[小倉正男の経済コラム]の記事一覧
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記事一覧 (04/28)【小倉正男の経済羅針盤】日米首脳会談――外交に非礼は禁物
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記事一覧 (03/23)【小倉正男の経済羅針盤】ウクライナが嫌悪する「ロシアのくびき」
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2014年04月28日

【小倉正男の経済羅針盤】日米首脳会談――外交に非礼は禁物

■TPPは「お疲れ様」交渉

小倉正男の経済羅針盤 日本の企業社会では、いつからか「お疲れ様」という言葉が乱用されるようになっている。仕事からの帰りはもちろん「お疲れ様」――。最近ではそれだけではない。社内の廊下などでのすれ違いの挨拶も「お疲れ様」。ほとんどあらゆる局面で、「お疲れ様」が使われている。

 ところで日米首脳会談、なかでもTPP(環太平洋経済連携協定)はなんともいえないものになった。徹夜の攻防、という交渉になったというのだが、その中身は判然としない。

 進展があったと見る向きもあるが、実質何もなかったという見方もある。手ぶらで帰したのか、お土産はあったのか。中身はともあれシゴトはした、ということか。まさに、「お疲れ様――」交渉である。

■「お・も・て・な・し」どころか「ぶ・ち・こ・わ・し」
 
 おまけに麻生太郎副総理など、「オバマが国内でまとめきれる力はないだろ。協議がまとまったとしても米国の議会で通る保証はない」と解説――。この談話は、オバマ大統領が、韓国に向けて飛び立つ直前、まだ日本に滞在中に出された。

 これでは、「お疲れ様」というか、なんといったらよいか。そう、「台なし」である。
 せっかく安倍晋三総理や皇室までお鮨や抹茶アイスで、「お・も・て・な・し」をしたというのにまるで「ぶ・ち・こ・わ・し」ではないか。

 これが翌日、韓国でのオバマ大統領の「慰安婦」についての発言につながったという憶測はもちろんのことまったく根拠がない・・・。

■ドゴールへの「侮り」

 だが、外交に非礼は禁物である。

 1966年、ドゴールはフランス軍をNATOの統合軍事指揮下から撤収させた。ドゴールはアメリカへの極度の依存を嫌い、ついには独自の核抑止力を持つ決断をした。NATO軍司令部は、パリを追われる事態になった。

 これには伏線があった――。ドゴールが、以前に訪米した時に、「禍根」を残したといわれている。

 ドゴールが、はじめてアメリカに着いた時にアイゼンハワー大統領が空港に出迎えなかった。代理で出迎えたのは若いニクソン副大統領だった――。これがドゴールの矜持を痛く傷つけたというのである。

 些細なことにも見えるが、少なくともドゴールには些細なことではなかった。
 ドゴールは、NATO、つまりはアメリカの核抑止力に頼っていることが、この「侮り」の根源だと判断した。軍事力を他国に頼っているから、こうした侮辱を受けることになる、と。

 取り越し苦労かもしれないが、あえて指摘しておくことにする――。
 外交で非礼をすると、とんでもないことになりかねない。TPP交渉の中身や結末がどうあれ、些細なことが「禍根」を生むようでは何のための首脳会談か、ということになるのではないか・・・。

(経済ジャーナリスト・評論家、『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 07:44 | 小倉正男の経済コラム
2014年04月14日

【小倉正男の経済羅針盤】「日銀が泣いている」という心境か・・・

■「銀が泣いている」、阪田三吉ではないが・・・

小倉正男の経済羅針盤 「(ワテの)銀が泣いている」、将棋界の鬼才・阪田三吉が大一番で残したといわれるセリフである。

 「進むに進めず、引くに引かれず――」、攻めに強い銀も打ち方を誤るとにっちもさっちも行かなくなる。

 このセリフが出た関根金次郎(後に名人)との大勝負では、最終的に阪田三吉が勝った。阪田三吉は泣きを入れたが、銀はしぶとく活かされた、ということだ。

 対局している相手の駒の陣形配置と、そして自分の駒の陣形や動き、つまり全体の攻防のなかで、銀が活きたり死んだり、そして泣いたりする。

 強い駒である銀も使いようである。使い時を間違うと、何にもならない。

 いまそんな心境にあるのは、あるいは日銀の黒田東彦総裁かもしれない・・・。

■第3の矢=構造改革が見えない

 日銀・黒田総裁は、昨2013年4月に「異次元」といわれる量的・質的な金融緩和を行った。為替は円安に大きく振れ、株価は一気に上昇した。その効果は絶大で、「日銀バズーカ」と評された。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 10:03 | 小倉正男の経済コラム
2014年04月07日

【小倉正男の経済羅針盤】振り返れば「財政の崖」――オバマの内向き行動

■見て見ぬ振りでクリミア編入を黙認?

小倉正男の経済羅針盤 ロシアのクリミア半島の事実上の支配・制圧に対して、アメリカもNATOもさほどでもない経済制裁を行うのみである。

 アメリカもNATOも、「ウクライナやクリミアに軍事支援・介入も辞さない」といった牽制すら行わなかった。
オバマ大統領は、「アメリカはウクライナで軍事行動に関与しない」と早々に表明――。

 冷静にというか客観的に言えば、これではロシアのクリミア編入=軍事支配を「黙認」したに等しいのでないか。

 ロシアは、ウクライナを威嚇するように国境沿いに大軍団を集め、長々と軍事演習を行っている。しかし、一方でプーチン大統領は当初から「ウクライナへの軍事介入は望まない」としてきた。

 いま世界は見て見ない振りをしているようなものだ。
クリミア問題の長期化――、暗黙のうちにロシアのクリミア編入で手打ち、事実として「休戦」状態に入ったということになる。

 アメリカ、EU、そしてロシアもそうだがカタストロフィは避けたい――。無理もないのだが、株式、為替といった世界の金融マーケットも大破局・大混乱を嫌った。そうした経過から直近のNYダウは史上最高値圏に上昇を果たしている。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 07:27 | 小倉正男の経済コラム
2014年03月23日

