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2018年06月03日

【小倉正男の経済コラム】悲観ばかりしているうちに世界経済が地滑り的変化

■アメリカの景気は絶好調の状態

kk1.jpg アメリカの5月雇用統計で確認されたのは、景気がほとんど絶好調の状態にあるということだ。

 非農業部門雇用者数では22万3000人増と市場予想を大きく上回った。失業率は3.8%という完全雇用状態にあり、ほぼ究極までの改善が進行している。賃金は2.7%増と緩やかだが、これも上昇している。

 製造業、そして小売業などサービス産業とも雇用者を増加させており、製造業の設備投資などに関連する建設業も雇用者増加に貢献している。

 設備投資では、先行きを睨んで半導体・半導体関連製造装置などが主役になっている模様。次世代スマホ、自動運転など先進自動車向けなどに先行して設備投資が行われており、やはりハイテク分野がアメリカの景気を根底で引っ張っている。

 トランプ大統領の「貿易戦争」、イタリア、スペインの政情混迷があるが、一方で「米朝会談」は前進する方向にある。ともあれ、アメリカの景気そのものは悪くない。

 日本のメディア(経済新聞など)あるいは企業も同じで、懸念材料ばかり強調する面がある。それは良識といえば良識だが、相も変わらず悲観ばかりしていることが「芸」とはいえないのではないか。

■高所恐怖症=需要が旺盛すぎて対応しきれていない

 日本の企業にも、次世代のスマホ、クルマ、白モノ家電などの先行・設備投資により、旺盛な受注が続いている。
 「いったいどこまで続くのかと――。だが、いまのところ不安というか、懸念されるマイナス材料はない」(半導体など電子部品・製造装置関連商社経営トップ、装置据付など設備工事企業経営トップなど)。

 需要が旺盛すぎて、それに十分に対応しきれていないのが実体である。例えば、いま製造関連装置などに受注があっても、完成・納期は1〜2年先になる。つまりは、受注残になる。
 「手持ちの受注残をこなすので一杯一杯」というのが、関連業界筋の声である。新たな受注に手を付ける余裕がないというのである。

 各社経営幹部筋は、売り上げ、収益、受注残、受注が過去最高の水準にあり、「高所恐怖症」を抱えているとしている。
 「いつもなら、このあたりでピークを迎えるのだが、今回はまだピークを打ったという感じはない」(電子部品関連業界経営トップ)。
 この需要は、国内もそうだが、とくに中国からもたらされている。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 20:08 | 小倉正男の経済コラム
2018年05月16日

【小倉正男の経済コラム】決算発表:全般に超保守的な業績見通し

■今19年3月期見通しは超保守的

kk1.jpg 決算発表がたけなわである。前18年3月期決算は絶好調なところが多い。アメリカ、 そして中国のふたつの経済大国の景気が良いのだから、日本も悪いわけがない。

 しかし、今19年3月期決算の数字は相変わらず保守的な見通しを出す企業が少なくない。

 前期は凄まじい増収増益を達成しているのに、今19年3月期については「減収減益」を表明している企業もないではない。
 「この減収減益という予想数字はないでしょう」、と私が尋ねると、「いや、最低限の目標として出したものだ」とさらに首が傾ぐような経営者からの返答。

 決算説明では、経営トップから、自社について悪い業況についての話は出ない、むしろ良い業況に話が及んでいるのに、今19年3月期見通しは営業利益、経常利益が横ばいとなっている企業もある。業況説明と今期見通しが合致していない。どっちかにしてほしい・・・?

 「社長の前向きな業況説明と予想数字の横ばいが合わない。どっちが本当なのか」と質問すると、「いや、為替がどうなるか読めない」とか、これまたわかったような、わからないような返答をする財務担当取締役。

 今19年3月期に30%増益を打ち出しているあるハイテク企業だが、それでも膨大な受注残、高い利益率などを勘案すると、やはり控え目である。期中に増額修正を含みとして残している模様だ。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 13:02 | 小倉正男の経済コラム
2018年05月04日

【小倉正男の経済コラム】週明けから決算ラッシュ〜好決算が続出か

■案に相違のアップルの好決算

kk1.jpg 決算シーズンとなっている。アメリカが先行、日本は連休明けに本格化する。

 アメリカでは、中国との関税の掛け合いなど「貿易戦争」めいた機運の影響が懸念されているが、決算=景気は悪い状況ではない。

 「貿易戦争」回避で交渉が進行している。政策金利は据え置かれたが、6月には利上げが行われるとみられている。不確実性というか懸念材料は少なくないが、トータルでは少しずつ前に進んでいるようにみえる。

 アメリカの企業決算では、アップルが注目されていた。事前には「iPhone X」の売り上げが懸念材料として喧伝されていたが、決算は真逆でむしろ絶好調だった。「iPhone X」は、中国、日本マーケットなどで買い替え需要を喚起しているというのである。

 案に相違とはこのことで、重石が取れたということになるか。
 結局は四半期ごとの決算で多くのことが判明する。要は、決算を読み込んでいけば、いろいろなことがみえることになる。

■結果を出せない経営者は消えていく

 決算の結果が、経営者を判断する尺度である。これは世界のルールということになる。

 私のたまたま知っている経営者なのだが、「減益決算と悪く書かれている」と怒っているのをみたことがある。2年連続の減益決算、下手をすれば3年連続で減益になりかねないケースなのだが、本人は怒っている。
 これは酷い経営の事例で、「悪く書かれている」のではなく、「悪い」という判定になる。

 企業も新陳代謝していくのだが、経営者も新陳代謝していく。
 その昔、アップルの経営トップであるジョン・スカリー(当時)にインタビューしたことがある。場所はサンフランシスコの中華料理店で、春巻きを食べながら取材したわけである。

 当時、日本マーケットでのアップルは、パソコン(マッキントッシュ)の販売が伸び悩んでいた。
 パソコンはまだまだ価格が高い時代だったが、とりわけマッキントッシュは断トツに高価だった。技術や性能に自信を持ち、アメリカと同じマーケティングで、日本でも販売していたのである。

 「自信の持ちすぎではないか。日本マーケットとアメリカは違う・・・」と聞くと、「興味深い話だ」と返してきた。しかし、その後、アップルは停滞期に入り、ジョン・スカリーも新陳代謝というか、経営から消えていった。

■週明けから日本企業の決算が本格化

 企業も経営者も新陳代謝していくものだ。
 アップルもダメになりかけたが、経営者を変えることで、蘇生する事例となった。スティブン・ジョブスがトップに返り咲いて経営を変えて、iPhoneなどで世界のハイテク産業を牽引する企業になる礎を造った。

 アメリカの強みだが、企業も経営者も新陳代謝していく。日本も大枠同じではあるが、アメリカのようには進まない。酷く時間はかかるが、それでも大枠でなんとか新陳代謝は進んでいく。

 メジャーリーグ入りした大谷翔平(エンゼルス)が大変なブームになっている。「ワクワクする」「楽しい」と新しくてよいものは鷹揚に受け入れる。反対にイチローには、引退が突きつけられる――。いくらよいものでリスペクトがあっても、古いものは新陳代謝の妨げでしかない。これがアメリカの新陳代謝力の源泉、凄さである――。

 さて、連休明けは日本企業の決算が本格化する。
 連休前に発表された決算をみると、絶好調な企業が少なくない。おそらく、よい決算が続出することになる。アメリカも中国も景気がよいのだから、日本企業の決算が悪いわけがない。

 それでも一喜一憂せず、決算を読み込み、日本企業の新陳代謝力を眺めてみようではないか。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:03 | 小倉正男の経済コラム
2018年04月06日

