[小倉正男の経済コラム]の記事一覧
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記事一覧 (11/23)【小倉正男の経済コラム】RIZAPグループ:譲れないところを譲って構造改革宣言
記事一覧 (11/10)【小倉正男の経済コラム】「キャスター」VS「SNS」、正義は独占できない
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記事一覧 (10/03)【小倉正男の経済コラム】マイナス金利――それでもゾンビ企業&経営者の淘汰が進む
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記事一覧 (08/23)【小倉正男の経済コラム】何にでも口を挟むトランプ大統領、今度は四半期決算
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記事一覧 (07/07)【小倉正男の経済コラム】米中貿易戦争:報復の連鎖か、大人の解決か
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記事一覧 (05/04)【小倉正男の経済コラム】週明けから決算ラッシュ〜好決算が続出か
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記事一覧 (03/04)【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領への不信、金利上昇でドル安の報い
記事一覧 (02/18)【小倉正男の経済コラム】市場はトランプ大統領に手厳しいお仕置き!トランプ流とレーガン流の違い
2018年11月23日

【小倉正男の経済コラム】RIZAPグループ:譲れないところを譲って構造改革宣言

■構造改革=M&A凍結宣言

kk1.jpg RIZAPグループの第2四半期は異例尽くめといえるものだった。

 11月14日夜の決算説明会は3時間を費やして行うというので覚悟して出席した。決算説明会の壇上には、瀬戸健社長と松本晃構造改革担当のふたりの代表取締役が登場した。

 RIZAPグループの第2四半期は大幅赤字決算になり、無配転落が発表された。
それだけではない。瀬戸健社長からM&Aを凍結、構造改革を加速するという宣言が打ち出された。
 瀬戸健社長はほとんど涙目という状況だった。

 「成長の手段としてM&Aをしてきた。1社1社再生してからM&Aをすべきだった。見通しが甘かった。1社1社見直しをして、構造改革を実施する。構造改革が終わるまで、新たなM&Aは行わない・・・」

■このまま進んでいけば奈落の深み

 RIZAPグループは、16年3月期23社だったものが、17年3月期51社、18年3月期75社と急膨張を促進してきた。19年3月期の途中にある現在は85社、16年3月期から62社の増加となっている。M&Aラッシュで膨張を続けてきたわけである。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 21:19 | 小倉正男の経済コラム
2018年11月10日

【小倉正男の経済コラム】「キャスター」VS「SNS」、正義は独占できない

■ワイドショーのSNS批判

kk1.jpg テレビのワイドショー、報道番組というのは、自然によく見てしまうのだが、朝から晩まで同じテーマを取り扱っている。観ている私も私だが、大枠でひとつを観ればその日のすべてコンテンツを観ているのと同じである。

 このところ、ワイドショー、報道番組のキャスターたちで目立つのは、SNSへの批判である。「SNSに載っているコンテンツは質が劣悪だ」「SNSに書かれているのは酷い内容で信用できない」など――。
 いわば、十把ひとからげでフェイクニュース扱いされている。

 SNSは、個人が発言するツールを持ったということでは画期的である。「質が問題」「信用できない」としても、すべてがそうだとはいえない。

 キャスターなどジャーナリズムが発言するツールを独占して、ニュースやアジェンダをこう解釈しろと押し付けるというのはもう過去のことになっている。
 キャスターなどの矜持もわからないではないが、自分たちが世の中の正義を独占することには無理が生じている。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:36 | 小倉正男の経済コラム
2018年10月10日

【小倉正男の経済コラム】「第2四半期」――決算は経営者&経営能力の鏡

■成果給――年俸制は減俸制という悲惨な実験

kk1.jpg 2000年前後のことだが、長引く不況に対応して「成果給」を導入する企業が相次いだものだ。いわば“年俸制”の導入がなされたわけである。

 成果を出した社員たちには本当に高い給料が払われるのか。平社員でも成果を出せば、役員や部長クラスより高い給料を取れるのか――。

 ところが、会社側の説明をつぶさに聞くと、予算の総ファンドに縛られるというのである。
 多くの社員たちが成果を出せば、予算の枠を超えて高い給料を払わなければならない。しかし、そうではないというのである。
 あくまで会社の予算全体の枠内で、ということになれば成果を出しても給料はそう上がらない。

 制度自体にもともと大きな問題があったわけである。むしろ、成果を出していないと給料を下げられる社員たちが相次いだ。
 これでは、成果給、すなわち年俸制は減俸制になってしまったわけである。あるいはそれが会社側の最初からの狙いだったのかもしれない。

■「下方修正、減益・減配と悪く書かれている」という経営者

 この話にはオチがある。その会社は名門の大企業なのだが、成果給の導入後に業績悪化で下方修正を繰り返すようになった。メディアがインタビューして、経営者に経営責任を問い質した。

 経営者トップは、「業績が悪いのは従業員が働かないからだ」と応えた。当時これは経済界で大きな話題となった。
 大手証券マーケット筋など、「あの社長が辞任したら、あの会社の株価が上昇するのだが・・・」と棘のあるユーモアを吐いたものである。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 13:59 | 小倉正男の経済コラム
2018年10月03日