【小倉正男の経済羅針盤】ウクライナが嫌悪する「ロシアのくびき」

■「タタールのくびき」

小倉正男の経済羅針盤 1236年の東欧、モンゴル帝国(ジョチ・ウルス=チンギス・カーンの長男の後裔)が、キエフ大公国から分裂したルーシ(ロシアの旧名)諸国を襲った。

 勝敗はバトゥが率いるモンゴル帝国の大勝、ルーシ諸国の完敗――。征服は悲惨を極め、ルーシは人口の多くを失った。

 モンゴルは征服後、ルーシ諸国を臣従させた。モンゴルの支配は、その地域に直接配置する人員が極めて少なく、ルーシ諸国に委任する間接的な形態――。宗教の自由などは許して比較的寛容だったといわれる。いわゆる「タタールのくびき」である。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 14:50 | 小倉正男の経済コラム
2014年03月18日

【小倉正男の経済羅針盤】「第1の矢」だけでは限界、黒田・日銀総裁のジレンマ

■第二弾の金融緩和に踏み込む

小倉正男の経済羅針盤 日銀の黒田東彦総裁は、現行の量的・質的金融緩和について、「必要あれば調整を行う」と発言――。さらに、「その調整に限界があるということはない」と。

 これは日銀総裁に就任してちょうど1年を経過するに当っての抱負を語ったものだ。黒田総裁は「調整」、すなわち第二弾の金融緩和を行う腹だなと素直に受け取ってよい。

 4月には消費税が上がる。消費税増税をテコにした先食いの仮需が一巡する。つまり、4月を境に消費や設備投資が大きく低迷するのは確実である。

 そうなれば第二弾の量的・質的金融緩和に踏み込むタイミングということになる。その時期は5〜6月頃になるのではないかとみられる。

 黒田総裁は、昨年4月に異次元といわれる金融緩和を行った。2年後をメドにマネタリーベースを2倍に拡大、消費者物価を2%上昇させる、という野心的なものだった。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 12:42 | 小倉正男の経済コラム
2014年03月13日

【小倉正男の経済羅針盤】ウクライナ軍事介入はロシアの「ストーカー行為」

■プーチンの「梟雄」ぶり

小倉正男の経済羅針盤 ウラジーミル・プーチン――KGB出身のロシア大統領であり、やり口を見ていると「梟雄」そのものだ。
 
 大統領職は、2度目である。1999年エリツィン大統領のもとで首相、2000〜2008年に大統領(2期連続)の座にいた。その後、首相に降りたが、権力を実体として握り続けていささかも離すことはなかった。

 2012年に再び大統領に戻った。権力争いがシビア極まりないロシアで、この経歴を見るだけでエグいな、と思わせるものがある。
 このしたたかさには、いまの世界のどの政治家でも太刀打ちできないところがある。

 シリア内戦介入の秒読み寸前で、アメリカのオバマ大統領は、プーチン大統領の提案を受けて爆撃回避を行った。
 プーチン提案とは、シリアの化学兵器を国際管理するというものだった。オバマ大統領としては「借り」をつくってしまったわけである。

 ロシアのウクライナへの軍事介入でも、アメリカ,EUは動けないと足元を見られたのではないか。プーチンにとっても、軍事介入はいかにも苦し紛れの下策だが・・・。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 07:16 | 小倉正男の経済コラム
2014年02月23日

【小倉正男の経済羅針盤】最近のオヤジたちの軽すぎる発言撤回

■すぐに撤回するぐらいなら・・・

小倉正男の経済羅針盤 発言内容の是非を論じる以前に、

 最近は、何かというと「撤回します」「取り消します」である。NHK新会長に続いて、首相補佐官――。

 エラそうなことは極力言わないようにしているのだが、最近のいい歳のオヤジたちは何を考えているのやら。

 発言を撤回したのだから、「どこが悪いのか」「問題ないのではないか」というのは軽すぎるのではないか。

 発言したばかりなのにすぐ撤回するぐらいなら、発言などしないほうがよい。

 「綸言汗の如し」――、いったん発した言葉は、訂正したり取り消したりすることはできない。NHKの大河ドラマなどで何度も語られてきた中国古典の教えである。

■政府が右なら右、とは身も蓋もなし

 籾井勝人・NHK会長の発言は、慰安婦問題を含めて多岐にわたるものだが、「政府が右と言っているのに我々が左と言うことはできない」とは、ほとんど思考停止の感がある。

 この発言は、国際放送、そして領土問題に関しての発言らしい。
だが、原発事故などの報道についても、政府の言動が右なら右と言うことになりかねない。

 政府の任命なのだから、最初に政府の顔を伺うということなのだろうか。少なくとも、第一義に視聴者=国民に顔を向けないということになる。

 身も蓋もないことだが、もう少しというか巨大メディアのトップとして最低限の"見栄"を張ってほしいものである。

 これでは、任命した筋も当てが外れたというか、頭を抱えているのが本当のところではないか。身も蓋も、つまり普段の見識や教養のようなもの、いうならば少々の資質があれば見栄も上手に張れるものだが・・・。

■「失望したことに失望」、すぐ撤回したことに失望!?

 衛藤晟一・首相補佐官の発言撤回も身も蓋もない話である。

 安倍晋三首相の靖国神社参拝に「米国が失望を表明したことに失望した」、という発言。

 靖国参拝の是非は様々な議論のあるところだが、米国に率直にモノを言ったことはオヤと思わせた。

 是非はともかく骨がある人がいるではないか、と。これはどういう人物なのだ、と。
しかし、即日すぐの撤回、オヤオヤである。動画も削除となった。

 同盟関係だとか言っているが、結局、米国には何も言えないのか。中国外交部報道官からは、「日本は一体何をしたいのだ――」と揶揄される始末である。

■再び失敗の轍を繰り返すのか

 さらには森喜朗・元首相まで浅田真央ちゃんについて無神経な発言。イヤハヤ困ったものである――。国民からの批判・反響は、これがいちばん大きかったのではないか。

 これでは前回の安倍内閣の失敗の轍を繰り返すことにならないか。

 廻りが軽い発言や行動をしたり、失言を重ねたりして、国民の失望を大きく膨らませていく。

 ところでいま安倍首相に直言するとすれば、アベノミクス第3の矢=経済成長戦略に集中すべきであるということだ。

 第3の矢は、どこにいったのか。「バイ・マイ・アベノミクス」は終わったのか――。

 これこそが日本の失望の源である。第3の矢をしっかりと放つことこそが、徐々に膨らんでいる失望の源を断つことになる。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 13:24 | 小倉正男の経済コラム
2014年02月08日