【小倉正男の経済コラム】「貿易戦争」トランプ大統領の狙いはルール変更

■米中が高関税のブラフで脅し合う構図

kk1.jpg アメリカと中国という経済大国が「貿易戦争」状態になっている。しかし、トランプ大統領は、「我々は中国と貿易戦争をしているわけではない」とツイートしている。

 アメリカと中国が、お互い相手国の輸入品に高関税を課すと表明している。ただし、現状は表明だけで、実施はしていない。
 いまはいわばブラフの掛け合いであり、お互いに負けずに大仰に脅し合っている。

 自由貿易主義を牽引してきたことを自負してきたアメリカが、「保護主義」めいた高関税をチラつかせるのも奇異である。
 社会主義市場経済であまり公正とも思えない中国が、自由貿易主義を振りかざすのも奇異である。

 アメリカ側は、中国が自由貿易主義を唱えるなら、国をもっとオープンに開きフェアな体制にしろということになる。

 「トランプ大統領も最終的には自由貿易主義者だ」とは、トランプ政権側から出ている話だ。
 アメリカは中国に闇雲に貿易戦争を仕掛けているのではない――。別段、「保護主義」を奉じているのではなく、自由貿易のあり方を探っているのだというわけである。

■落しどころは心得ているのか

 アメリカと中国が「貿易戦争」というか、高関税の制裁リストなどを発表するたびに為替、株価などが乱高下している。マーケットには激震が走る。

 アメリカでも、中国が大豆を制裁リストに載せたことで国内の大豆生産農家から悲鳴が上がっている。大豆は、アメリカから中国への輸出品では最大の品目であり、中国は中国で痛いところを突いている。

 ロス商務長官が、「これらがすべて最終的に何らかの交渉という形で収束しても驚くべきではない」と発言している。落しどころは心得ているというわけであり、マーケットに安心感を与える状況になっている。

 ロス長官はトランプ大統領と連携を取っているのか。「貿易戦争」に見えるが、舞台裏では交渉でディールが進んでいるのか。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 13:09 | 小倉正男の経済コラム
2018年03月30日

【小倉正男の経済コラム】中朝会談=核とICBMを持ったジレンマ

■核とミサイルを持っても恐怖は変わらないという相矛盾

kk1.jpg 習近平国家主席と金正恩委員長の中朝会談(3月25〜28日)が行われているというのに日本は朝から晩まで森友学園問題にからむ“佐川宣寿証人喚問”ばかりだった。

 北朝鮮の金一族としては3代目の金正恩委員長にいたるまで、核とICBMを持てばアメリカに潰されないようになる、とそれを遮二無二進めてきた。

 金一族による世襲という「国体」を護持できて安全を確保できる“宝剣”が、核とミサイルを持つことであると思い込んできたわけである。

 しかし、いざ核とミサイルを持つ、あるいは持つ寸前になっているとなれば、恐怖感も出てくる。

 アメリカとしては持たれては困るのだから、それこそ本気で潰しにかかる。北朝鮮としては、持つ寸前、あるいは持てば持つたで、怖いのはひとしおだ。

 持たないと怖い――、だが持てばそれはそれでまた怖い――。いまの北朝鮮はちょうどそこにある。相矛盾するが、世の中はそうしたものである。

 超音速ステルス爆撃機B1Bにいつ襲われるかわからない状態にあるのだから、金正恩委員長としてもおちおち眠れないのではないか。

■後ろ盾=相矛盾するがそれが現実

 日本のメディアからは、中朝会談で金正恩委員長は習近平国家主席に後ろ盾をお願いしに出向いたといった見方が出されている。

 米朝会談を控えて、金正恩委員長としては、“後顧の憂い”を取り除いておきたいのは山々だろうがそう簡単ではない。
 
 北朝鮮が、核とICBMを持つという行動を取るというのは、後ろ盾は要らない、自立してアメリカに当たるという表明である。いまさら、後ろ盾うんぬんというのは、これまた相矛盾するわけなのだが、それも現実ということなのかもしれない。

 ただし、中国が後ろ盾になってくれるかどうかといえば、そう甘いものではないだろう。中国の意に逆らって核とミサイルを自ら持とうとしたのだから、「後ろ盾、はい、はい、わかりました」、とふたつ返事で中国が北朝鮮を後見してくれるとは思えない。

 ただし、習近平主席にとっては、金正恩委員長がいざとなったら結果的に接近してきたのだから悪い話ではない。ともあれ乾杯(カンペイ)というところか。習近平主席は、金正恩委員長にメモを取らせた映像を流して、格の違いを印象づけている。

t1.jpg
写真=北朝鮮「労働新聞」HPより

■核とミサイルを持ったという相矛盾を抱えたという事態

 トランプ大統領は、ツイッターで習近平主席から「金正恩氏が私との会談を楽しみにしているとのメッセージを受け取った」ことを明らかにしている。「我々の会談を楽しみにしている」とツイートしている。

 トランプ大統領は習近平国家主席との関係の良好さを示して、余裕とまでいえば言いすぎだろうが楽観的なツイートしている。

 習近平主席は、トランプ大統領に中朝会談を説明しており、昔のように中国が北朝鮮と寄りを戻したということではないといういまの関係性を示唆している。

 中朝会談で、中国は北朝鮮の後見役というオプションを手に入れたようにみえる。だが、核とミサイルを持っているという国を後見するのは、中国にとっても心地よいものではない。トランプ大統領が、習近平主席との連携に自信をもっているのは、北朝鮮の非核化については中国の立場は変化がないとみていることによる。

 北朝鮮としては、後がない状態だ。5月の米朝会談がうまくいかなければ、金一族の世襲といった「国体」護持どころではなくなる可能性がある。核とミサイルを持った以上、以前のように非核化を装ってフェイクを重ねて逃げるという芸当が使えなくなっている。

 核とミサイルという“宝剣”を手に入れたら入れたで、陥れるジレンマはおのずと生み出されるということではないか。核とミサイルが完成途上なら、フェイクも大目に見逃してくれたが、いまはそうはいかなくなっている。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:36 | 小倉正男の経済コラム
2018年03月13日

【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領は『ドル安(円高)プレジデント』か?

■金利上昇でもドル安(円高)

kk1.jpg トランプ大統領は、その政策が明らかになるにつれて、「ドル安」ファクターであることが定着している。

 開示された雇用統計では、この2月の非農業部門の雇用者は31・3万人と高水準にあることが発表された。ほぼ完全就業状態のなかで、旺盛な雇用増となっている。
 ともあれ雇用の強さが確認された。アメリカの景気はかなりよいということの証明であり、インフレを防止するために金利はどうあれ上昇するとみられている。

 しかし、金利が上昇の方向なのに、為替はドル高にならないどころか、ドル安になっている。これまでは金利上昇はドル高ファクターだったのだが、いまはドル安ファクターになっている。

 賃金の伸びが予想を下回り、金利上昇のペースが少し緩和されるという見方により、一気のドル安は避けられたが・・・。しかし、金利の先高は変わらない。ところがトレンドはドル安である。

■トランプ大統領の政策により財政赤字懸念でドル安に

 これはトランプ大統領の政策によって、そうした変化が起こっている――。

 法人税減税、個人減税、インフラ投資、軍拡投資、これらは財政の巨額赤字を呼び込みかねない。大量の国債発行を行う可能性が生み出される。大量の国債を消化するには金利上昇が必要になる。マーケットは、そう読みこんでいる。

 そんなことで、アメリカは巨額財政赤字で国債格付けが低下すると懸念されるにいたっている。いわばアメリカの国力低下が予見されている。

 金利上昇はいまやドル安ファクターになっている。日本にとってみれば、アメリカの金利高は、円高に作用する状態をつくっている。

■保護主義=貿易戦争もドル安(円高)ファクター

 鉄鋼25%、アルミ10%という高関税を輸入品に課すというトランプ大統領の「保護主義」もドル安ファクターである。

 輸入品は高関税分が値上げされる勘定になる。国内企業も同等の値上げを行うとすれば、鉄鋼、アルミを購入して製品に加工する企業にとってはコスト増要因となる。その分はインフレになる。
 コスト増を背負わされた企業は製品加工を諦めて、アメリカを去ることにもなりかねない。

