
【先人の教えを格言で解説!】
(犬丸正寛=株式評論家・平成28年:2016年)没・享年72歳。生前に残した相場格言を定期的に紹介。)※最新の情報に修正を加えてあります
■株買いの究極は戦争かインフレ
株式投資における最大の材料は、やはり企業業績である。業績とは、技術力・人材・ブランド力・資金力・データといった経営資源をフル活用し、売上と利益を最大化することにほかならない。業績が改善すれば配当増が期待でき、インカムゲイン(配当収入)を享受できる。同時に一株利益(EPS)の向上によってPER(株価収益率)面での割安感が生まれ、キャピタルゲイン(値上がり益)も狙いやすくなる。
しかし、現代の事業環境は、かつてと比べ物にならないほど厳しい。売上は「数量×単価」で決まるが、どちらも逆風にさらされている。
数量面では、少子高齢化と人口減少が深刻である。日本の人口はすでにピークを過ぎ、このまま推移すれば数十年後には大幅な減少が避けられない。「胃袋の数が減る」という表現が示すように、飲食・住宅・自動車・旅行・教育・エンタメといったあらゆる分野で需要の底割れリスクがある。加えて、高齢化によって一人当たりの消費量そのものも縮小していく。
単価面では、デフレ圧力との長年の戦いがあったが、2020年代に入って潮目は大きく変わった。コロナ禍によるサプライチェーンの寸断、ロシアによるウクライナ侵攻を契機としたエネルギー・食料価格の高騰、米中対立による経済安全保障上の分断が重なり、世界は複合型インフレに見舞われた。企業はコスト増を価格転嫁せざるを得なくなり、株式市場では資源・エネルギー・防衛関連銘柄が買われやすい地合いが続いた。
そして足元では、その格言をさらに生々しく裏付ける事態が起きている。2026年2月末以降、米国・イスラエルとイランの戦争が激化し、イランはホルムズ海峡の通航を大幅に制限した。ホルムズ海峡は世界の原油・LNG輸送の約2割を担う要衝であり、その混乱は原油、天然ガス、電力、肥料、海上物流にまで波及している。実際、エネルギー市場では供給不安が一段と強まり、長期化すれば世界の石油供給が日量1300万〜1400万バレル規模で失われる可能性も指摘されている。日本でもLNG調達への懸念から、石炭火力の活用ルールを一時的に緩和する対応が打ち出された。
まさに「株買いの究極は戦争かインフレ」という格言が、現実のものとして眼前に現れた格好である。戦争は防衛需要を押し上げ、資源価格を刺激し、供給網の寸断を通じてインフレを加速させる。とりわけホルムズ海峡のような戦略海峡が揺らげば、その影響は中東周辺にとどまらず、世界市場全体のコスト構造を押し上げる。株式市場が地政学リスクを材料視し、資源・海運・商社・防衛・代替エネルギー関連などへ資金を振り向ける構図は、今回も鮮明になっている。
単価を自力で上げるための企業戦略も進化している。かつての鉄鋼業界の統合に象徴されるような業界再編は今も続いており、半導体・金融・通信・流通など各分野でM&Aや経営統合が加速している。また、AIや生成技術を活用した付加価値の高い新製品・新サービスを投入し、プレミアム価格帯での販売を狙う戦略も主流になりつつある。
ただし、忘れてならないのはインフレと戦争の負の側面である。インフレは実質賃金を押し下げ、生活者を苦しめる。戦争は言うまでもなく、人命と社会基盤を破壊する。しかもホルムズ海峡の封鎖や通航混乱が現実化すれば、エネルギー危機は燃料代や電気代、物流費、食料価格の上昇という形で、遠く離れた国々の日常生活にも跳ね返る。一部の市場参加者が地政学的緊張や物価上昇を利用して利益を得ようとする構図は、現代においても変わらない。むしろSNSや金融デリバティブの発達によって、その動きはより速く、より広範囲に波及するようになっている。
※投資家として冷静に材料を読み解く眼を持ちながら、同時にその背景にある人間社会の現実から目を背けない――それが、犬丸正寛氏の格言が今なお私たちに問いかけていることではないだろうか。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)
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