【小倉正男の経済羅針盤】中国・経済成長減速と「鬼城」現象

■アメリカ豹変=リーマンショックは「100年に一度の大事件」

小倉正男の経済羅針盤 2008年9月に勃発したリーマンショックを思い出してみたい。

 市場経済一辺倒だったアメリカが、まるで手のひらを返したように世界各国に財政出動による公共投資を呼びかけた。
 これが『曲者』だった。

 ケインズ経済学など親の敵、あるいは博物館でホコリをかぶった存在と決め付けていたのが、ウソのような豹変ぶりだった。
 その時に語られたのが、「100年に一度」「100年に一度の大事件」(グリーンスパン・前FRB議長=当時)というキーワードだった。

 アメリカは、それまで『ひとり勝ちの経済』を謳歌してきた。
 ところが、リーマンショックに直面すると、世界経済が引っくり返るぐらいの「100年に一度」の非常事態だから、と危機感を訴えた。

 リーマンショックは、アメリカがれっきとして起こしたバブルだが、崩壊するとなると世界経済を「質」に入れた。確かに、アメリカ経済が破綻したら、人類史上空前の崩壊になりかねない。
 これにより突然ケインズ経済学がホコリを払って取り出され、財政出動=公共投資が脚光を浴びることになった。

■中国の大判振る舞い、57兆円超の巨大な景気刺激策

 このアメリカの財政出動呼びかけに、ホワイトナイトとしてさっそうと手を上げたのがほかならぬ中国だ。

 中国の胡錦濤・国家主席(=当時)は、4兆元(当時のレートで57兆円超)の巨大な景気刺激策を追加断行すると応じた。

 これは中国が、世界経済に巨大な存在感を確立した瞬間にほかならなかった。2010年にGDPで日本を追い抜いて世界2位になるテコは、この『大判振る舞い』による。

 中国は、道路、鉄道、空港、都市勤労者向け高層住宅など不足している社会インフラを整備する必要性もあった。北京五輪(2008年8月)をピークに陰りが生じていた経済成長率や都市部の雇用失速にテコ入れを図るという側面もあった。それに資産バブル縮小・崩壊に歯止めをかけるといった事情も秘められていた。

■『輸出』された不動産バブル=「鬼城」現象

 中国の4兆元の公共投資を担ったのは、実体としては地方政府、政府機関、国有企業などだった。国のお墨付きの事業であり、実際には4兆元をはるかに大きく超える乱脈な財政出動=公共投資になったという見方がなされている。

 「列島改造」どころか、「大陸改造」を実行したわけである。
その際、資金調達チャネルとしての役割を果たしたのが、シャドウバンキング(=影の銀行)である。

 リーマンショックのバブルをしのぐために行われた中国の大規模な財政出動=公共投資は、いわば世界経済を救い、そして中国を文句なしの「世界の経済大国」に押し上げた。
 しかし、その反面では中国のバブルを膨らませた。特に不動産バブルは、アメリカから中国に『移転』、『輸出』されたという見方がなされている。

 いまでは経済の高い成長の減速傾向も重なり、「鬼城」(=ゴーストタウン)現象にみられるように中国の不動産バブルはいわばかなり危機的な状況が指摘されている。中国は、これをどう収束させるのか。

 ややセンチメンタルに言えば、アメリカは救ってもらったお返しに世界経済のホワイトナイトを演じるべきだろう。
しかし、アメリカはそうした関心はさほど示さず、ひたすら”ひとり勝ちの経済”をまたまた目指しているようにみえる。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 07:16 | 小倉正男の経済コラム
2014年02月04日

【小倉正男の経済羅針盤】アメリカ金融緩和縮小とその因果

■揺らぐ「世界の金融協調体制」

小倉正男の経済羅針盤 アメリカの金融緩和縮小が、新興国の金融不安を惹起している。

 インドのラジャン中銀総裁は、「先進国は世界の金融協調体制の立て直しに努めなければならない」、と批判した。先進国とはアメリカにほかならない。

 アメリカが金融緩和縮小に走れば、高金利を求めて新興国に流れていた資金がアメリカに戻ることになる。新興国の通貨は低下し、それに歯止めをかけるために新興国の金利は上昇する。

 当然ながら新興国の経済は軋むことになる。
新興国サイドから見れば、アメリカは「世界の金融協調体制」を揺るがしており、"立て直さなければならない"状況に陥っているということになる。

■「異例」から「通常」に戻る代償

 アメリカとしては、リーマンショックから経済がようやく立ち直り、異例だったゼロ金利など金融緩和の訂正を図る――。(どこかの国のように"ゼロ金利依存症"になることは避けなければならない!)

 いわば、「出口戦略」、つまり予定通りのスケジュールということになる。

 となれば、中国の経済成長にブレーキがかかり、さらに中国に食料品を輸出しているアルゼンチンなどの新興国経済が打撃を受ける、とマイナスの連鎖がつくられる・・・。

 日本円は安全資産ということで買われ、円高になり、株式(日経ダウ)も直撃を余儀なくされてきている。

 アベノミクスには、株式上昇による「資産効果」といったものも織り込まれている。アベノミクスにとってもこれはマイナスのファクターになる。

 世界中の株式が不安定になり、どこで歯止めがかかるか。世界経済が「異例」から「通常」に戻る動きだが、代償は小さいとはいえない模様だ。

■アメリカの因果、はたまた資本主義の因果

 その昔、「ベアリング恐慌」(1890年)という金融恐慌では有名な事件がある。

 この時代、世界金融市場に提供される資金は、圧倒的に大英帝国によるもの。
大英帝国の金利が低く、高金利のアルゼンチンに資金が流れていたが、アルゼンチンの経済破綻からマーチャントバンク・ベアリング商会が倒産した――。