【小倉正男の経済コラム】マイナス金利――それでもゾンビ企業&経営者の淘汰が進む

■マイナス金利の功罪

kk1.jpg スルガ銀行がメディアに騒がれた時、確か取材に行ったことがあるな、と思い出したものである。

 沼津市に本店があり、駅からタクシーで伺ったのか、頭取や経営幹部に地銀の生き残り策や再編成への対応策をインタビューした。

 2005年末のことで、金融雑誌の編集長から取材を依頼されたのだが、不動産への過剰融資・不適正融資事件で思い出すことになった。スルガ銀行――、そういえば寒い頃に取材に行ったな、と。

 迅速審査を売り物に、賃貸アパート、賃貸マンションなど不動産投資に過剰に融資したというのである。一時はそれで大きく成功しており、首都圏にまで融資を広げていた。地銀の再編成でも呑み込む側の銀行といわれていた。

 友人のバンカー筋にいわせると、「いろいろあるがゼロ金利、マイナス金利が元凶で、地銀は融資するところがない。生き残りにムリな融資を重ねたことが背景にあるのではないか」ということだ。

■株価はバブル崩壊後の高値を更新

 ゼロ金利、マイナス金利は、ゾンビ企業を生き残らせていることは確かである。いまの企業は100億円借りても、200億円借りても、支払い金利は知れたものである。
 昔なら、それだけで支払い金利負担により経常損益で大幅赤字になった。確かにあまり有能といえない酷い経営者でも何とか生き残れている。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 09:51 | 小倉正男の経済コラム
2018年09月15日

【小倉正男の経済コラム】米中貿易戦争――敗者はアメリカの消費者&経済

■敗者はアメリカの消費者と経済

kk1.jpg トランプ大統領の交渉術なのだが、ブラフをかけて強気の発言を繰り返している。

 米中貿易戦争でトランプ大統領はアメリカの経済界から圧力がかかっていると報道されると、「アメリカは中国と合意する圧力にさらされておらず、中国が圧力を受けている」とことさら否定している。
 アメリカは中国との貿易戦争で何も困っていない、困っているのは中国だとしている。

 確かに、中国がトランプ大統領から圧力を受けているのは事実だが、アメリカもそれは同じだ。むしろ、アメリカこそがトランプ大統領の圧力にさらされている面がある。

 トランプ大統領は、子供じみている面があり、中国に最大の関税をかけるつもりだ、やるぞ、やるぞ、と脅しをやめない。最大の関税を課せば、確かに中国が被害をこうむる。しかし、それだけにとどまらない。アメリカにしても被害は甚大である。

 関税は輸入する側が払うわけだから、例えばアップルでいえばアップルが負担する。それは最終的には消費者、つまりお客に転化される――。

 敗者は、極論するとアメリカの消費者であり、アメリカの企業、そしてアメリカ経済にほかならない。当然ながらアメリカ企業からは悲鳴というかブーイングが起こっている。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 08:48 | 小倉正男の経済コラム
2018年09月06日

【小倉正男の経済コラム】「中国製造2025」をめぐる米中貿易戦争

■アメリカは追加関税を相次いで発動

kk1.jpg 米中貿易摩擦が相変わらず燻っている。というか、トランプ大統領がブラフをかけまくっている。トランプ大統領は、近々にも、中国からの輸入品2000億ドル相当に追加関税第三弾を発動するという見通しである。

 中国の習近平主席としても、トランプ大統領がやたらと強硬なだけに下手に屈するわけにもいかない。ただ、どこかで対話に持ちこみ、妥協点を探るのではないかとみられる。中国としても相次ぐ追加関税措置は無視できないこところにまで来ているのも確かだ。

 トランプ大統領には、不動産ビジネスのディール感覚で押し捲るような政治手法が目につく。――物件を売るときは高く、買うときは安く、といった調子で極端なブラフも当たり前に使用する。

 大国のトップとしてあまり品があるやり方ではないが、トランプ大統領にいまさら品を求めても無意味であるに違いない。習近平主席としても、自国の株や通貨が下落し、このまま貿易摩擦を引きずるわけにもいかない。暴に対して暴ではなく、猛獣をあやすような手に出るしかないのではないか・・・。

■「中国製造2025」という野心

 中国がいま国策として推進しているのが「中国製造2025」である。
中国は安い労働力を使ってハイテク製品をつくって輸出しているのだが、半導体を筆頭に根幹となる部品は日本、ドイツ、韓国などから輸入している。根幹部品を輸入してアセンブル、いわば組み立てている状況にとどまっている。

 それらのキー部品を内製化して自前のハイテク製品をつくるというのが「中国製造2025」である。国が巨額補助金を惜しむことなく注ぎ込んで、新規の半導体工場、液晶工場を次々と設備投資して稼動させている。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 10:24 | 小倉正男の経済コラム
2018年08月23日