 高関税を課せられた相手国が、報復関税を実施すれば、すなわち「貿易戦争」になれば貿易そのものがどんどん縮小していく。アメリカにとっても、もちろん世界にとっても利益はなにひとつない。
 この「保護主義」=貿易戦争でもドルは売られ、円が買われる動きとなっている。

 トランプ大統領が、「貿易戦争は楽勝だ」とか強がって発信するたびにドル安になる寸法である。反対に「保護主義」が後退するとドル高になる。保護主義は、どこからみてもドル安ファクターということになる。

■トランプ大統領は“ドル安(円高)プレジデント”

 トランプ大統領と金正恩委員長の「米朝トップ会談」は、いまのところドル高に作用している。日本の地政学的なリスクが低下し、円安がもたらされている。

 円はどういうわけか、トランプ大統領と金正恩委員長の対立や緊張が激化すると買われる傾向となっている。緊張が緩和すると円は売られる。

 いまは緊張が緩和しているわけだから、円安のファクターである。ただし、アメリカの財政赤字拡大、金利上昇、貿易戦争といった懸念が横たわっているから、トータルでは「ドル安円高」に振れている。

 「米朝トップ会談」もいまは“ハネムーン”みたいな時期であり、夢ばかりが先行している。しかし、会談してみたら破綻してケンカ状態に後戻りすれば、一転してたちまちドル安のファクターになりかねない。
 「米朝トップ会談」は、夢は夢でも、悪夢になることもありうる。

 先々はなんとも読めないわけだが、後年にはトランプ大統領は“ドル安(円高)プレジデント”と呼ばれることになるのではないか。そんな心配がよぎっているのが昨今である。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:11 | 小倉正男の経済コラム
2018年03月08日

【小倉正男の経済コラム】「南北首脳会談」トランプ大統領はどう見極めるのか

■トランプ大統領とマーケット

kk1.jpg トランプ大統領の「保護主義」には、共和党からも批判というか、大人がたしなめるような動きも表面化した。

 ――法人税減税、個人減税とアメリカの景気にせっかく追い風を吹かせようとしている。そのときに「保護主義」を持ち出して景気に水をかけるようなことをするべきではない――。

 共和党のライアン下院議長などの発動停止・撤回に向けての発言はかなりまっとうな感がある。(カネ持ちに偏った)減税の是非はあるが、ともあれその減税をほめて、そのうえで「保護主義」を取り下げろというのだから、説得の作法としては完璧である。

 それでもトランプ大統領は、「撤回しない」「貿易戦争になるとは思わない。簡単に勝てる」と相変わらずである。他人のいうことは聞かない、聞けない。

 鉄鋼25%、アルミニューム10%の輸入関税を課すというトランプ大統領の政策だが、もともとはアメリカの貿易収支大幅赤字が発端である。それならそれで違う政策がありそうなものだが、いきなり高関税による輸入制限に手を出そうとしている。

 トランプ大統領は、なんでも手を突っ込まないと気がすまないわけだが、そのつど為替(=ドル)が売られ、株が売られている。
マーケットは、機関投資家やら投機筋やらが相場を支配して酷い乱高下を繰り返している。下げるにも上げるにも、理屈と絆創膏はどこにもくっ付くというやり方である。

■「南北首脳会談」――マーケットは半信半疑

 そんなところに「南北首脳会談」合意の一報である。
「体制が保障されるなら核を保有する理由はない」と北朝鮮の金正恩委員長が合意したというのだが、どこまで信じてよいことなのか。

 6日のNY株価はやはり半信半疑――。高関税による貿易戦争懸念が拭えないという問題が残っている面があるが、「南北首脳会談」には気迷いをみせている。ドル円の為替も大きく反応することはなかったが、その後はやはり「保護主義」=貿易戦争への懸念からドル安に転じている。
ただ、ナスダックは上昇、IoTなどハイテク関連はかりそめの「平和」でも歓迎といったところである。

 トランプ大統領は、「北朝鮮は非常に前向きに行動している」と評価しながらも、「様子をみよう」としている。どちらかというと、いわばまっとうな態度をとっている。核放棄が本物かどうかを見極めるというわけである。

■常套手法に騙されることはないか

 ただし、北朝鮮が“時間稼ぎ”をしているのは間違いないところではないか。北朝鮮は韓国の文在寅大統領を抱きこんで「平和」を演出して、核放棄まで装っている。――そうみるのが現状では自然というしかないだろう。

 確かに、いまは見守るしかない。だが、北朝鮮の手法はいつも巧妙である。想像を超越するようなやり方を平気でやる面がある。

 何度も使われている常套手法だが、くっついたり離れたりで時間を稼ぎ、核とロケットの完成を進めているとみられる。ついつい騙される。“オレオレ詐欺”みたいなものである。
 ずるずると北朝鮮のペースで引きずられてまたしてもやられましたということになるのではないか。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 09:46 | 小倉正男の経済コラム
2018年03月04日

【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領への不信、金利上昇でドル安の報い

■トランプ大統領の政策に信頼が置かれていない?

kk1.jpg 3月に入ったが、その途端というべきか株価は波乱の幕開けとなっている。2月中旬の乱高下=大幅下落が「本震」とすれば、3月初めの大幅下落は「余震」のようなものか。
 いずれも、震源地はアメリカ・トランプ大統領にほかならない。

 もっとも、今回の株価下落は、高関税による鉄鋼、アルミの輸入制限が原因だ。つまりは、保護主義的な政策である――。これには内外から強い批判・反発が出ている。

 2月の乱高下では、「株価は理由もなく騰がり過ぎていたのだから調整は当然のもの」(金融証券筋)と前もって予知していたかのようなことをいう識者がいた。大したものだと呆れる、いやいや恐れ入ってリスペクトしなければならないのだが、今回も事前に予知していたのだろうか。

 たびたびの株価の乱高下は、元をただせばトランプ大統領の政策に尽きる。トランプ大統領の政策に「人望」がないというか、信頼が置かれていないことが発端にあるように思われる。

 「よいニュースが報じられたときに株式市場が下がる。大間違いだ」。トランプ大統領本人は、そう怒っている。
しかし、必ずしも「よいニュース」とばかりはいえないと思っている人々も確実にいる。

■減税に感銘が失われているとは・・・

 トランプ大統領の政策――、例えば法人税減税だが、税率は35%から20%に下がった。確かに画期的な法人税率である。

 法人税減税で、直接、恩恵を受けるのは経営者、大株主である。法人税が減れば、利益が残るから、経営者の報酬にはプラスである。利益が残れば、配当余力が高まり、配当が増加する。大株主には確実にプラスになる。法人税減税は、カネ持ちに有利に働くことになる。

 しかも、個人減税では、7段階が3段階に簡素化され、最高税率は39.6%から35%に低下した。カネ持ち減税にほかならない。

 カネ持ちを減税すれば、おカネを使うから経済には廻りまわって好循環を及ぼすというのだが――。
 ただし、この政策は、すでに何度も行われており、一握りのおカネ持ちがアメリカの資産のほとんどを握って支配しているのが実体となっている。

 ビル・ゲイツ氏は、「おカネ持ちはもっと税金をはらうべき」と異論を述べている。トランプ大統領とは異なり、減税を「よいニュース」とばかりに捉えていない。「トランプの減税」だからというより、減税そのものに感銘が失われているのかもしれない。