 ベアリングは、金融界でロスチャイルドと並ぶ巨大な存在だっただけに、「ベアリング恐慌」という名が付けられた。

 ついちょっと前に世界を襲った「リーマンショック」と同じ発想によるネーミングにほかならない。

 今回のアメリカの金融緩和縮小が、何をもたらすのか――。なんとか混乱を収束させ、ソフトランディングしてほしいというのが大方の願いである。

 リーマンショックの克服のための「入口戦略」がゼロ金利といった異例の金融緩和だった。その「出口戦略」の金融緩和縮小が皮肉にもまた世界経済を執拗に揺るがしている。
これはアメリカの因果、あるいは資本主義の因果というしかないのだろうか。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 09:26 | 小倉正男の経済コラム
2014年01月25日

【小倉正男の経済羅針盤】ガラケー法人税と企業の「祖国愛」

■「法人税引き下げに踏み込む」は本気か

小倉正男の経済羅針盤 安倍晋三首相は、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)でスピーチした。そのなかでオヤと思わせたのは、“法人税の実効税率引き下げに踏み込む”、と表明したことだ。

 グローバルな競争を意識して割高の法人税を見直す。それにより外国企業の日本への投資を呼び込む、というのである――。これはいわば「国際公約」という格好になる。

一般的には、法人税実行税率引き下げには消極的と見られていただけに、本気なのかやや懸念もないではない。
だが、法人税率が世界的に見て高いのは事実であり、本気で取り組まなければ外国企業は日本をパスすることになる。

「バイ・マイ・アベノミクス」と胸を張っても、割高な税金に手が付けられないでは「バイ・バイ・アベノミクス」になりかねない。それがこれまでの現実である。

■“企業は税金を払う国を選ぶ”という圧力

「このままでは我々は祖国を去るしかない――」
その昔、ドイツが法人税を下げたのは、ベンツ、BMWなどの国を代表する大企業が、本社や工場を海外に移すしかない、と表明したことが圧力となった。

法人税の安い国で税金を払う。
つまり、企業は税金を払う国を選び、グローバル競争力を養う――。

企業に国を選ばれたら、元も子もない
結局、ドイツは法人税を下げ、消費税を上げる道を選択した。

■「祖国を裏切らない」を前提にした“ガラケー法人税”

日本の法人税は、日本の企業は“祖国を裏切る”ことはないということを前提にしている。グローバル競争といっても、「祖国を去る」ことまではない、という実効税率になっている。

以前にトヨタ自動車などが社長交代で、新社長の披露パーティなどが行われた時のことである。そのご祝儀に徴税が行われた、というのである。

ご祝儀も、個人になるのか、企業になるのか、ともあれ所得になるのだから徴税は合法であるのは間違いない。
コンプライアンスからみれば正当だが、少々のことなら目をつぶるという手も大人としてはアリではないか。

「我々は祖国を去るしかない――」。そう企業に言われたら、地域にしても国家にしても大きな痛手になる。
企業の「祖国愛」を信じる余り、あまりにも厳密な徴税や割高な税制を強いるはよいことではないに違いない。

税金もまたガラパゴス化(=ジャパゴラス化)、つまり“ガラケー”が許されないということか・・・。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:00 | 小倉正男の経済コラム
2013年12月18日

【小倉正男の経済羅針盤】みんなの党を普通の会社として見れば・・・

■みんなの党は「ユア・コーポレィト」だったのに

小倉正男の経済羅針盤 アメリカでは、自分の勤務する会社を「ユア・コーポレィト」(貴方の会社)と表現する。ユア・コーポレィトとは、“株主や顧客の会社”だというわけである。

 ユア・コーポレィト――「ウチ(内)」「ソト(外)」でいえば、ソトに比重がある。

 会社は、そこ=ウチに勤務する経営者や社員のものではない。会社とは、ユア・コーポレィト、すなわちソトのものだというのである。

 日本では、「弊社」などという言い方もあるが、一般には「わが社」と表現される。言うまでもなく、ウチがあくまで中心というかすべてである。

 「みんなの党」は、本来、“貴方の党”という意味合いが込められていたと思われる。つまり、党内=ウチの党ではなく、党外=ソトの一般の国民市民の党ということである。

 「みんなの党」には、そんな画期性があった。それが、いつの間にか、「自分の党」に変わってしまったということなのだろうか。

 人事やお金の権力を握れば、それを手放したくなくなる。政界再編成に消極姿勢を採るのは、権力を持っている党内の心地よさを維持したいからという推察が語られている。

■認めるべきは“大量退社”、会社が分裂した現実

 江田憲司前幹事長を筆頭に14名の議員が一気に離党し、みんなの党がふたつに分裂したのはよほどのこととは言えないか。

 「江田新党」(=結いの党)については、ソトからの支持や信頼はまだ集まってはいない。厳しく言えば未知数の段階、「すっきりした」(江田氏)のはわかるが、それは個人的次元の話でしかない。ソトは、あくまでどう行動するかで判断することになる。

 渡辺喜美代表は、当初の印象では、「党の方針、私の方針に反する言動をするなら出て行け」という調子だった。
 しかし、大量離党という事態になったら、今度は会派からの離党を認めないとしている。理屈は立てられるにしても、これは傍から見ればやや嫌がらせのように見えないではない。

 “離党する”、という数がこれだけ大量になったこと自体が重たい。ともあれ、それだけで理非や大義が果してどちらにあるかを少しは示しているのではないか。

 それに議員の離党だけではなく、一般の党員の離党も半端ない動きとなる可能性がある。離党を認めるとか認めないという次元ではなく、認めるべきはみんなの党がすでに分裂している現実ということになる。

■普通なら経営責任追求もの!?