【小倉正男の経済コラム】何にでも口を挟むトランプ大統領、今度は四半期決算

■四半期決算を半期決算にせよと変更を要請

kk1.jpg トランプ大統領が変なことを言い出している。
 「利上げが気に入らない」こちらも慣れっこで、そんなことに文句をつけるのかと――。

 トランプ大統領のキャラクターなのだろうが、細かいことに口を挟んでいる。

 その矢先、ここにきては、企業の決算発表を四半期、つまりいまは3ヶ月ごとにディスクローズしているわけだが、それを半年(6ヶ月)にすることを検討するようにSEC(証券取引委員会)に要請した。

 トランプ大統領は、「これにより柔軟性が増し、資金の節約もできる」とツイートしている。

 トランプ大統領は、多くの経済界首脳との協議を経てSECに変更を検討するように要請したとしている。
 経済界、例えばペプシコの経営者(CEO)あたりが、本人が言うには、より長期的な視点に立った企業のあり方から提起したというのがコトの起こりのようだ。

■四半期決算は極力サプライズを防ぐ制度

 四半期決算は、投資家にとってグッドサプライズ、バッドサプライズを極力なくすためにつくられてきた制度である。

 つまり、四半期決算以前の半期決算、あるいは年1回の決算では、開けてビックリのサプライズが伴っていたわけである。おそらく、バッドサプライズのほうが圧倒的に多かったのではないか。

 これでは、投資家が恐怖心を持ってしまうことになる。四半期決算ですら、決算発表は何が出るかサプライズがあるものだ。6ヶ月ごとの半期決算ではなおさらである。

 IR(インベスター・リレーションズ)からみたら、四半期決算は必要最低限のディスクローズにほかならない。しかも、アメリカのみならず、日本でも定着しているといってよい制度である。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 10:27 | 小倉正男の経済コラム
2018年08月17日

【小倉正男の経済コラム】米中貿易戦争は大人の解決を待つしかない

■8月下旬に米中通商協議

kk1.jpg 16日のNY株価は396ドル高の高騰となった。米中貿易戦争に収束の兆しがみえたというのがNY株価の高騰の要因ということである。

 米中通商協議は中断状態が続いているが、再開の機運が生まれているというのである。8月下旬に中国商務省次官が率いる代表団が訪米して、通商協議を行うことが決まった。これはアメリカの招待によるものである。

 米中とも引き続き強硬で、“恫喝”めいた発言を繰り返している。貿易戦争の建前は崩していない。次官クラスの協議では、解決にはまだ遠いのではないかという見方が出ている。

 だが、一方ではアメリカ、中国とも大人であり、貿易戦争の落しどころを探っているという推測も強い。

 話し合いすら拒否しブラフを掛け合っていた米中が歩み寄って協議をするのだから、手ぶらでは終わらない。米中貿易戦争は収束に進んでいるという見方で、これがNY株価の高騰につながっている。

■急転直下の解決はあるか

 高い関税を報復的に掛け合うという貿易戦争は、お互いにとってよいことは何もない。
経済は縮小し、企業活動、例えば生産活動が停滞し、雇用にもマイナスを生み出すことになる。消費者にとっても、モノの値段が無意味に高くなるのだから、消費購買にもよいことはない。

 米中の2大経済大国が貿易戦争に走れば、日本にとっても大きなマイナスが出る。

 とりわけ、日本は中国に電子部品やその製造装置など生産財を売っている。実体面で日本経済を引っ張っている絶好調のセクターが打撃を受けることになる、という懸念が生じる。
 仮に中国経済がおかしくなれば日本経済も無傷ではいられないわけである。

 トランプ大統領というこれまでにないキャラクターの登場で世界経済が大きく揺らいでいる。トランプ氏が、“イグノーベル賞”もののキャラクターであることは間違いない。

 米中貿易戦争が解決すれば、トランプ大統領の支持や人気にも好影響が及ぶだろうから、急転直下で解決するということもありうる。
 しかし、トランプ大統領の支持や人気はどうあれなのだが、世界経済にとっては大人の解決がいちばん望ましいことになる。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 16:48 | 小倉正男の経済コラム
2018年07月07日

【小倉正男の経済コラム】米中貿易戦争:報復の連鎖か、大人の解決か

■7月6日=米中貿易戦争が勃発

kk1.jpg 7月6日、ついに米中貿易戦争が開始された。お互いに340億ドル相当の輸入品に25%追加関税を課すことになった。さらに時期をみて160億ドル相当の輸入品に追加関税を課す予定としている。

 日本、アメリカとも、アク抜けとして、株価が騰がる動きがあったということだが、アク抜けというよりややヤケッパチな感がしないではない。本当にアク抜けならよいのだが、むしろアクがどんどん溜まっていくのではないか。

 世界のふたつの経済大国が「貿易戦争」に突入するのだから、世界経済は縮小が避けられない。

 関税は輸入する側が負担する。関税を負担する側は、確実に売れるモノしか輸入しない。ともあれ関税分は商品価格に上乗せされ、最終的には消費者がそれを負担する。
 しかし、25%の高関税を価格に上乗せして確実に売れるモノは、この世界に多くは存在しない。

