
■輸出株中心の物色に転機
外国為替市場の風向きが大きく変わった。日本政府は8月3日朝、7月31日に米国と協調して円買い介入を実施したと明らかにした。日米両当局は、過度な為替変動や無秩序な相場の動きに対応する姿勢を共有し、必要に応じて追加措置を講じる構えも示している。円相場は片山さつき財務相の発表後に上昇し、8月3日の東京市場で一時1ドル=155円台前半を付けた。12時現在は155円台後半で推移している。日米の共同歩調は、急速な円安を容認しないとの強い意思表示であり、当面は追加介入への警戒がドルの上値を抑えそうだ。もっとも、日米金利差など円安を招く構造的な要因は残っており、介入を契機に長期的な円高基調へ転換するかは見極めを要する。
8月3日の東京株式市場では日経平均株価が反落して始まり、前場に一時1500円超下落した。急速な円高を嫌気し、自動車をはじめとする輸出関連株に売りが先行した。前週末の7月31日に日経平均が2494円59銭高と急伸していた反動もあり、利益確定売りが重なった格好である。円安を追い風としてきた輸出株中心の物色に、転機が訪れる可能性が意識されている。
■自動車・機械は想定為替レートを精査
円高局面で逆風を受けやすいのは、海外売上高や輸出比率が高い自動車、機械、電機、精密機器である。円換算した海外利益が目減りするほか、国内から輸出する製品の価格競争力にも影響が及ぶ。トヨタ自動車<7203>(東証プライム)、ホンダ<7267>(東証プライム)、SUBARU<7270>(東証プライム)、マツダ<7261>(東証プライム)などは、今後の決算で示される想定為替レートと実勢相場との差が焦点となる。
ただし、円高になれば輸出企業が一律に減益となるわけではない。日銀が7月1日に公表した6月短観によると、2026年度の想定為替レートは全規模・全産業で1ドル=152円57銭、大企業製造業で151円55銭だった。円相場が155円台後半で推移する限り、企業の想定に比べればなお円安側にある。海外生産比率の高い企業は現地生産によって影響を抑えやすく、輸入部材の価格低下が採算改善につながる場合もある。銘柄選別では、生産拠点、調達通貨、為替予約の状況まで確認する必要がある。
■小売・食品・空運にはコスト低下効果
円高の恩恵が期待されるのは、商品や原材料を海外から仕入れる小売、食品、外食、衣料、家具などである。ニトリホールディングス<9843>(東証プライム)、神戸物産<3038>(東証プライム)、良品計画<7453>(東証プライム)などは、円安で膨らんだ輸入コストが低下すれば、粗利益率の改善余地が広がる。すでに実施した価格改定を維持できれば、仕入れ負担の軽減が利益に反映されやすい。
日本航空<9201>(東証プライム)やANAホールディングス<9202>(東証プライム)など空運株にも、航空燃料や機材リース料などドル建て費用の軽減が期待される。海外旅行費用の低下が日本人の出国需要を刺激すれば、旅客数にも追い風となる。一方、訪日客にとっては日本での旅行費用が相対的に上昇するため、インバウンド需要への影響には注意が必要だ。電力・ガス会社も燃料輸入費の低下が見込まれるが、原油価格や液化天然ガス価格、燃料費調整制度の影響が大きく、円高だけで利益改善を判断するのは早計である。
■一律の「円高メリット株」買いには注意
協調介入後の相場は、輸出株を売って内需株を買えば済むほど単純ではない。円高は輸入物価を抑え、家計の購買力を支える半面、進行が急なら企業業績の前提を崩し、市場全体の変動を大きくする。銀行株も円高そのものより、日銀の追加利上げ観測や長期金利の動向に左右されやすい。
見極めたいのは、円相場の方向だけではなく、為替変動を価格転嫁、現地生産、調達先の分散、為替予約によって吸収できる企業かどうかである。日米協調介入は、日本株の主役を一夜で入れ替える材料ではない。しかし、円安への依存度が高い企業と、円高を収益改善につなげられる企業を選別する契機にはなる。今後は「輸出か内需か」という二分法ではなく、企業ごとの為替耐性や収益構造が株価の明暗を分けそうだ。
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