 みんなの党は、会社でいえば役員、社員が半数近くほど辞表を出したような状態に見える。それだけではなく、大株主、金融機関や顧客の気持ちが乖離したような状態だろうか。

 つまり、ステークホールダーの信頼性が揺らぎ、マーケット・ニーズから離れている会社になっているのでないか。

 政党も会社も人々の信頼、支持がなければ先行きは切り拓けない。普通なら株主総会で経営責任追及などに追い込まれるところだが、どうだろうか。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 04:33 | 小倉正男の経済コラム
2013年12月10日

【小倉正男の経済羅針盤】猪瀬都知事―徳洲会5000万円事件のトラジコメディ

小倉正男の経済羅針盤 猪瀬直樹都知事が徳洲会から5000万円を受領――。
 最初は「知らない」、その後に「選挙資金」、さらには「個人的な借金」と釈明が変わりしどろもどろ。

 今年の流行語でいうと、「じぇじぇじぇ」と呆れ驚くしかない。

 猪瀬知事は、徳洲会からのカネまみれの「お・も・て・な・し」にまさかバレることはないとやってしまったのだろうか。
 
 一度合っただけで5000万円を出すほうも出すほうだが、受け取るほうも受け取るほうだ。

 猪瀬都知事は、「親切な人だ」と。自分でも適切な表現ではないと思ったのか、困ったような笑いを浮かべた。
「親切な人」とは、徳田虎雄理事長(当時)、徳田毅衆院議員を指している。

■徳田虎雄「取材したいなら新幹線でも何でも付いて来い」

 その昔の1970年代後半――。徳田虎雄の事務所で取材したことがある。
 徳田虎雄は、「医療改革」を旗印に売り出し中で、政治に乗り出す直前の時期だった。
事務所では、大勢のアルバイトが動員されていた。山のように積まれた徳田の著書を紙袋に詰めて、送付作業が進められていた。

 徳田虎雄は、昼飯を食べながら、「取材したいなら、新幹線でも何でも付いて来い」と。自分は大物だ、というわけだが横柄そのもの。こんな人は見たことがなかった。

 昼飯を食べる時間があるのだから、いま取材できないことはない――。「ふざけるな」、こちらも若かったから、怒鳴りあいになり、取材はそこで終わってしまった。

■見たくもないトラジコメディ

 徳田虎雄の事務所は、人々で溢れていた。陳情の人たちであった。

 地方は病院が足りなくて困っているということで、地方自治体などの首長などが病院誘致に訪問――。「(ウチの地域に)来てくれ、来てくれ」で列をなしてお願いに来ている。
銀行は「お金を借りてくれ」、ゼネコンは「建てさせてくれ」。みんなペコペコしてお願いの態であった。

 あれからかれこれ30年超――、はしなくも猪瀬都知事の徳洲会からの5000万円事件。
 舌鋒鋭いはずの猪瀬都知事が大汗をかいて陳弁に次ぐ陳弁。事実によって、“倍返し”を受けている。

 この見たくもないトラジコメディ――、すべてはヒューマン・ファクターによるというしかないのだろうか。(文中敬称略)

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 07:28 | 小倉正男の経済コラム
2013年11月16日

【小倉正男の経済羅針盤】7−9月GDP減速にアベノミクス失速の不安も

■野球は凄いコンテンツ

小倉正男の経済羅針盤 「ワールドシリーズ」「日本シリーズ」が終わり、侍ジャパンの強化試合も終わった。『野球ロス症候群』に陥っている方も少なくないのではないか。

 野球とは凄いスポーツである。サッカーなど他のスポーツの台頭があるにしても、地上波、BSのコンテンツとしては外せないものがある。

 「ワールドシリーズ」「日本シリーズ」はいうに及ばず、侍ジャパンの台湾との強化試合までライブ放送された。

■「田澤ルール」をご存知か

 「ワールドシリーズ」では、ボストンレッドソックスの上原浩治、田澤純一が大活躍――。

 田澤は、日本のプロ野球を経ないで、レッドソックスと契約してメジャー入りした。

 ところで、日本のプロ野球には、その田澤の名を冠にした「田澤ルール」というのがあるのはご存知か。

 「田澤ルール」とは、日本のプロ野球機構が田澤のメジャー入りを契機につくった制度というか、業界の”取り決め”である。

――日本のプロ野球を経ないで直接海外の球団と契約した選手のケース、海外球団を退団した後2年間(高卒のケースは3年間)日本のプロ野球球団は契約しないという業界内の取り決めである。

 これには職業選択の自由などに照らして公正なことなのか、一種のカルテル行為ではないか、という見方がある。

■エクスパンションに拒否姿勢

 日本のプロ野球は、中世の「座」のようなもので、新規参入にも断固NOという姿勢である。

 新潟、静岡など地方各都市は、プロ野球球団を誘致する運動を行っているが、実現するメドはほぼゼロだ。
プロ野球球団は12球団制を守り、球団数を増加させるエクスパンションには徹底して消極的である。

 エクスパンションを行えば、野球ビジネスで地方経済は活性化する。

 しかし、儲かっている一部既存球団は現状に満足している。現状の変更はリスクがあるという判断で、「プロ野球ビジネス」全体の成長にはまったく関心がない。エクスパンションは議題にすらならない。

■アベノミクスの失速

 日本のGDP(7〜9月)が失速している。これはアベノミクスの改革、あるいは改革意欲が失速しているのと無関係とはいえないのではないか。

 日本のあらゆる業界は、儲かりだすと業界団体をつくり、そこが官僚の天下り先になっている。

 業界団体は、既得権を守ることで現状の利益を守ろうとする。官僚も有望な天下り先を失いたくないから既得権を守るビヘイビアを取る。

 ちなみに「プロ野球ビジネス」でも、昔からコミッショナーなどに官僚を受け入れている。あらゆる業界で、見事なまでにこうした構図がつくられている。

 アベノミクスが動き始めてほぼ1年――。
 このまま改革が失速するとなると、徐々にではあるが、ほころびは隠せないものになりそうな気がする。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 14:31 | 小倉正男の経済コラム
2013年10月12日

【小倉正男の経済羅針盤】「バイバイ・アベノミクス」の不安

■「オバマケア」問題

小倉正男の経済羅針盤 「オバマケア」は、オバマ大統領による医療保険制度改革だが、一部政府機関が閉鎖される事態にまで陥っている。

 反対している共和党は、「オバマケア」が財政悪化につながり、増税につながるものとしている。

 政府が民間の経済や生活に介入するのは「社会主義」であり、増税の原因になるという考え方である。根底には、そうした思想があるとみられる。

 ――急な坂道にガードレールを設置すれば、安全性が高められる。しかし、ガードレール設置にはおカネがかかり、税金が使われる。

 自己責任なのか、社会的な安全性の範疇なのか。タックスペイヤーの懐に直結している問題で、すっきりとした解決は困難とみられる。

■経産省の賃上げ要請の経団連が協力

 日本では、茂木敏充・経済産業相が、経団連に異例の賃上げを要請――。米倉弘昌・経団連会長は、報酬引き上げに協力すると応じている。

 日本の実情からすると仕方がないのかもしれないが、これは立派に政府の民間経済への介入に映る。いわば、一線を超えた「社会主義」的な賃上げという見方や評価がなされかねない――。