 トランプ大統領は、白人の中間層を救うということで大統領選挙に勝ったわけだが、今回の大規模な減税策は、ともあれ直接的に中間層に恩恵を与えるものではなかった。

■金利上昇でドル安になる始末

 財政出動によるインフラ投資、核を含む軍拡・軍備更新は、国債発行を伴うものだから金利上昇が追いかけてくる。金利上昇傾向は、株式市場を直撃することになった。

 さらに国債発行で財政赤字が大幅に拡大するからという懸念なのか、ドルが売られる始末になっている。金利上昇でドル高というこれまでの「常識」が吹き飛び、金利上昇でドル安となっている。

 株安、ドル安と、トランプ大統領の思惑は大きく外れ、「よいニュースなのに。大間違いだ」、と。

 政策も人なり――。これもトランプ大統領に信頼がいまひとつ置かれていないということなのかもしれない。トランプ大統領の政策には“懸念”や“不信”が付きまとうとマーケットは判断しているのか。

 株もドルも売られている?マーケットが常に正しいとまではいえないにしても、それがとりあえずのマーケットの判断であるということができる。この悪循環を断ち切ることができるのか。

 バブルな政策を打っても、不徳の至り、あるいは不信の報い、というかバブルに膨らむ前に警戒されて膨らまない。さてさて、3月は桜が膨らむ季節だというのに・・・。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 09:01 | 小倉正男の経済コラム
2018年02月18日

【小倉正男の経済コラム】市場はトランプ大統領に手厳しいお仕置き!トランプ流とレーガン流の違い

■レーガン流は不況打開の経済政策

kk1.jpg 前回のこのコラムで、トランプ大統領は法人税減税、個人減税、財政出動(インフラ投資)、核など軍備更新、そして軍事パレードと、なんでもやりたがるクセ、さらにやり過ぎるクセがあると書いた。
 しかも、時や場合をわきまえているわけでなない。

 トランプ大統領がお手本にしているレーガン大統領の「レーガノミクス」――。個人減税と規制緩和を行った。さらにロシアに対抗して軍拡を行った。軍拡にはおカネが必要であり、財政出動(=財政赤字)を伴った。

 「レーガノミクス」は不況(スタグフレーション)打開を目指したものだった。
 個人減税で消費を起こそうとした。お金持ちを対象に減税すれば、消費を刺激できるという政策である。

 規制緩和は、ベンチャー企業を育成する「誕生権経済」を意識したものだった。不況打開のために、アップルなど新しい企業群を育成したのである。いまのアメリカ経済を支えるお宝のような新・主力企業は、レーガン大統領の育成策が発端となっている。

 一方、軍拡による財政出動は、国債増発を呼び込んでしまった。高金利時代となり、長期国債(トレジャリーボンド)は15%を超える高利回りだった。
 「レーガノミクス」、つまりレーガン流は、不況と悪性インフレと悪戦苦闘した経済政策といえるものだ。

■トランプ流の経済政策は時と場合を得ていない

 トランプ流は、経済が好況である時に大不況期並みの経済政策を押し広げたものである。時や場合をまったく考慮していない。
 大昔の植木等ではないが、「お呼びでない、こりゃまた失礼しました」というフェイクなキャラがトランプ流である。(若い人にはわからないか。)

 失業がないといった「完全雇用」状態で、インフレ懸念から金利が上がっている時に、大規模な景気刺激策を打ち出している。
 法人税減税、個人減税、財政出動を伴うインフラ投資、同じく核などの軍備更新・拡充とこれでもかと全部を広げ並べて悦になっている。

 これが金利上昇不安を醸成し、株式市場の乱高下、大暴落を呼び込んでしまった。バブルになる前に、経済政策があまりにバブルであるために、予防的な破裂を起こした。前代未聞の粗忽な「トランプバブル崩壊」という事態である。

 大不況時の経済政策を好況時に打ち出したわけである。トランプ流は、これでもかこれでもかと面白いのだが、キャラがいまの時期や状況に不整合である。本当に不況期になったら切るカードがないという問題も残る。

 粗忽というのか、時代に合っていない、むしろ時代を混乱させる・・・。大国を治めるは小鮮を煮るがごとしで、箸を入れないのがやり方だが、スプーンやら何やら手を入れすぎである。(前回のコラム参照)

■マーケットがトランプ大統領に手厳しいお仕置き

 私など呆然とするしかないのだが、世の中は呆然とすることが起こるものである。後付で「株価が高くなり過ぎていたわけで株価が調整された」といわれればそれはそうだが、そういわれてもあまり感銘はない。

 ただ、今回の株式市場の乱高下、大暴落はバブル崩壊、バブル破裂という構造的な悪化ということではない。
 過剰に景気がよくなる、あるいはあまりにバブルを引き起こしかねないということで金利が上昇し、バブル予防的に事前破裂を起こしたということではないか。ともあれパニックを伴って株式市場の「調整」を結果として激しく進めたという側面がある。

 アメリカの長期金利は2.87、この水準から上昇するようならリスクが再びぶりかえすという悲観論・警戒論がいまや一般的である。ただし、企業業績、景気はよいのが実体だ。金利は「正常化」に向かっているという見方も出ている。

 確かに株式市場の「調整」というには、暴落幅が激しすぎたわけだが・・・。マーケットの役割といえば役割だが、凄まじいものだった。なんでもやりたがる、やり過ぎるトランプ大統領にマ−ケットが手厳しいまでの警告やお仕置きをしたということになる。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 09:11 | 小倉正男の経済コラム
2018年02月15日

【小倉正男の経済コラム】トランプ流の「過剰」に株式市場がNO!

■トランプ大統領の大判振る舞いで金利上昇懸念

kk1.jpg 株価の乱高下は企業にも衝撃を与えている。嘆きは絶えない。

 「わが社の株価はせっかく騰がってきていたのに騰がった分が吹き飛んでしまった」
 「これで経営者は賃上げに慎重になるだろう」etc

 「大判振る舞い」も時期を間違うと顰蹙を買うということがある――。トランプ大統領の経済政策が「過剰」すぎたのではないか。

 アメリカの景気はもともと好調だった。就業者が増加し、完全雇用に近い状態になり、賃金もアップする寸前にあった。そこにトランプ大統領の法人税減税、個人減税に加え財政出動という大判振る舞いが打ち出された。

 人手不足で賃金が騰がり、インフレになる。財政出動のために国債が増発される。国債の消化のために金利上昇という運びになる。

 当初のところ、株式市場はトランプ大統領の大判振る舞いを歓迎していた面がある。しかし、金利上昇による株式市場からの資金離れを懸念し、一転して株価は大きく下落に転じた。株価は騰がりすぎていたといえばそうだったわけだから酷いことになっている。

■株式市場からNOを突きつけられる

 「よいニュースが報じられたときに株式市場が下がる。大間違いだ」
トランプ大統領のツイートである。フェイクニュースどころか、現実がフェイクだというわけである。

 問題は景気のよいときに景気のよい話を打ち出したことである。要するにエンジンの吹かし過ぎというか、屋上に屋を重ねるように景気をよくしようとした。金利上昇という副作用を呼び、株式市場からNOを突きつけられた格好である。

 誰が間違っているのか――。マーケットか、トランプ大統領か。ここを正さないと再び乱高下が起こりかねない。あるいはマーケットはそれを織り込んでいくのか。

 ステーキを食べて、すき焼きをたいらげ、お寿司をつまんで、おまけにハンバーガーをほうばってみたいなものだ。てきめんにお腹を壊すことになる。すこしは反省して謹慎しなさいということになる。

