■政策活動費は「使う」から「使わない」に豹変
コロコロとよく変わるものだ。今度は政策活動費である。石破茂総理(自民党総裁)は、9日の野党4党首との国会・党首討論で政策活動費について「衆院選(総選挙)で使うことはある」と明言した。「現在認められており、使うことはある。選挙区で厳しい戦いをしている地域もある」と発言している。
自民党は野党から「政治とカネ」、裏金問題で集中攻撃を浴びている。大幅な議席減が避けられない情勢だ。使途公開がなされていない政策活動費を総選挙に使うとわざわざ公言するのだから、相当追い込まれているのだと思ったものである。
ところが、13日朝のテレビ報道番組の野党党首との7党討論では、「選挙においては当然使わない」という豹変ぶりである。石破総理は、国会・党首討論では「衆院選では1円も使わないと明言しろ」と迫られ、それでも「適切に使う」と答弁している。13日は「選挙に使うことはいたしません」に変わった。
使途は公開しない政策活動費であり、「使うことはある」などという発言は余計だったということなのか。あるいは、政策活動費投入では“金権選挙”のイメージが強まり、無党派層が反自民に雪崩を打つことのリスクを考えたのか。「当然使わない」にコロリと変わっている。
■成長戦略は見当たらない
「It‘s the economy,stupid」(経済こそが問題なのだ、愚か者)
1992年の米国大統領選挙でビル・クリントン候補(民主党)が使った表現である。共和党候補はジョージ・H・W・ブッシュ大統領で冷戦終結、湾岸戦争勝利で圧倒的に有利とみられていた。しかし、クリントン候補は国民の目を経済に向けさせて大統領になった。
問題は石破総理の自民党に経済政策、とりわけ成長戦略がまったくないことだ。石破総理は、「地方こそ成長の主役」と地方の可能性を引き出す地方創生推進交付金倍増を打ち出している(4日・所信表明)。
総選挙の自民党ポスターは「日本を守る。成長を力に。」。やはり防衛・安全保障に関心が強いのか最初に「日本を守る。」、その次に「成長を力に。」となっている。
「成長」とは、経済成長のことを指しているとみられる。しかし、具体的な政策は地方創生推進交付金倍増ぐらいしか見当たらない。地方は首都圏など他の地方からの移住者を受け入れる環境づくり、あるいは隠れた観光コンテンツ探しなどに懸命に努力している。しかし、いきなり「経済成長の主役」といわれてもそれはどだい無理な話だ。
最近は首都圏も老人が増加している。地方はなおさらだ。若い人が少なくなっている。地方創生推進交付金倍増は、地方としては「もらえるものはもらっておく」ということになる。これでは総選挙の地方票をかき集めるばら撒きにみられかねない。
「地方が成長の主役」では、国民の目を石破総理の経済政策に向けられない。自業自得だが、「政治とカネ」(裏金問題)に争点が集中する。自民党としては防戦一辺倒、できるだけ議席大幅減を防止する「ダメージコントロール」の選挙に追い込まれる。
■「いま追加の利上げをできる状況ではない」に豹変
石破総理がコロリと変わったのは、法人税増税、金融所得増税、あるいは日銀が進めている再利上げを支持する政策だ。所信表明では法人税増税、金融所得増税など増税路線は触れられなかった。
金利では、石破総理は植田和男日銀総裁との会談後に「個人的には(再利上げを行う)環境にあるとは思っていない。追加の利上げをできる状況ではないと思っている」と語っている。植田総裁は「首相から金融政策について指示はなかった」「(再利上げについては)見極める時間は十分にある」という発言を行った。再利上げは当面棚上げされている。
もっともこの石破総理の発言は踏み込み過ぎであり、日銀を牽制するものとみられかねない。自ら唱えている「ルールを守る」では立派に違反行為に当たる。総裁選直後の株式大暴落「石破ショック」の修正を急いだわけだが、総裁選での「いま利上げはあほ」(高市早苗議員)に帰着したわけである。
普通に考えて、総選挙に突入するのに法人税増税、金融所得増税、あるいは利上げ促進(株安)ではボロ負けを自ら用意するようなものだ。一般の産業界、富裕層のみならず中間無党派層など自民党の一部支持地盤層まで離反を招くような政策である。さすがに大急ぎで総選挙向けに増税、再利上げは封印した格好だ。
おそらく、石破総理の強い関心は防衛・安全保障にあり、経済には希薄のようにみえる。ただ、裏金問題で集中攻勢をかけている野党側も「統一候補」への一本化は失敗している。野党は自民党の失態を生かせるのか。予断なく眺めているつもりだが、いやはや総選挙の行方はどうなるのか?(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営〜クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)
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2024年10月14日