 これまで利益剰余金、つまりは「内部留保」をやたら積み増してきた大企業が報酬引き上げに走る。
横並びの「親方日の丸」で賃上げとは結構な話だが、そう“大判振る舞い”は期待できないのではないか。

 政府のアベノミクスへの「上納」としての賃上げでは、ややお付き合い程度のものになりかねない。

■「バイ」か、あるいは「バイバイ」か

 一部からは短絡的に再び、「スタグフレーション」という批判も再燃するだろう。景気が回復していないのに賃上げでは、“不景気下のインフレ”に陥るという批判である。大した賃上げは期待できないのだから、いかにも頭でっかちな話ということになるのだが。

「バイ・マイ・アベノミクス」――。

 高らかにそうは叫ばれても、内外とも沸き立たなかったという思いがある。

 あまりに日本的な経済産業省と経団連による季節外れの“賃上げ相場”演出では、「バイバイ・マイ・アベノミクス」になりかねない、と少し苦言を呈したい。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 10:55 | 小倉正男の経済コラム
2013年09月21日

【小倉正男の経済羅針盤】 尖閣諸島国有化、道理と知恵は尽くされたか

■安いナショナリズムがもたらすもの

小倉正男の経済羅針盤 尖閣諸島をめぐるニュースが何かと騒がしい。
 中国が執拗に挑発行動を繰り返している。日本のメディアは一切無視したらどうだろうか。

 中国は大国というか膨大な国土を所有している。国境線が膨大に長い。強みでもあろうが、弱みでもある。
 国境線はたえずモメるから、その“防衛”には膨大な人員、カネがかかる。

 いまの国境線を守ると称して隣国の国境線を押し戻したり掠めたりと「膨張主義」になる。国土膨張エネルギーは歯止めのないものになりかねない。

 中国もそれに韓国も、そして実は日本もそうだが、いまの政治の指導者は苦労をしていない世代である。
 中国でいえば、周恩来、ケ小平といった苦労を重ねた世代は去り、深い知恵はそう求められないのではないか。

 「愛国教育」とか安っぽいナショナリズムに走る。国境線は安いナショナリズムに火がつく問題だから、これは片付かない問題になる。

■尖閣諸島問題の発火点

 いまの尖閣諸島をめぐる問題は、石原慎太郎・前都知事が尖閣諸島を購入すると言い出したことが発火点である。
――東京都が、民間からの寄付も加えて所有者の地主から購入、港湾をつくるというのがその骨子。

これに慌てたのが当時の野田(佳彦)内閣だ。中国の反発を恐れるあまり、国が尖閣諸島を購入し国有化した。

 民間の地主から他の民間人に所有が移るのがいちばんのあるべき姿だった。他の島々と同じように必要なら自治体などが粛々と港湾をつくればよいだけに話である。

 石原・前都知事が自分のおカネで尖閣諸島を買うというなら、それはまだ道理があったのではないか。
沖縄県が“一時預り”の格好で買うというならわからないでもない。だが、東京都が尖閣諸島を買うというのは大きな無理があった。

 野田内閣は言うに及ばず、小泉(純一郎)さんなど歴代の首相経験者を含めて、それを誰も諭すことがなかった。「石原さん、それは筋が違うのではないか――」。知恵や道理を説く人が存在しなかった。
これが中国の膨張主義に口実を与えたことを見逃してならない。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 10:27 | 小倉正男の経済コラム
2013年08月31日

【小倉正男の経済羅針盤】シリア軍事介入と「大義」の狭間

■シリア内戦への軍事介入

小倉正男の経済羅針盤 アメリカのオバマ大統領が、シリア内戦に軍事介入を検討――。
 シリアのアサド政権が、化学兵器を大規模に使用した疑いがある。これがアメリカの軍事介入の「大義」となっている。

 化学兵器は、生物への無差別殺戮兵器――。
確かに、化学兵器を政府軍、反政府軍のどちらが使用したか、といえば政府軍が使用したとしか思えない。

 アメリカの軍事介入は、トマホークによる空爆が中心で、あくまで限定されたものにとどまると見られている。

 オバマ大統領は、「化学兵器の大規模な使用に対する警告」という限定をわざわざ表明している。イラク軍事介入のように陸上戦はない、としている。

 これに対してシリア外相は、「(軍事攻撃に対しては)自国を防衛する」と発言。
アサド政権側は、数日間の辛抱と踏んでいるようだ。

■「大義」はあるのか

 こうなると、悪くいえばお互いの『政治ショー』に近くなる。
「戦争は、他の手段を持って継続する政治の延長」(クラウゼビィッツ)になり、民衆の悲惨さは解決されるのかどうか伺いしれない。

 アメリカの国民レベルでは、シリアへの軍事介入は慎重論が多数派と見られている。つまり、シリアへの軍事介入には「大義」がないと感じられている。

 アメリカの財政赤字は4年連続で1兆ドル台。2013年は1兆ドルを下回ると言われているが、軍事介入を行えば『物入り』となる。
 財政赤字の増加から、金利が上がり、ドルがさらに高騰する。

 しかもアメリカの盟友・イギリスでは、議会がシリアへの軍事介入を否決した。
 イギリスも少なくとも即座の軍事介入には、議会=国民が「大義」がないと判断しているわけである。

 オバマ大統領としても、「やる」と言い切ったのだから引っ込みがつかない。しかし、「大義」を持てずにやれば、それこそ『政治ショー』以下になる。
 気合の入らない戦争となり、アサド政権に見透かされることになりかねない。