■ダイムラーの下方修正

 貿易戦争に勝者はなく、それだけではなく当事国のみならず、すべてを敗者にしかねない。

 米中経済の相互に大きな損出が出る。トランプ大統領としたら、ブラフを掛ければ、習近平国家主席が白旗を掲げると思っていたのだろうが、引っ込みがつかない事態となっている。アメリカでは、貿易戦争で景気が低下するという懸念が生まれておる。

 すでにダイムラーが下方修正を発表した。これはダイムラーが、アメリカ工場で生産したスポーツタイプの多目的車を中国市場で販売しているのだが、高関税により売れ行きが鈍化するということを理由としている。

 そうなれば、アメリカでのダイムラーの雇用にマイナスの影響が出かねない。アメリカでは、貿易戦争の影響で金利上昇のスピードが緩和されるのではないかという見方が出ている。つまり、アメリカの景気は鈍化するとみられているのだ。

 中国もアメリカへの輸出にブレーキがかかるのだから、強化を進めていた「中国製造2025」などの設備投資が減速するという影響が出るだろう。
 トランプ大統領が撒いたタネなのだが、米中が相互に貿易戦争を継続・拡大するのならば、世界経済はシリアスなことになりかねない。

■「アメリカファースト」=ポピュリズムのもたらすもの

 米中の貿易戦争で、日本は漁夫の利を得るという話があるが、そう甘くはない。

 トランプ大統領は、日本にも高関税などをかけてくる可能性がある。
それに中国が設備投資を手控えれば、工作機械・製造装置・電子部品を供給している日本によいことはない。

 中国が、アメリカのボーイングに発注するとしている旅客機にしても、中国が報復としてキャンセルすれば、ボーイングの旅客機製造の「下請け」を担っている日本にマイナスが発生する。世界経済は縮小の悪循環に陥ることになりかねない。

 中国にしても、欧州にしても、愚かしい貿易戦争が継続・拡大すれば、経済パニックが起こる可能性もある。
 報復が報復を呼ぶような事態になるのか、大人の解決に向かうのか。現状は、「アメリカファースト」というポピュリズムのアクが抜けるどころか、溜まるばかりとなっている。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 10:29 | 小倉正男の経済コラム
2018年07月02日

【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領の「貿易戦争」はイグノーベル賞もの

■「貿易戦争」は百害あって一利なし

kk1.jpg トランプ大統領による高関税の「貿易戦争」は世界経済によいことは何ひとつない。それどころか、世界経済に大きな不確定ファクターとして打撃を与えかねない。

 すでにアメリカと中国、アメリカと欧州の貿易摩擦が表面化し、お互いに高関税を掛け合うという最悪の事態に陥りかねない動きとなっている。

 世界経済は縮小し、高関税分は価格を押し上げるから、悪性インフレになる。金利は上昇し、雇用は減少する。株式市場は低迷する。

 思い付きで、シロウトといっては悪いが、市場経済に手を突っ込みコントロールしようとすれば、これは酷いことになるのが通例だ。

 中国では元安となり、株式市場が低下しているが、これも先行き懸念材料になりかねない。日本は中国に電子部品や製造装置などを供給しているわけだから、当然ながら日本経済にも悪影響が及んでくる。

■民間企業への介入=社会主義経済

 欧州も同様で、愚かしい高関税に掛け合いでお互いが苦しむことになる。
そんな状況下、ハーレーダビットソンが高関税を回避するためにアメリカ国外にも生産拠点を設けることを表明している。

 ハーレーが海外に工場を進出させれば、アメリカ国内の部品サプライチェーンが縮小し、雇用も低下する。

 トランプ大統領は、「あらゆる企業のなかでハーレーが最初に白旗を揚げるとは驚きだ。我慢しろ」と、国家が民間企業経営に介入する発言している。これはまるで立派に社会主義経済ではないか。

 これでは、世界経済は縮小し、経済恐慌めいたことが引き起こされるような事態が懸念される。経済が苦しくなると、各国ともポピュリズムが台頭し、またまた身勝手な政策を振りかざすことになる。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 07:15 | 小倉正男の経済コラム
2018年06月13日

【小倉正男の経済コラム】米朝首脳会談は「検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言なし


■「検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言は

kk1.jpg 交渉ごとは、始まる前は過剰に期待が大きくなるものだ。交渉前は、得るものは大きく、失うものは少ないと見積もりがちである。

 それにしてもだが、「米朝首脳会談」は、やられ過ぎの感がしないではない。共同声明に「朝鮮半島の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」という文言がなかったのはどうだろうか。

 抽象的な非核化を唱えているだけで、総論を述べているにすぎない。これでは当事国の北朝鮮が行う「非核化」を検証なしで完全な非核化と信じなさいということになりかねない。