■バブルに至る前に破裂というトランプ流

 トランプ大統領は、「アメリカを再び偉大にする」というのだから、アメリカの現状は偉大ではないという認識になる。

 ――だから大型減税をする、財政出動をする、核など軍備更新をする、さらに軍事パレードをする、なんでもやりたがるクセがある――。さらにいえば、やり過ぎるクセがある。

 普通は念入りにバブルに至って破裂するのだが、バブルに至る前に粗忽に破裂してしまっている。トランプ流というか、いままでにないトレンドといえるのではないか。

 リーマンショックからほぼ10年、世界はトランプ流の「過剰」に直面している。過ぎたるは及ばざるがごとし――、満つれば欠けると悠長に構えていられないのがいまなのかもしれない。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 08:43 | 小倉正男の経済コラム
2018年01月23日

【小倉正男の経済コラム】いまの消費はEコマースを抜きには語れない

■「消費が悪い」「好景気の実感がない」という常套句

kk1.jpg アベノミクスの評価にかかわるのだが、企業業績は史上最高の決算が相次ぐ勢いである。

 企業は、利益が出ても、これまでは利益剰余金など内部留保を溜め込むばかりだった。設備投資も手控え、増配も賃上げもしない。企業経営者は、ひたすら脇を締めるのみだった。

 だが、企業はようやくここにきて、増配といった株主還元にも踏み出す見込みである。賃上げにも消極的だったが、これもさすがに重い腰を上げる気配が出てきている。
 増配すれば、次は賃上げということになるのは当然の動きである。そして、設備投資にも動意が出てきている。

 求人倍率も上がるばかりで、雇用も高水準である。つまり、景気は悪くない――。

 「消費が悪い」「好景気の実感がない」――、そうした言葉がメディア、すなわち新聞、雑誌、テレビから流されている。常套句というか、同じパターンで何年も語られている。メディアは“庶民の味方”というわけだが、はたして事実はどうだろうか。

■いまの消費は百貨店、スーパー、コンビニだけではない

 好きだ、嫌いだとか、あるいは思想、信条だとか、いろいろなもので縛られた頭で物事を見ると間違うことがある。できるだけ頭を自由にして物事を見なければならない。

 確かに、百貨店、専門店、スーパー、コンビニなどのリアル店舗の売り上げだけを見ていたら「消費が悪い」ということになる。
 百貨店、専門店、スーパーは統廃合や閉店となるところが出ている。コンビニも再編成が進行して統廃合などが進行している。

 しかし、ネット通販、ネットショッピング、あるいは「ふるさと納税」などを含めたEC(Eコマース)は拡大するばかりである。ECの拡大で、物流面では配送する量に人手が追い付かずパニックになるほどである。

 つまり、ECといったバーチャル店舗の売り上げをベースにすると「消費はよい」、あるいは「消費は悪くない」ということになる。

■ザ・パック=EC向け包装箱の成長で過去最高益

 現代の消費は、リアル店舗だけではなく、バーチャル店舗の動向を含まないと、一概に良いとか悪いとかいえない。バーチャル店舗での消費は、年を追って急激な拡大をとげている。

 そんなことを思ったのは、紙加工品の有力企業であるザ・パック(東証1部)の売り上げ動向からである。ザ・パックの主力商品の百貨店向けのショッピング用紙袋の需要は、横ばい〜微増がとなっている。
 百貨店向け紙袋は、インバウンド関連の“爆買い”に救われてきたが、それでも微増維持が精一杯である。

 ところがEC(Eコマース)向けの包装箱は需要が旺盛で、成長期に突入している。包装箱は、2016年あたりから成長が顕著となり、ザ・パックの業績に貢献している。ザ・パックは過去最高益更新――。

 包装箱とは、宅配便などで自宅に届けられる商品が梱包されている茶色や白色の段ボール加工品である。先々はこの包装箱が、ザ・パックの主力商品になりそうな勢いだ。
 余談だが、ちなみにザ・パックは、この包装箱にデザインなど意匠を施して美粧性のある商品に進化させる戦略を進めている。

■「消費は悪い」――、はたしてそれは真実か

 包装箱が降って沸いたように成長軌道を描いたのは、ECの売り上げ拡大と軌をいつにしている。

 いまでは若い人たちなどは、パソコンやスマホでカタログをチェックして、ネットであらゆる商品を購入している。
 なかには通勤電車のなかでスマホを使ってショッピングをするというライフスタイルも出てきている。

 いまの消費動向は、ネットショッピングという膨大な「ステルス」部分を抱えている。「消費が悪い」――、はたしてそれは真実か。

 いまの経済のファンダメンタルでの変化を感じなければ、“景気の実感”はいつまでも持てないことになる・・・。

(小倉正男=M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 11:10 | 小倉正男の経済コラム
2018年01月15日

【小倉正男の経済コラム】南北会談、融和は北の仕掛けたフェイク(罠)

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■北朝鮮の手に乗る文在寅大統領

 またもや北朝鮮の「勝ち」になりそうだ。いよいよ危なくなるとギリギリで脈略なく「平和カード」を持ち出すのが、北朝鮮の常套手段である。何度も騙されているのだが、今回も同じ手口だ。

 韓国と北朝鮮が板門店で会談、ペースは北朝鮮が握っている――。核とミサイル問題は棚上げで、「南北の問題は当事者の我々同士(北朝鮮と韓国)で解決する」といった発言がなされている。

 そのうえでピョンチャン(平昌)冬季オリンピックに北朝鮮が参加すると、「平和」が演出されている。またもや「喜び組」が応援に来場するということか。

 挑発や恫喝を繰りかえしてきた北朝鮮が、手のひらを返して、核とミサイルは韓国ではなくアメリカに向けられている。「核とミサイルは、アメリカと北朝鮮の問題だ」、と。
「同胞なのだから」と、韓国は北朝鮮に“ネコ騙し”というか、“ネコ撫で”されている。

 文在寅・韓国大統領はそんな見え透いた手に欺かれているのだからこれまた呆れるしかない。文在寅氏は大統領選挙時に、「選挙に勝ったら、アメリカに行く前に北朝鮮に行く」と発言した人物である。北朝鮮の手の乗る素地はもともと十二分にあったことになる。

■独特なヘアスタイルのふたりのフェイクか

 この新年1月〜3月は、北朝鮮の核とミサイル技術が完成の域に達するということでアメリカの北朝鮮への攻撃の最終期限とみられてきた。
それもあってトランプ大統領と金正恩委員長は、自分の核のボタンのほうが大きいと、売り言葉に買い言葉並みのやり取りをしてきている。

 ところが、いまやトランプ大統領は、「南北対話中にはいかなる軍事行動もない」「金正恩と自分はとても相性が良さそうだ」とこれも手のひらを返した発言をしている。
お互いヘアスタイルが独特のふたりが、「ロケットマン」「老いぼれ」と怒鳴りあっていたのが、一転して心にあるのかないのか、平和ムードが演出されている。

 『チェンバレンの融和』(ミュンヘン会談)になるのか、あるいは裏ではまったく違うことを考えているのか。
 アメリカは、北朝鮮が核実験場の地下坑道をまたもや掘削している衛星画像を公開している。ガアム空軍基地にB2戦略爆撃機を配備するなど単純に融和とはいえない行動も採られている。

 お互いフェイクをかましているのか。その可能性もある。独特なヘアスタイルのふたりだけに何でもあり、何をやるかわからない。そう思っておく必要がある。

■平和は束の間でも尊いが・・・

 北朝鮮のほうは、核とミサイルの技術を完成させ、アメリカが北朝鮮に手を出せないようにするのが戦略目標だ。

 北朝鮮とすれば、そこにいたるまで文在寅大統領を茶番劇のような融和で誘い、時間を稼ぐ戦法である。ピョンチャン冬季オリンピックへの北朝鮮選手の参加や「喜び組」などの応援派遣で、北朝鮮が時間を稼げるとしたら、これは北朝鮮の思う壺ということになる。