 やってもやらなくても、残念ながら、オバマの負けに見えるのだがどうだろうか。

■「みんなの党」の内紛

 『政治ショー』以下と言えば、翻って国内政治――。「みんなの党」の内戦、いや内紛について一言したい。

 「みんなの党」は、規制緩和と政界再編成を旗印にしてきた。好感の持てる党、と思われてきた。
 ところが、ここにきて渡辺喜美代表と江田憲司前幹事長のケンカ。

 渡辺喜美代表は、「出て行けとは言わないが・・・」どころか、「何も言わないから出て行け」と。政界再編成ではなく、『党内再編成』を実行――。
 これでは、「みんなの党」ではなく、「自分の党」ではないか。

 『政治は、他の手段を持ってするケンカの延長』では、これまで「みんなの党」に票を入れてきた国民が報われない。
 スケールはあまりに小さく、「大義」がないどころか論じるに値しない不祥事というところか。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 17:48 | 小倉正男の経済コラム
2013年08月23日

【小倉正男の経済羅針盤】イオンがダイエーを子会社化の有為転変

■「流通業界の盟主」の有為転変

小倉正男の経済羅針盤 「イオンがダイエーを子会社化」――。
 いまさらながらだが、有為転変激しいものがある。

 1960〜70年代は、ダイエーが「流通業界の盟主」だった。インフレの時代にあって、なにしろ安い価格でモノを供給した。
 お客のニーズにそこにあったし、お客に支持されていた。

 『流通革命の旗手』といえばダイエー、そして創業者・中内功にほかならなかった。

 80年代にはプランタン銀座で銀座進出を図ったが、セゾン(西武)有楽町店ともども成功したとは言い難い。

 プランタン銀座では、中内は、開店間際まで現場指揮をしていた。気迫といえば気迫、はたから眺めていてそこまでやるかの思いを持ったものである。

■「ワンマン」の悲しさ

 「ワンマン」とは悲しいものである。
 野球でいうと、いつまでもエースで四番を辞められない。

 80年代になると、ダイエーの経営は方向感を失い、凋落の兆しが隠せなくなる――。台頭するイトーヨーカ堂グループに押しまくられることになる。

 側近の経営最高幹部に取材すると――。
 例えば、「ダイエーの経営は、お客にとって理解し難いものではないか」と問うと、「私が貴方なら同じことを言うでしょう」というような答えが返ってきた。
 もちろん、『ここだけの話にしてくれ』、という条件付の話である。

 会社の経営がおかしくなっている。それでも、「ワンマン」には何も言えない。情報が上がらない。
 エースで四番でないならまだしも、エースで四番はそのまま不変――。
「ワンマン」だからどうあれ何も変わらない。会社はますますおかしくなっていった。

■また時は失われるか

 新陳代謝は世の習い――。いまの流通業界の覇者であるイオングループ、あるいはイトーヨーカ堂グループもこの先どうなるかわからない。
経済のダイナミズムとはそうしたものだし、有為転変が続くことになる。

 アベノミクスは、夏休みということなのか、政策や動きが出てこない。
 法人税減税などサプライサイドを強化するベクトルが不可欠と思われるが、思い切りのよい発言は鳴りを潜めている。

 アベノミクスもこのまま賞味期限終了では、あまりにも面白くない。
 有為転変、新陳代謝――、そうしたものを刺激する政策が打たれなければ、また時は失われ続けることになるのではないか。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 10:14 | 小倉正男の経済コラム
2013年07月25日

【小倉正男の経済羅針盤】アベノミクスと観光産業&マーケット

■観光は奥行きがある成長市場

小倉正男の経済羅針盤 アベノミクスの第3の矢、すなわち経済成長戦略のなかで「観光」が取り上げられている。

 観光ははたして新しい成長市場分野になるのか。そう思われる方もいるのではないかと思われる。
 ところが、観光関連業界筋に聞くと、これが間違いなく成長市場だというのである。

 観光は旧い産業にみられがちだが、円安や規制緩和、それに世界遺産登録などの追い風も加わりマーケットはなかなか奥行きが深いし、しかも広い。
それに実際、観光マーケットを取り巻く背景も大きく変化を見せている。

■今年は訪日観光客1000万人実現へ

 観光業界筋によると、今2013年の訪日外人観光客は1000万人を超える見込みということだ。
「1000万人」という数字は昔から言われているが、以前はまるで"遠い夢"のようなことと思われていた。

 しかし、アベノミクスによる円安効果が大きく、外人観光客1000万人は実現できそうだという流れになっているそうだ。

 昨2012年の訪日観光客は835万8000人――。東北大震災で大きく落ち込んだが、回復を見せた。昨年は円高であったにもかかわらず観光マーケットの潜在力を示した。

 アジア諸国の経済力勃興、ローコストキャリア(LCC)などの普及で、観光による人々の行き来は増加する一方だ。
それが今年の訪日観光客1000万人の背景にある。

 観光客はショッピングを楽しむだけではない。ホテルや飲食、それに鉄道、バス、タクシーを使う。クレジットカードなども使われる。
需要は莫大、平和の恩恵によるマーケットにほかならない。

 観光業界筋によると、ホテル関連のリート(不動産投資信託)などは一般のオフィス関連のリートより安定しているという。旧いマーケットに見えるが、変化が起こっている。

■「観光」は国の勢いを見るのが原点

 「観光」という言葉は、『易経』で使われており、国の勢い(=光)を見るのが原点にある意味である。

 自国の勢い、他国の勢い、を見る――。それが「観光」という言葉の元来にある。本来は政治・軍事の概念だったと見られる。

 観光は、いまや各国の主要産業のひとつであり、日本は韓国などに比べて出遅れた一面がある。
 韓国は、ウォン安に加え日本の原発事故・円高などで、中国からの観光客が集中し、すでに訪韓観光客は1000万人を大きく突破している。

 アベノミクスでは取り上げられたものの観光産業&マーケットは、健康・医療、エネルギー、環境、農業などのジャンルに比べやや地味に映ってきた。ここは観光についての見方を少し変えていきたい。

 アベノミクスに中国、韓国が警戒気味といわれている――。それはアベノミクスが経済政策として機能している一面の証明ともいえそうだ。
参議院のねじれは解消、第3の矢で"国の勢い"をそれこそ取り戻してほしいものである。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 13:22 | 小倉正男の経済コラム
2013年07月11日