 オーディブル(聴こえる)だが、ビジブル(見える)・タンジブル(味わえる)合意にはなっていない。朝鮮半島の非核化は、確かに声としては唱えられているわけだが、まだその段階にとどまっている。確たるものにはなっていない。

 企業でいえば、チェック&バランスのない、いわばガバナンスのない合意=共同声明でしかないようにみえるといえば厳しいだろうか。

■交渉で値切られたディール

 「朝鮮半島の完全非核化への揺るぎない固い決意を最確認した」という共同声明は出された。しかし、一方で北朝鮮の政治体制については安全が保障された。

 北朝鮮としては、最大の眼目を得たともいえるだろう。トランプ大統領は、「時間がなかった」というが、ディールとしてはやられたという感が拭えない。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 12:46 | 小倉正男の経済コラム
2018年06月03日

【小倉正男の経済コラム】悲観ばかりしているうちに世界経済が地滑り的変化

■アメリカの景気は絶好調の状態

kk1.jpg アメリカの5月雇用統計で確認されたのは、景気がほとんど絶好調の状態にあるということだ。

 非農業部門雇用者数では22万3000人増と市場予想を大きく上回った。失業率は3.8%という完全雇用状態にあり、ほぼ究極までの改善が進行している。賃金は2.7%増と緩やかだが、これも上昇している。

 製造業、そして小売業などサービス産業とも雇用者を増加させており、製造業の設備投資などに関連する建設業も雇用者増加に貢献している。

 設備投資では、先行きを睨んで半導体・半導体関連製造装置などが主役になっている模様。次世代スマホ、自動運転など先進自動車向けなどに先行して設備投資が行われており、やはりハイテク分野がアメリカの景気を根底で引っ張っている。

 トランプ大統領の「貿易戦争」、イタリア、スペインの政情混迷があるが、一方で「米朝会談」は前進する方向にある。ともあれ、アメリカの景気そのものは悪くない。

 日本のメディア(経済新聞など)あるいは企業も同じで、懸念材料ばかり強調する面がある。それは良識といえば良識だが、相も変わらず悲観ばかりしていることが「芸」とはいえないのではないか。

■高所恐怖症=需要が旺盛すぎて対応しきれていない

 日本の企業にも、次世代のスマホ、クルマ、白モノ家電などの先行・設備投資により、旺盛な受注が続いている。
 「いったいどこまで続くのかと――。だが、いまのところ不安というか、懸念されるマイナス材料はない」(半導体など電子部品・製造装置関連商社経営トップ、装置据付など設備工事企業経営トップなど)。

 需要が旺盛すぎて、それに十分に対応しきれていないのが実体である。例えば、いま製造関連装置などに受注があっても、完成・納期は1〜2年先になる。つまりは、受注残になる。
 「手持ちの受注残をこなすので一杯一杯」というのが、関連業界筋の声である。新たな受注に手を付ける余裕がないというのである。

 各社経営幹部筋は、売り上げ、収益、受注残、受注が過去最高の水準にあり、「高所恐怖症」を抱えているとしている。
 「いつもなら、このあたりでピークを迎えるのだが、今回はまだピークを打ったという感じはない」(電子部品関連業界経営トップ)。
 この需要は、国内もそうだが、とくに中国からもたらされている。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 20:08 | 小倉正男の経済コラム
2018年05月16日

【小倉正男の経済コラム】決算発表:全般に超保守的な業績見通し

■今19年3月期見通しは超保守的

kk1.jpg 決算発表がたけなわである。前18年3月期決算は絶好調なところが多い。アメリカ、 そして中国のふたつの経済大国の景気が良いのだから、日本も悪いわけがない。

 しかし、今19年3月期決算の数字は相変わらず保守的な見通しを出す企業が少なくない。

 前期は凄まじい増収増益を達成しているのに、今19年3月期については「減収減益」を表明している企業もないではない。
 「この減収減益という予想数字はないでしょう」、と私が尋ねると、「いや、最低限の目標として出したものだ」とさらに首が傾ぐような経営者からの返答。

 決算説明では、経営トップから、自社について悪い業況についての話は出ない、むしろ良い業況に話が及んでいるのに、今19年3月期見通しは営業利益、経常利益が横ばいとなっている企業もある。業況説明と今期見通しが合致していない。どっちかにしてほしい・・・?

 「社長の前向きな業況説明と予想数字の横ばいが合わない。どっちが本当なのか」と質問すると、「いや、為替がどうなるか読めない」とか、これまたわかったような、わからないような返答をする財務担当取締役。

 今19年3月期に30%増益を打ち出しているあるハイテク企業だが、それでも膨大な受注残、高い利益率などを勘案すると、やはり控え目である。期中に増額修正を含みとして残している模様だ。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 13:02 | 小倉正男の経済コラム
2018年05月04日