 ピョンチャン冬季オリンピックが、北朝鮮や「喜び組」の参加で席が埋まり、文在寅大統領が雀躍しても本質は何も変わらない。韓国はその誘いに乗せられており、いわば共犯関係が形成されている。

 しかし、おそらくまた「ロケットマン」「老いぼれ」と罵倒し合う、あるいはゾッとするが核のボタンの大きさを競うような暴言を吐き合う局面になる可能性が隠されている。

 トランプ大統領は、「便所のような国」といった乱暴な失言を繰り返している。韓国、北朝鮮については、日本としてはそれこそお隣の国であり、困ったものだなと思っても引っ越すわけにもいかない。
 新年の株式市場は日本、アメリカとも絶好調だが、最大の不安材料は北朝鮮問題だ。平和は束の間でも尊いが、北朝鮮の融和では安心できないのが現実である。

(小倉正男=『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 12:19 | 小倉正男の経済コラム
2017年12月21日

【小倉正男の経済コラム】北朝鮮〜相撲界ならカラオケのリモコンで済むが〜

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■トランプ大統領の「トランプ・ファースト」「アメリカ・ファースト」

 その昔の日本の「不動産バブル」時代のことだ。日本企業は、不動産バブルをアメリカに“輸出”した。

 日本の不動産会社、あるいは不動産以外の会社も、アメリカの有名ビルなどを買いまくったものである。ハワイのコンドミニアムなどもそうだったが、あっという間に日本勢がアメリカの有名物件を買い占めていった。

 ニューヨークでは、ロックフェラーセンタービル、ティファニービルなどが、軒並みに日本企業が所有者に変わった。プラザホテルのオペレーション企業も日本の建設会社が買い取り、ニューヨークに時ならぬ不動産ブームが巻き起こった。

 当時、“ニューヨークの不動産王”といわれていたドナルド・トランプ氏は、「日本はよいことを教えてくれた。アメリカ人は、不動産の価値を利回りでしか判断しない。日本は含みで不動産の価値を計る」と。

 利回りではなく、いずれ不動産の価値は上がると「含み」で判断してくれれば、ディール(取り引き)の価格は上がる。利回りでは値段は上がらない。しかし、「含み」なら高値で取引ということになる。

 トランプ氏には持ってこいの話だった。トランプ氏は、当時から「トランプ・ファースト」だったし、いま大統領として主張する「アメリカ・ファースト」もずっと以前から身についたものである。自分に有利ならその現実を受け入れる――。

■日本のメディアも「ジャパン・ファースト」

 日本のメディアを見ていても、これもそうクリアには主張はしていないが、「ジャパン・ファースト」である。

 ――トランプ大統領が、自分の支持率回復のために北朝鮮と戦端をひらいて、その結果、日本が戦争に巻き込まれる。アメリカの勝手のために日本が被害をこうむるのはごめんだ――。テレビのワイドショーなどで、そうした発言が繰り返されている。

 日本のテレビメディアでは、日本はトランプ大統領の被害者で、北朝鮮の核とミサイルを容認するしかないといった論調になっている面がある。「ジャパン・ファースト」からの論調なのだろうが、被害者意識が強調され、自国=日本の問題ではないのにというスタンスになりかねない。

 *****もっとも朝のワイドショーでは、「ジャパン・ファースト」どころか、放送中にほとんど脈絡なしに「ジョンマスターのリップクリームがよい」(テレ朝)という発言が連呼されたりしている。成分表示で不正があったばかりのブランドを一方的に肯定したのである。これは意図的な“放送事故”か、ジョンマスターの手の込んだ広告なのか・・・。他者を論じるばかりのメディアとしては、程度が低すぎる感がある。

■相撲界ならカラオケのリモコンで済むが

 そうこうしているうちに、北朝鮮は「核とミサイル」を持とうとしている。日本・アメリカ・韓国、それに中国がそれぞれ“自国ファースト”で動いているのだから、これは北朝鮮からしたら、下手をすれば包囲網は隙だらけということになりかねない。

 もっともアメリカは北朝鮮と事を構えた場合、仮に北朝鮮に進入してもそれは短期的であり、駐留を継続しないということで中国と話がついているとしている。
中国は、アメリカの北朝鮮への“仕置き”を黙認するが、北朝鮮という緩衝地域は確保するというスタンスである模様。

 これは中国の「中国ファースト」だが、北朝鮮としては東西からジワリと包囲されているようなものだ。相当な圧力になることは間違いない。

 北朝鮮というファクターがどうなるのか。アメリカと中国の利害や思惑が一致して、北朝鮮の「核とミサイル」問題が解決すればよいのだが・・・。新年を大きく左右するのは、このファクターにほかならない。
 相撲界ならカラオケのリモコンで済むが、こればかりはそういうわけにもいかない。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 12:19 | 小倉正男の経済コラム
2017年12月04日

【小倉正男の経済コラム】大相撲も興行・巡業、本質は相撲協会の権力闘争

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■大相撲が今日もテレビのワイドショーを賑わす

 大相撲の「日馬富士・貴ノ岩暴行事件」が相変わらずテレビのワイドショーを賑わしている。もうそろそろ終わりかというところなのだろうが、「評論の虚妄」ではないが論じ続けている。

 「日馬富士が悪い」「貴乃花親方・貴ノ岩が悪い」「白鵬が悪い」――。日によって風の流れが変わるが、案外、テレビ界からは貴乃花親方を擁護する声が強い。あるいは、貴乃花親方筋からの言い分が使われている。

 普段は「反日」とかレッテルを張られているコメンティターが、今回は「愛国」というかナショナリズムというか白鵬などモンゴル力士勢に厳しい意見を吐いている。

 ワイドショーのコメンティターも大相撲同様に「ガチンコ勝負」なのか、根拠が怪しいのにアジティターめいた話が出たりしている。メディアというものもそう底が深いわけではない。そのぐらいのスタンスで付き合うしかない。

■大相撲もプロ野球も興行・巡業

 「横綱の品格」まで話は広がりをみせたが、「(横綱の)品格とは何か」となると要領を得ない。「横綱の品格」とは、おそらく大相撲の権威付けのために使われた議論に思われる。こうなると、「大相撲とは何か」まで話が流れてしまうことになる。

 大相撲には、神事の側面もあったのだろうが、興行・巡業の面もある。興行・巡業、それは人気のプロスポーツでは、プロ野球やプロサッカーも同じである。

 お祭りに人を集めて花を添え、おカネを集める。勧進元(主催者)がいて、大相撲というイベントが開催される。

 大相撲も、興行・巡業であり、歌舞伎や浄瑠璃と同じであり、ビジネスというか「ショービジネス」の側面がある。もっといえば、おカネを払って見にくるお客にとっては、娯楽でしかない。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:27 | 小倉正男の経済コラム
2017年11月19日

【小倉正男の経済コラム】IoTが日本企業にもたらす思いもよらぬ需要

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■ネット通販が全盛で包装箱に凄まじい需要

 IoT(インターネット・オブ・シングス)が身近なものになっている。

 紙袋・紙器企業に取材をしたら、インバウンドで紙袋の需要が旺盛だった、と。
 確かに、旅行客が大挙して買い物をすれば、紙袋に商品を入れてお客に渡さなければならない。大量の紙袋が必要になる。

 最近では、ダンボールや紙の包装箱が成長期に入っているというのである。
 これはIoTの進展というかネット通販で、商品を包装箱に入れて送る必要があり、凄まじい需要が起こっている。様々な商品を送るわけであり、包装箱の形状も多様を極めているということだ。

 ネット通販は、いまでは全盛といった状態である。ネット通販が繁盛すれば、ダンボールの包装箱に需要が飛び火する。思わぬところというか、新しい需要が生まれている。

 紙袋・紙器企業が、天から降って沸いたような需要で新たな成長期に入っていることになる。

■アメリカのお客がスマホでドレスシャツを注文

 国内のドレスシャツ企業、ドレスシャツとはワイシャツのことなのだが、アメリカのネット通販企業と提携――。アメリカのお客が、スマホからのイージーオーダーのドレスシャツを注文、日本で縫製してお客に製品を直送するシステムで販売している。