【小倉正男の経済羅針盤】アベノミクスと眠っている新需要

■選挙に入ったら人身事故が多発

小倉正男の経済羅針盤 参議院選挙に入ったら電車の人身事故に遭遇することが多くなった。

 経済にしても改革というものは、トップダウン事項だ。トップが、選挙で出払っているでは、改革は棚上げになる。

 電車の人身事故多発は、改革のストップや停滞と因果関係はないだろうか。
 
 参議院選挙の争点は、やはりアベノミクスにほかならない。

 論戦のなかで、民主党が、「アベノミクスは我々の主張していたことだ」、という理屈を何度か使っていたのには驚かされた。民主党はどこまで堕ちるのか。

■改革はトップダウンでしか進まない
 
 参議院選挙を挟んで、アベノミクスの第3の矢、すなわち経済の新成長戦略は進捗していくのか――。

 農業、医療、観光、エネルギー、環境と新成長戦略フィールドはすでに提示されている。

 なかでも、iPS細胞などの先端的な医療、あるいは医師に代わって手術などを行う医療用ロボットなどはこれまでにない分野だ。

 一般用医薬品のネット販売解禁は、薬局などの売り上げを減らしゼロサムになりかねない。ゼロサムでは規制緩和だと胸を張られても、あまり経済にインパクトはない。

 しかし、先端的な医療、あるいは株式会社の農業参入などは新規分野で、プラスサムな経済フィールドになる。

 こうした新規分野は、トップダウンで規制緩和を進めないと前には行かないものだ。お役所がボトムアップで進めることはありえない。

 お役所などボトムは、どちらかといえば、安全性などでリスク、不確実性があれば、ストップをかける立場になる。

 企業経営でも改革は、“日本型経営”の得意技であるボトムアップでとはいかない。日本経済、すなわち、いまの「日本株式会社」はトップダウンの経営が求められている。

■身近なところに新しい需要が眠っている

 アメリカのシスコシステムズが提唱している「IOE」(インターネット・オブ・エブリシイング)というコンセプトがある。

 これまでは、このネット市場では「IOT」(インターネット・オブ・シングス)と言われてきた。だが、そんなもではない、と歩を大きく進めたのが「IOE」である。

 すでに世界を覆い尽していると思われがちであるネット分野が、まだまだ世界経済の奥深い新成長フィールドだというのである。

 ネット分野は、いま使われているのはまだまだ揺籃期というか、とば口。これからまだずっと先にネットの本格的な活用期が来るのだ、というのである。

 例えば、日本は狭い道が多く、患者を乗せた救急車が動けないようなことが少なくない。

 しかし、信号システムを手直しすれば、救急車が患者を乗せて病院に急いでいる場合、救急車に信号のセンサーが働き、信号が止まるようにする――。

 インターネットはそんな当たり前なところにいまだ使われていないではないか――。

 既存の技術を組み合わせて新しい需要を掘り起こせる。信号システムを改良するだけで、日本全国の寝ていた新需要を呼び起こせる。「IOE」(インターネット・オブ・エブリシングス)とは、そうしたことにほかならない。

 ネットを身近なところに使い尽くしてくれというわけだ。ただし、こうした当たり前なフィールドも、トップが言い出さなければ眠ったままだ。

 ネットの世界だけをみても需要はまだまだ眠っている。こうした身近に眠っているフィールドを掘り起こしていけば、「日本株式会社」の前途は洋々、そう暗いばかりのものでない。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 08:28 | 小倉正男の経済コラム
2013年06月08日

【小倉正男の経済羅針盤】円高、株価急落!折れたか?アベノミクスの矢

■アベノミクスの矢は折れたのか?

小倉正男の経済羅針盤 安倍晋三総理が成長戦略第3弾なるものを講演してから、為替も株式も大荒れである。しかも、底が見えない状態である。円は高くなり、株は急落し、最悪の事態だ。

 成長戦略第3弾では、安倍総理に覚悟のようなものが見られなかった。

 規制緩和でも、一般医薬品のネット販売が目玉というのでは、期待が大きかっただけに失望を巨大化させてしまった。

 アベノミクスの矢は折れてしまったのか?

 『折れた矢』を放っても、参院選挙に勝ちたい――。

 参院選挙までは既得権益を持つ業界団体と手を繋ぎ、規制緩和には手を染めない。そうした安倍総理が抱える背景・ジレンマが報道されている。

 しかし、それではマーケットを始め、広範な一般国民がアベノミクスを見透かしてしまうことになる。

 アベノミクスへの期待が剥げ、ひるがえって安倍総理の支持率が急速に低下する。そうなれば参院選挙では、野党の混乱があっても、はかばかしい結果は得られないだろう。

■「強い経済を取り戻す」という原点への覚悟は・・・

 一般医薬品のネット販売で利害関係のある企業経営者から、一般医薬品のネット販売すら規制緩和をできないのか、という強硬な意見があった。――そうした経過も言われている。

 しかし、だからと言って、一般医薬品のネット販売を促進する、では話がわかりやすくて呆れてしまうことになる。

 それでは、小さな「政商」ではないか、――と規制緩和が矮小化される。

 そんなことならアベノミクスは大義をなくしてしまいかねない。

 安倍総理は、「強い経済を取り戻す」という大義をかざし、その手段として規制緩和を打ち出したのではないか。それはアベノミクスの原点のなかの原点のはずである。

 「成長戦略、なかでも規制改革はアベノミクスの一丁目一番地」――。

 一丁目一番地は華やかに繁栄してほしい。だが、その逆に荒廃が進行するようでは以前の"失われた20年"に逆戻りしてしまう可能性がある。

 何のためのアベノミクスか、ということになる。政権&政治の安定性はもろくも崩れかねない。

 ここは既得権益を持つ利害団体などをあえて敵に廻しても「強い経済取り戻す」という原点への覚悟を見せてほしいものである。

 アベノミクスの真価はいかなるものか――。その真贋定かならずでは、マーケットのみならず人心が迷い離れることになってしまうことを恐れるべきである。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 06:25 | 小倉正男の経済コラム