■マイナス金利解除後発言で円安、株高
日銀がマイナス金利解除を発言するごとに円安、株高となっている。マイナス金利解除は、一応利上げだから円高、株安になるのが自然だが、市場はその逆に動いている。
日銀・植田和男総裁は、「(マイナス金利解除後の金融政策について)緩和的な金融環境が当面続く可能性が高い」と発言している(2月9日・衆院予算委員会)。その前日の8日には内田真一副総裁が、「(マイナス金利解除後に)どんどん利上げしていくようなパス(経路)は考えにくく、緩和的な金融環境を維持していく」。
マイナス金利解除の地ならしのつもりなのだろうが、利上げはするが大した利上げではないという趣旨を語っている。マイナス金利(政策金利マイナス0・1%)をゼロ金利にするが、その後は金融緩和を継続して様子を見るというのである。
日銀総裁、副総裁の発言後、円は1ドル=149円台になり、株価はバブル崩壊後の高値更新圏を維持している。為替、株価、いわば市場は日銀のマイナス金利解除=利上げをほとんど完璧に見透かしている。
■25万円初任給を実現する企業も出現
日銀がマイナス金利解除の拠り所にしている賃上げだが、まだ不透明である。ある建設関係の中堅空調・給水設備企業が、この1月に24年4月の大卒初任給を25万円(上げ幅10・33%)に改訂すると発表。これに伴って若手中堅社員の基本給も平均5%のベースアップを行うとしている。
政府・日銀が泣いて喜びそうな大幅な賃上げだが、こうした企業はかなり稀少である。もっともこの企業は、賃上げは「従業員満足」(ES=エンプロイーサティスファクション)の実現が目的であり、あわせて優秀な人材を確保するのが狙いとしている。何も政府・日銀におもねったというわけではない。
賃上げするには業績向上が必要だ。政府や経済団体が掛け声をかけて、いわば「社会主義」で賃上げをしようとしてもそれは無理である。25万円初任給を実現した企業には、業績の裏付けがあり、永続的な成長を目指すという思いがあったわけである。
■米国が急速かつ大幅に利下げに走ったら
マイナス金利解除=利上げは、一般に金融正常化への出口戦略といわれている。しかし、厳しくいえば出口戦略といってもほんの半歩〜一歩という段階ということでしかない。
日銀が仮に3月、あるいは4月にマイナス金利解除を行うとしても、翌日には円安となり株高になることがほぼ想定されている。日銀総裁、副総裁が揃って「マイナス金利解除をしても緩和的な金融環境は変わらない」と繰り返している。つまり正常化、出口にたどり着くのはまだまだ先であることを認めている。
2013年黒田東彦・日銀新総裁(当時)は、「物価上昇2%を2年程度で実現するために何でもやる」と異次元金融緩和に踏み込んでいる。2年程度で実現のつもりが10年を超えてしまっている。2年限定の短期戦法が2024年の現在にいたるまで続いている。
日銀が金融正常化、出口戦略に半歩〜一歩踏み出すにしても、米国(政策金利5・5%)が今年央〜後半に急速かつ大幅な利下げに踏み切る可能性がないとはいえない。日米金利差は一気に縮小する。米国の利下げのほうがよほど間違いなく為替、株価を左右するインパクトを持っている。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営〜クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)
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2024年02月12日