 アメリカにはイージーオーダーというものはないようで、案外、需要は旺盛というのである。このビジネスは開始されたばかりだが、1日120着の注文が舞い込んでいる。IoT、インターネットが販売チャネルを大きく変えているわけである。

 例えば、化粧品企業などにも、中国向けのEC(イー・コマース)業者がメーカーから買い取りで化粧品を仕入れるといったビジネスが出てきている。

 EC業者は、化粧品企業から、商品を買い取って自社のECサイトで販売する。化粧品企業としては、委託販売ではないから、売れ残りが戻ってくることはない。しかもEC業者が仕入れて販売しているボリュームは小さいものではない。

 IoTは、海外に店舗を構えなくても企業が世界化できるようにマーケットを変えている。企業は、本業を深掘りして磨いていれば、IoTというツールで思いもよらぬ需要を発見できる。そうした変化が始まっている。

■IoTという変化が新しい成長への切り口

 これらに紙袋・紙器企業、ドレスシャツ企業、化粧品企業は、いずれも日本ではフツーの企業である。そう特徴があると見られている企業ではない。いや悪くいえば、埋もれていたような企業である。

 しかし、IoTというツールを使って世界市場にアクセスすると有望な企業になる。
 世界マーケットから見ると、日本企業のポテンシャルは大きなものになる。IoTが、フツーの日本企業を世界マーケットに押し出している。

 経済というのは、確かに生き物で、思わぬ環境の変化で成長できたり、衰退したりする。景気が良くなっているという実感がないというが、経済の変化は確実に起こっている。

 IoTは、日本企業に新しい成長を約束する切り口になる。日本企業もそう捨てたものではない。IoTという時代の変化のなかでしたたかに生き残っていくのは間違いない。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)

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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:47 | 小倉正男の経済コラム
2017年11月03日

【小倉正男の経済コラム】小池百合子・希望の党代表『失敗の本質』

■政治の人気はそうしたものだが激しい騰落

kk1.jpg 小池百合子氏(東京都知事・希望の党代表)の「失敗」はどこに問題があったのだろうか。

 日の出の勢いだった小池氏がいまや人気が凋落――。政治における人気とはそうしたものだが、あまりにも激しい騰落である。

 「排除」「リセット」「さらさらない」「キャンキャン吠えた」という小池流のキーワードが記憶に残っているが、これらはいまや奢りを物語るものになっている。

■小池氏の差別化戦略の大きな失敗

 小池氏の「排除」は、憲法改正をめぐるものだった。民進党からの合流組に憲法改正で「踏み絵」を迫ったものである。

 これは共産党の志位和夫委員長から、「自民党の補完勢力」という批判を受けた。希望の党は、「第二自民党」という的を穿った指摘である。

 選挙では、“自民党はふたつも要らない”、という票の流れとなった。小池氏に排除された立憲民主党のほうが、「反安倍」「反自民」ということでむしろ票が取れた。

 仮に、希望の党というか、小池氏が、「規制緩和を断行する」と踏み絵を迫ったらどうだったろうか。

 それなら、規制緩和ができない自民党と差別化ができる。「革新を目指す保守」というポジションを確立できたのではないか。小池氏は差別化戦略を残念なことに間違えたといえそうである。

■負けたら「鉄の天井」とは・・・

 希望の党は、「安倍一強反対」を掲げていた。「安倍一強反対」というなら、民進党を全部まとめて飲みこむ選択もあったはずだ。

 まとめて呑み込めないなら、「安倍一強反対」などという矮小な目標はいうべきではなかった。

 自民党の規制緩和はスピードが遅い、希望の党は規制緩和をワン&オンリーで行うというべきだった。
それなら、「自民党の補完勢力」「第二自民党」とは指摘されなかったに違いない。

 規制緩和を掲げると同時に都知事の座は投げ捨てて、選挙に出るべきだった。戦場を設定したのだから、大将として選挙に出るしかなかったのではないか。国政か都政かといえば、それは国政という結論になる。

 選挙に負けたら、「鉄の天井」に阻まれた、というのでは、これも奢りめいたことになりかねない。
 希望の党の先行きはわからないが、千載一遇のチャンスを失った感が否定できない。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:01 | 小倉正男の経済コラム
2017年10月19日

【小倉正男の経済コラム】企業不祥事で登場する「第三者委員会」というネコ騙し

■神戸製鋼、日産自動車と不祥事が相次ぐ

kk1.jpg 企業の不祥事が相次いでいる。後を絶たない。そのうえ、不祥事の中身が考えられないようなことが少なくない。
 改ざん、手抜き、不当表示、ごまかし、ウソ偽り、粉飾、パワハラ、権力争いetc――、あらゆる企業がそうしたリスクやクライシスを内包している。

 神戸製鋼では、製品の性能データを改ざんしていたことが発覚した。日産自動車では、無資格の社員が「完成検査」をしていたという事実が明らかになった。そんなことをしているのか、と呆れるようなレベルの仕業である。

 日本企業には、コーポレートガバナンスがないといわれている。確かにあるとはいえない。
 私が取材などで知り得た企業などでも、経営者トップを筆頭に話にならないほど酷すぎるケースを目の当たりに見てきている。

 ただし、日産自動車などは、いまもカルロス・ゴーン氏が代表取締役会長として経営の実権を握っている。日本の企業文化も確かにほめられないが、これは日本のことだけでもない模様だ。

 会社がおかしくなって傾けば、顧客、取引先、社員、株主などあらゆるステークホールダー(利害関係者)に被害というか、実害が及ぶ。
 それだけに株主は、会社のオーナーなのだから、ものを言ってガバナンスを効かせなければならない。株主による経営に対するチェック&バランスがコーポレートガバナンスの要諦である。

■ジョンマスターオーガニックも成分不当表示で製品回収

 外資系企業でも不祥事が発覚している。
 ジョンマスターオーガニックグループという天然由来の成分を売り物にする化粧品企業が、日本マーケットで38品目・121万個の製品を自主回収していることが明らかになった。

 「ジョンマスターオーガニック」は、セレブあこがれの高級・高単価品のブランドである。ブランドや社名からして、健康や美容によいというイメージを与えてきた。

 しかし、シャンプーやトリートメント製品などにシリコーンなど合成成分が一部使われていた。さらに、ラベンダーエキスなど天然由来の原材料が使われていないに使われていると成分表示されていたというのである。

 化粧品の成分表示など複雑というか、一般の顧客にはわからないものである。もしかするとこの事故・事件は日本企業にも飛び火する可能性がある。「オーガニック」は、健康志向・天然志向で最近の大きな人気トレンドだが、それだけに潜在的に危ないといえるかもしれない。

 それはともあれ、ジョンマスターオーガニックグループはアメリカ企業なのだが、コーポレートガバナンスはないに等しい実態をさらしている。いまだにカスタマー、ディーラーにもメディアにもしっかりした説明はまったくなされていない。

■「第三者委員会」というネコ騙し

 企業の不祥事などでよく登場するのが、「第三者委員会」という存在である。
 これは第三者を装いながら、依頼者の意向を汲んだものであることが一般である。いわばクセ者であり、メディアに対してもそうだが、これはネコ騙しのようなものである。

 不祥事の一方の当事者が依頼しておきながら、第三者委員会という名称はおこがましいことになる。
 弁護士などが任命されることが多い。弁護士も「商売」「生業」とはいえ、第三者委員会の仕事はあまり心躍るものとはいえないといった舞台裏の話を聞いたことがある。