【小倉正男の経済コラム】週明けから決算ラッシュ〜好決算が続出か

■案に相違のアップルの好決算

kk1.jpg 決算シーズンとなっている。アメリカが先行、日本は連休明けに本格化する。

 アメリカでは、中国との関税の掛け合いなど「貿易戦争」めいた機運の影響が懸念されているが、決算=景気は悪い状況ではない。

 「貿易戦争」回避で交渉が進行している。政策金利は据え置かれたが、6月には利上げが行われるとみられている。不確実性というか懸念材料は少なくないが、トータルでは少しずつ前に進んでいるようにみえる。

 アメリカの企業決算では、アップルが注目されていた。事前には「iPhone X」の売り上げが懸念材料として喧伝されていたが、決算は真逆でむしろ絶好調だった。「iPhone X」は、中国、日本マーケットなどで買い替え需要を喚起しているというのである。

 案に相違とはこのことで、重石が取れたということになるか。
 結局は四半期ごとの決算で多くのことが判明する。要は、決算を読み込んでいけば、いろいろなことがみえることになる。

■結果を出せない経営者は消えていく

 決算の結果が、経営者を判断する尺度である。これは世界のルールということになる。

 私のたまたま知っている経営者なのだが、「減益決算と悪く書かれている」と怒っているのをみたことがある。2年連続の減益決算、下手をすれば3年連続で減益になりかねないケースなのだが、本人は怒っている。
 これは酷い経営の事例で、「悪く書かれている」のではなく、「悪い」という判定になる。

 企業も新陳代謝していくのだが、経営者も新陳代謝していく。
 その昔、アップルの経営トップであるジョン・スカリー(当時)にインタビューしたことがある。場所はサンフランシスコの中華料理店で、春巻きを食べながら取材したわけである。

 当時、日本マーケットでのアップルは、パソコン(マッキントッシュ)の販売が伸び悩んでいた。
 パソコンはまだまだ価格が高い時代だったが、とりわけマッキントッシュは断トツに高価だった。技術や性能に自信を持ち、アメリカと同じマーケティングで、日本でも販売していたのである。

 「自信の持ちすぎではないか。日本マーケットとアメリカは違う・・・」と聞くと、「興味深い話だ」と返してきた。しかし、その後、アップルは停滞期に入り、ジョン・スカリーも新陳代謝というか、経営から消えていった。

■週明けから日本企業の決算が本格化

 企業も経営者も新陳代謝していくものだ。
 アップルもダメになりかけたが、経営者を変えることで、蘇生する事例となった。スティブン・ジョブスがトップに返り咲いて経営を変えて、iPhoneなどで世界のハイテク産業を牽引する企業になる礎を造った。

 アメリカの強みだが、企業も経営者も新陳代謝していく。日本も大枠同じではあるが、アメリカのようには進まない。酷く時間はかかるが、それでも大枠でなんとか新陳代謝は進んでいく。

 メジャーリーグ入りした大谷翔平(エンゼルス)が大変なブームになっている。「ワクワクする」「楽しい」と新しくてよいものは鷹揚に受け入れる。反対にイチローには、引退が突きつけられる――。いくらよいものでリスペクトがあっても、古いものは新陳代謝の妨げでしかない。これがアメリカの新陳代謝力の源泉、凄さである――。

 さて、連休明けは日本企業の決算が本格化する。
 連休前に発表された決算をみると、絶好調な企業が少なくない。おそらく、よい決算が続出することになる。アメリカも中国も景気がよいのだから、日本企業の決算が悪いわけがない。

 それでも一喜一憂せず、決算を読み込み、日本企業の新陳代謝力を眺めてみようではないか。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:03 | 小倉正男の経済コラム
2018年04月06日

【小倉正男の経済コラム】「貿易戦争」トランプ大統領の狙いはルール変更

■米中が高関税のブラフで脅し合う構図

kk1.jpg アメリカと中国という経済大国が「貿易戦争」状態になっている。しかし、トランプ大統領は、「我々は中国と貿易戦争をしているわけではない」とツイートしている。

 アメリカと中国が、お互い相手国の輸入品に高関税を課すと表明している。ただし、現状は表明だけで、実施はしていない。
 いまはいわばブラフの掛け合いであり、お互いに負けずに大仰に脅し合っている。

 自由貿易主義を牽引してきたことを自負してきたアメリカが、「保護主義」めいた高関税をチラつかせるのも奇異である。
 社会主義市場経済であまり公正とも思えない中国が、自由貿易主義を振りかざすのも奇異である。

 アメリカ側は、中国が自由貿易主義を唱えるなら、国をもっとオープンに開きフェアな体制にしろということになる。

 「トランプ大統領も最終的には自由貿易主義者だ」とは、トランプ政権側から出ている話だ。
 アメリカは中国に闇雲に貿易戦争を仕掛けているのではない――。別段、「保護主義」を奉じているのではなく、自由貿易のあり方を探っているのだというわけである。

■落しどころは心得ているのか

 アメリカと中国が「貿易戦争」というか、高関税の制裁リストなどを発表するたびに為替、株価などが乱高下している。マーケットには激震が走る。

 アメリカでも、中国が大豆を制裁リストに載せたことで国内の大豆生産農家から悲鳴が上がっている。大豆は、アメリカから中国への輸出品では最大の品目であり、中国は中国で痛いところを突いている。

