に、主力の栄養ドリンク剤「リポビタンD」のCMのキャッチコピー『ファイト イッパツ!』の通りにアジア市場での成長戦略推進などの経営構造改革に注力して再上場してくるか見物となる。
株式市場にとっては、同社株は、オーナー経営の大衆薬のトップ企業で無借金の好財務内容をベースに安定経営・安定配当を続けるディフェンシブ銘柄の代表であった。かつてはマーケットが波乱展開した時などは「ラストリゾート(最後の拠り所)」の安全資産銘柄として存在感を発揮したものである。投資家サイドからすれば、同社の非公開化でそうした投資選択肢の一つが消失することになり、従来の銘柄イメージが激変し、取捨選択される厳しい市場環境にもなっていることも示唆しているようである。
銘柄イメージでやや死語となりつつあるのが、「01銘柄」、「経団連銘柄」である。「01銘柄」とは、コード番号の末尾2ケタが「01」となる各業界のトップ企業で、その企業の社長、会長が「財界総理」といわれる経団連の会長に就任することが半ば恒例化していたから「経団連銘柄」とも呼ばれていた。株式市場でも、その多くは日経平均株価の構成銘柄に採用されている主力銘柄である。しかし政・官・財にメーンバンクが加わる「護送船団方式」に強固にサポートされていた産業構造を背景にしていた「ぬるま湯相場」で銘柄選択スタンスの一つだった「01銘柄」、「経団連銘柄」は、「失われた30年」のなか規制緩和、グローバル化、業界再編が進展する経営圧力による「釜茹で相場」のなかで希薄化されつつあるのも否定できない。
大正製薬HDの非公開化は、この「01銘柄」、「経団連銘柄」にも一石を投じるかもしれないのである。例えば自動車業界の「01銘柄」は日産自動車<7201>(東証プライム)で、同社の適正株価は、かつて業界トップのトヨタ自動車<7203>(東証プライム)の「七掛け」といわれていたが、現状では「二掛け」と大きく水を開けられている。また重電株の日立製作所<6501>(東証プライム)と東芝<6502>(東証プライム・監理)は、社員の末端にまで業績の好悪や株価の高安に関してライバル意識が浸透していたが、その東芝が上場廃止となる。大正製薬HDの投じた一石が、徐々に波紋を広げて大きなうねりになるとすれば、「01銘柄」、「経団連銘柄」のギャップアップ、キャッチアップを強力にプッシュすることも想定される。(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)
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2023年12月04日