 紛争の当事者が任命しておカネを払っておきながら、第三者委員会で公正・公平な裁定や調査などが行われるはずもない。
 そんな第三者委員会は、結果としては、任命しておカネを払ってくれる当事者の言いなりになるわけで、本来的に「第三者」とはいえない。

 企業というものもにっちもさっちもいかない事態になると何でもやるもので、第三者委員会をつくって自己を正当化しようとするものだ。
 ネコ騙しのような第三者委員会が登場するような事態は、末期的なケースであると思ったほうが早い。

■独立が担保されなければ第三者委員会とはいえない

 当事者から独立した存在が第三者である。つまり、「第三者」とは「独立=インデペンデント」が担保されていなければならない。任命も報酬の支払いも当事者以外の第三者が行う必要があるわけである。

 これはいわゆる「独立役員」も同じことである。経営者が任命しているのに、独立役員であるなどと説明しているケースが少なくない。これも経営者が理解していないというか、勝手な理解で勝手に話しているだけで、まがい物の独立役員ということになる。
そんな単純な"偽装"がまかり通っているうちは、コーポレートガバナンスはまだまだ機能していないということになる。

 企業というものは、苦し紛れにいろいろな偽装や隠蔽を仕掛けてくるものである。案外単純すぎて意表をつかれることもないではない。それを見分けなければならない。かなり難しいことだが、そうした作業が不可欠である。

 不祥事で「第三者委員会」がにわかに登場するような事態を迎えた時は、当事者が保身など自己の利益確保を図る目的でつくられているのかどうかを見極めなければならない。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 17:00 | 小倉正男の経済コラム
2017年10月05日

【小倉正男の経済コラム】「希望の党」緑の風は吹いているか?

■風は止んでいる

kk1.jpg 緑の風は吹いているか??
 小池百合子・東京都知事の風が吹き荒れると思われていたが、このところ止んでいる。

 民進党を丸呑みするのは、看板の付け替えといわれるし、イメージもよろしくない。それでは、左派というかリベラル派というか、それらを排除する、としたあたりから風向きが変わった。

 丸呑みすれば民進党亜流となるし、排除すればそれはそれで国政に携わる者としては器が小さいと論評される。苦しいところである。

 三役経験者、すなわち首相経験者は、希望の党への合流を遠慮してもらいたい、といえば「先に離党した人の股を潜る気はまったくない」と反撃されることになった。
 韓信の股潜りも偉いが、野田佳彦元首相の股潜り拒否も偉い。「下克上」がいわれることになった。

 離党したのが早い、遅い、役職をやった、やらなかった――。なんとも細かい線引きであり、昨日の友は今日の敵といった事態である。そうしたことで、風向きも日々変わっている。

■局員はリベラル派、コメントは保守派という奇妙なバランス

 いまは風が凪いでいる状態で、しいて言えばメディア、田崎史郎氏などのコメントが風となっている。

 メディアの社員、局員はリベラル派だが、外部からのコメントは保守派が担当して、奇妙なバランスでやっている。

 メディアを視聴している一般の人々も、政治には散々騙されてきているだけに少しは疑い深くなっている。
 それでもメディアはリベラルに過度に傾き過ぎたり、急に保守となったりと忙しいが、どうなることやら・・・。

 風を吹かせるべき政党がなく、メディアがリベラルだ、保守だと、人々をあたかも「啓蒙」するのは不遜な感がある――。メディアは事実をベースに報道してほしいものである。

■民進党が一夜にして崩壊・消滅

 最大の驚きは、民進党の崩壊だった。日本のリベラルの牙城が一夜にして消滅したのだから、これは何だったのだろうか、と。

 歴史的なアナロジーを見つけようとしても簡単には出てこない。ソビエト崩壊のようなものか。

 北朝鮮のミサイルや核が、日本の保守化を促し、民進党といったリベラル派の崩壊・分裂をもたらしたという見方がある。おそらく、今回の衆院選挙の持つ意味合いはそうしたところにあるのかもしれない。

 新しい党に期待したいのだが、民主党政権の酷さが学習効果として人々に強烈に残っている。これも日本の保守化を誘っている。

 日本共産党が指摘しているように自民党がふたつあるいまという時代、「安倍一強」だけを敵にしても矮小な話ということになりかねない。
 曖昧でいい加減ではいわゆるリベラル派が生存できない、いわば絶滅する、とするならば、いままでとはかなり違うステージに入っていることだけは間違いない。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 11:32 | 小倉正男の経済コラム
2017年09月09日

【小倉正男の経済コラム】北朝鮮の独裁が終わる日〜瀬戸際外交の果て〜

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■北朝鮮の暴走はどこまで・・・

 北朝鮮はどこまでやる気なのか。ミサイルを北海道の上空を通過させて襟裳岬の沖合いに落下させたり、水爆の実験をしたり、と・・・。

 北朝鮮は自らを原爆、水爆、ミサイルを持った軍事強国だとプロパガンダを流し、今度は東京上空の通過させるのではないか、といわれている。確かにやりかねない。

 アメリカはいま動けないと読んでのやり口なのだろうか――。自国の国体(金正恩体制)護持が基本のはずだが、アメリカをナメて過剰な挑発を繰りかえりしているようにみえる。

 金正恩・朝鮮労働党委員長の廻りには、誰もものを言える人は存在できないだろうから、究極の瀬戸際外交にはまり込んでいる。独裁の果てとはいえ、困った話である。

 隣の韓国は、「物乞い」に揺れ動いており、北朝鮮に誤ったシグナルを送っているようなものである。これではますます北朝鮮をおかしな方向、すなわち暴走に向かわせることになる。

■「瀬戸際外交」VS「物乞い外交」

 韓国はソウルが火の海になることを恐れているのだろうが、北朝鮮政策が定まっていない。

 北朝鮮は、ソウルが砲撃される、日本にもミサイルが撃ち込まれる、という脅しでアメリカは動けないだろうとタカをくくって挑発を行っている。揉み手の物乞い外交では、北朝鮮の瀬戸際外交を暴走させることになる。

 相当な挑発をやってもアメリカは手出しをできない。だが、そんなナメたことを繰り返していれば、いずれ北朝鮮がそれこそ火の海になる・・・。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 08:58 | 小倉正男の経済コラム
2017年09月01日

【小倉正男の経済コラム】アベノミクスの出口戦略

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■「セイコノミクス」を明らかにしないではフェアではない

 野田聖子総務相が、金融緩和の出口戦略を含めてアベノミクスを総括し、次の経済政策を展開する必要性を訴えた。

――「異次元(の金融緩和)をやってきて、ある程度の効果はあったとしても予想を下回っている。これでは厳しい」「若い人にどんなツケを回すのか、うすうす国民はわかっている」

 少しバイアスをかけて見ると、大手新聞メディアの安倍一強批判なのだろうというところか。
 ともあれ野田聖子総務相としては、次期総裁選を意識し、「出馬の準備を進めている」と意欲を示した模様だ。

 少し遠慮しながらも、しかし、言わないではいられないということなのか。ただ、批判の中身は一般論というか、これでは民進党と同じ程度の批判である。

 自身の「次の経済政策」の中身を明らかにしないではフェアとはいえない。メディアの安倍一強批判の空気に乗っているだけにみられることになりかねない。どうせなら「セイコノミクス」の中身を聞かせてほしいものである。

■企業は「アベノミクス・バブル」のなかにいる

 確かに、異次元金融緩和は、一撃としてはインパクトが大きかった。ゼロ金利、マイナス金利ということで、企業活動にとっては凄まじい恩恵になっている。

 100億〜200億円を借り入れしても、金利負担は微々たるものだ。以前だったら金利負担だけで大きな赤字になる会社が黒字を計上できるのがいまの環境である。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 11:27 | 小倉正男の経済コラム