 ロス商務長官が、「これらがすべて最終的に何らかの交渉という形で収束しても驚くべきではない」と発言している。落しどころは心得ているというわけであり、マーケットに安心感を与える状況になっている。

 ロス長官はトランプ大統領と連携を取っているのか。「貿易戦争」に見えるが、舞台裏では交渉でディールが進んでいるのか。
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提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 13:09 | 小倉正男の経済コラム
2018年03月30日

【小倉正男の経済コラム】中朝会談=核とICBMを持ったジレンマ

■核とミサイルを持っても恐怖は変わらないという相矛盾

kk1.jpg 習近平国家主席と金正恩委員長の中朝会談(3月25〜28日)が行われているというのに日本は朝から晩まで森友学園問題にからむ“佐川宣寿証人喚問”ばかりだった。

 北朝鮮の金一族としては3代目の金正恩委員長にいたるまで、核とICBMを持てばアメリカに潰されないようになる、とそれを遮二無二進めてきた。

 金一族による世襲という「国体」を護持できて安全を確保できる“宝剣”が、核とミサイルを持つことであると思い込んできたわけである。

 しかし、いざ核とミサイルを持つ、あるいは持つ寸前になっているとなれば、恐怖感も出てくる。

 アメリカとしては持たれては困るのだから、それこそ本気で潰しにかかる。北朝鮮としては、持つ寸前、あるいは持てば持つたで、怖いのはひとしおだ。

 持たないと怖い――、だが持てばそれはそれでまた怖い――。いまの北朝鮮はちょうどそこにある。相矛盾するが、世の中はそうしたものである。

 超音速ステルス爆撃機B1Bにいつ襲われるかわからない状態にあるのだから、金正恩委員長としてもおちおち眠れないのではないか。

■後ろ盾=相矛盾するがそれが現実

 日本のメディアからは、中朝会談で金正恩委員長は習近平国家主席に後ろ盾をお願いしに出向いたといった見方が出されている。

 米朝会談を控えて、金正恩委員長としては、“後顧の憂い”を取り除いておきたいのは山々だろうがそう簡単ではない。
 
 北朝鮮が、核とICBMを持つという行動を取るというのは、後ろ盾は要らない、自立してアメリカに当たるという表明である。いまさら、後ろ盾うんぬんというのは、これまた相矛盾するわけなのだが、それも現実ということなのかもしれない。

 ただし、中国が後ろ盾になってくれるかどうかといえば、そう甘いものではないだろう。中国の意に逆らって核とミサイルを自ら持とうとしたのだから、「後ろ盾、はい、はい、わかりました」、とふたつ返事で中国が北朝鮮を後見してくれるとは思えない。

 ただし、習近平主席にとっては、金正恩委員長がいざとなったら結果的に接近してきたのだから悪い話ではない。ともあれ乾杯(カンペイ)というところか。習近平主席は、金正恩委員長にメモを取らせた映像を流して、格の違いを印象づけている。

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写真=北朝鮮「労働新聞」HPより

■核とミサイルを持ったという相矛盾を抱えたという事態

 トランプ大統領は、ツイッターで習近平主席から「金正恩氏が私との会談を楽しみにしているとのメッセージを受け取った」ことを明らかにしている。「我々の会談を楽しみにしている」とツイートしている。

 トランプ大統領は習近平国家主席との関係の良好さを示して、余裕とまでいえば言いすぎだろうが楽観的なツイートしている。

 習近平主席は、トランプ大統領に中朝会談を説明しており、昔のように中国が北朝鮮と寄りを戻したということではないといういまの関係性を示唆している。

 中朝会談で、中国は北朝鮮の後見役というオプションを手に入れたようにみえる。だが、核とミサイルを持っているという国を後見するのは、中国にとっても心地よいものではない。トランプ大統領が、習近平主席との連携に自信をもっているのは、北朝鮮の非核化については中国の立場は変化がないとみていることによる。

 北朝鮮としては、後がない状態だ。5月の米朝会談がうまくいかなければ、金一族の世襲といった「国体」護持どころではなくなる可能性がある。核とミサイルを持った以上、以前のように非核化を装ってフェイクを重ねて逃げるという芸当が使えなくなっている。

 核とミサイルという“宝剣”を手に入れたら入れたで、陥れるジレンマはおのずと生み出されるということではないか。核とミサイルが完成途上なら、フェイクも大目に見逃してくれたが、いまはそうはいかなくなっている。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:36 | 小倉正男の経済コラム
2018年03月13日

【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領は『ドル安(円高)プレジデント』か?

