
■17日の急落から883円高、それでも「元の相場」に戻ったわけではない
3連休明け7月21日の東京株式市場は大きく反発した。日経平均株価は前営業日比883円10銭高の6万4945円96銭、TOPIXも上昇し、17日の急落に対する押し目買いが広がった。キオクシアホールディングス<285A>(東証プライム)などAI・半導体関連の一角も大幅高となり、ひとまず「半導体株の下落がそのまま相場全体の崩壊につながる」との警戒感は後退した。
しかし、これで相場が元通りになったと見るのは早い。いま市場で最も難しいのは、下がった銘柄を売ることではなく、次に何を買うかを決めることである。これまでなら、AI・半導体関連株が大きく調整すれば、銀行、商社、建設、不動産などのバリュー株へ資金が移るという比較的分かりやすい構図があった。ところが今回の夏相場は、「ハイテクかバリューか」という二択だけでは説明しにくくなっている。
■AI・半導体は「業績悪化」ではなく「期待値調整」
その最大の理由は、AI・半導体関連株の株価調整と企業業績の方向が必ずしも一致していないことにある。
TSMCは4〜6月期に過去最高益を更新し、AI向け半導体需要の強さを背景に大型設備投資を続ける姿勢を示した。ASMLも受注の強さを背景に業績見通しを引き上げている。AIデータセンターや先端半導体への実需そのものが急速に消えたわけではない。
それでも関連株が大きく売られたのは、業績が悪いからというより、株価が先に将来の成長を織り込み過ぎていた面が大きい。ここに現在の難しさがある。「売られ過ぎ」と「相場終了」はまったく違う。
AI・半導体株が本格的な下降トレンドに入ったのであれば、銀行などのバリュー株へ資金を移せばよい。だが、17日の急落後に21日のような押し目買いが入るなら、半導体株は何度でも主役へ戻る可能性がある。
つまり、「半導体を売ってバリューへ」という一方向のセクターローテーションではなく、半導体とバリューの間を資金が激しく往復する相場を想定する必要が出てきた。
■第一の選択肢は「AI・半導体の押し目買い」
三択の第一は、AI・半導体関連株の押し目を拾う戦略である。21日の反発は、この選択肢がまだ消えていないことを改めて示した。AI投資の実需が続き、主要企業の利益成長が維持される限り、大幅調整した有力株には押し目買いが入りやすい。
ただし、何でも買えばよいわけではない。これまでのように「AI関連」というだけで株価が上昇する局面から、受注、利益率、設備投資、キャッシュフローまで確認される業績選別相場へ移りつつある。高い成長率を維持しても、市場予想を上回れなければ売られる。好決算でも株価が下がる「期待値相場」である。半導体株を買うなら、単なる値下がり率ではなく、「業績が株価に追いつく企業」を見極める必要がある。
■第二の選択肢は銀行など「王道バリュー」
二つ目は、銀行を中心としたバリュー株である。国内金利の上昇局面は、銀行にとって貸出金利や運用利回りの改善を通じて収益環境の追い風となりやすい。AI・半導体株への一極集中が崩れれば、低PBR、高配当、資産価値、自社株買いといった評価軸を持つバリュー株へ資金が向かう余地もある。
ただ、ここにも落とし穴がある。金利上昇メリットを株価がすでに相当程度織り込んでいる銘柄では、好材料が出ても上値余地が限られる可能性がある。半導体株が急反発すれば、短期資金が再び成長株へ戻り、バリュー株が売られる「逆回転」も起こり得る。銀行株だから安全、半導体株だから危険という単純な色分けは通用しにくい。
■第三の選択肢は「逆風でも利益を伸ばす代役株」
そこで浮上するのが第三の選択肢である。AI・半導体でも王道バリューでもない。「逆風の中でも利益を伸ばせる企業」を探す戦略だ。
重要なのは、グロースかバリューかという分類ではない。金利上昇、原材料高、人件費上昇、地政学リスクといった悪条件を吸収しながら、値上げ、事業構造改革、資産回転、M&A、DXなどによって利益を伸ばせるかどうかである。
その候補の一つが不動産株だろう。不動産業界は本来、金利上昇に弱い。住宅ローン金利の上昇は住宅取得の負担を増やし、建設費や人件費の上昇も収益を圧迫する。金融当局が不動産融資の動向を注視していることも無視できない。だからこそ、その逆風下でも増益を続ける企業には注目する意味がある。
都市部を中心とした保有資産の価値、収益物件の売却益、賃料上昇、ホテル・物流施設・データセンターなどへの事業領域拡大、中古住宅再生、不動産DX、資産回転型ビジネスへの転換など、従来の「土地を仕入れて建物を売る」だけではない利益源を持つ企業が増えている。
決算発表で市場予想を上回る利益を示す企業が出れば、「金利上昇だから不動産株は売り」という固定観念を逆手に取った物色が強まる可能性がある。
■21日の反発が示したのは「主役不在」ではなく「主役複数」の相場
21日の大幅反発を見て、「17日の急落は一時的だった」と結論づけるのも危険である。むしろ重要なのは、急落後にAI・半導体関連へ押し目買いが戻りながら、同時に幅広い銘柄が買われたことである。
これは主役が一つに決まった相場ではない。AI・半導体の成長力を買う資金、金利や資産価値を評価するバリュー株への資金、そして決算を手掛かりに個別企業の利益成長を探す資金。この三つが並走する相場になりつつある。
今後、米国では主要ハイテク企業の決算発表が本格化する。AI投資の強さが改めて確認されれば半導体株が主役へ復帰する可能性がある一方、期待に届かなければ再びバリュー株や内需株へ資金が移る展開も考えられる。方向を一つに決め打ちするには、まだ材料が足りない。
■夏相場で問われるのは「何を買うか」より「なぜ買うか」
これから避けたいのは、「半導体が下がったから銀行」「銀行が止まったから不動産」という機械的な乗り換えである。セクターローテーションは結果であって、投資理由そのものではない。
見るべきは、業績が市場予想を上回っているか。上方修正の余地があるか。価格転嫁力を持っているか。資産価値を利益やキャッシュフローへ変える仕組みがあるか。そして何より、現在の株価が将来期待をどこまで織り込んでいるかである。
今年の夏相場は、「ハイテクかバリューか」という単純な二択ではなくなった。AI・半導体の押し目を狙う第一の選択肢。銀行など王道バリューへ向かう第二の選択肢。そして、逆風下でも利益を伸ばす「代役株」を先回りする第三の選択肢である。
7月21日の急反発は、この三択問題に答えを出したのではない。むしろ三つの選択肢すべてがまだ生きていることを示した。これから本格化する決算発表で、「強い業績」と「割高な期待」のどちらが勝つのか。その答えによって、夏相場の次の主役が決まりそうだ。
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