■金利上昇でもドル安(円高)

kk1.jpg トランプ大統領は、その政策が明らかになるにつれて、「ドル安」ファクターであることが定着している。

 開示された雇用統計では、この2月の非農業部門の雇用者は31・3万人と高水準にあることが発表された。ほぼ完全就業状態のなかで、旺盛な雇用増となっている。
 ともあれ雇用の強さが確認された。アメリカの景気はかなりよいということの証明であり、インフレを防止するために金利はどうあれ上昇するとみられている。

 しかし、金利が上昇の方向なのに、為替はドル高にならないどころか、ドル安になっている。これまでは金利上昇はドル高ファクターだったのだが、いまはドル安ファクターになっている。

 賃金の伸びが予想を下回り、金利上昇のペースが少し緩和されるという見方により、一気のドル安は避けられたが・・・。しかし、金利の先高は変わらない。ところがトレンドはドル安である。

■トランプ大統領の政策により財政赤字懸念でドル安に

 これはトランプ大統領の政策によって、そうした変化が起こっている――。

 法人税減税、個人減税、インフラ投資、軍拡投資、これらは財政の巨額赤字を呼び込みかねない。大量の国債発行を行う可能性が生み出される。大量の国債を消化するには金利上昇が必要になる。マーケットは、そう読みこんでいる。

 そんなことで、アメリカは巨額財政赤字で国債格付けが低下すると懸念されるにいたっている。いわばアメリカの国力低下が予見されている。

 金利上昇はいまやドル安ファクターになっている。日本にとってみれば、アメリカの金利高は、円高に作用する状態をつくっている。

■保護主義=貿易戦争もドル安(円高)ファクター

 鉄鋼25%、アルミ10%という高関税を輸入品に課すというトランプ大統領の「保護主義」もドル安ファクターである。

 輸入品は高関税分が値上げされる勘定になる。国内企業も同等の値上げを行うとすれば、鉄鋼、アルミを購入して製品に加工する企業にとってはコスト増要因となる。その分はインフレになる。
 コスト増を背負わされた企業は製品加工を諦めて、アメリカを去ることにもなりかねない。

 高関税を課せられた相手国が、報復関税を実施すれば、すなわち「貿易戦争」になれば貿易そのものがどんどん縮小していく。アメリカにとっても、もちろん世界にとっても利益はなにひとつない。
 この「保護主義」=貿易戦争でもドルは売られ、円が買われる動きとなっている。

 トランプ大統領が、「貿易戦争は楽勝だ」とか強がって発信するたびにドル安になる寸法である。反対に「保護主義」が後退するとドル高になる。保護主義は、どこからみてもドル安ファクターということになる。

■トランプ大統領は“ドル安(円高)プレジデント”

 トランプ大統領と金正恩委員長の「米朝トップ会談」は、いまのところドル高に作用している。日本の地政学的なリスクが低下し、円安がもたらされている。

 円はどういうわけか、トランプ大統領と金正恩委員長の対立や緊張が激化すると買われる傾向となっている。緊張が緩和すると円は売られる。

 いまは緊張が緩和しているわけだから、円安のファクターである。ただし、アメリカの財政赤字拡大、金利上昇、貿易戦争といった懸念が横たわっているから、トータルでは「ドル安円高」に振れている。

 「米朝トップ会談」もいまは“ハネムーン”みたいな時期であり、夢ばかりが先行している。しかし、会談してみたら破綻してケンカ状態に後戻りすれば、一転してたちまちドル安のファクターになりかねない。
 「米朝トップ会談」は、夢は夢でも、悪夢になることもありうる。

 先々はなんとも読めないわけだが、後年にはトランプ大統領は“ドル安(円高)プレジデント”と呼ばれることになるのではないか。そんな心配がよぎっているのが昨今である。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 15:11 | 小倉正男の経済コラム
2018年03月08日

【小倉正男の経済コラム】「南北首脳会談」トランプ大統領はどう見極めるのか

■トランプ大統領とマーケット

kk1.jpg トランプ大統領の「保護主義」には、共和党からも批判というか、大人がたしなめるような動きも表面化した。

 ――法人税減税、個人減税とアメリカの景気にせっかく追い風を吹かせようとしている。そのときに「保護主義」を持ち出して景気に水をかけるようなことをするべきではない――。

 共和党のライアン下院議長などの発動停止・撤回に向けての発言はかなりまっとうな感がある。(カネ持ちに偏った)減税の是非はあるが、ともあれその減税をほめて、そのうえで「保護主義」を取り下げろというのだから、説得の作法としては完璧である。

 それでもトランプ大統領は、「撤回しない」「貿易戦争になるとは思わない。簡単に勝てる」と相変わらずである。他人のいうことは聞かない、聞けない。

 鉄鋼25%、アルミニューム10%の輸入関税を課すというトランプ大統領の政策だが、もともとはアメリカの貿易収支大幅赤字が発端である。それならそれで違う政策がありそうなものだが、いきなり高関税による輸入制限に手を出そうとしている。

 トランプ大統領は、なんでも手を突っ込まないと気がすまないわけだが、そのつど為替(=ドル)が売られ、株が売られている。
マーケットは、機関投資家やら投機筋やらが相場を支配して酷い乱高下を繰り返している。下げるにも上げるにも、理屈と絆創膏はどこにもくっ付くというやり方である。

■「南北首脳会談」――マーケットは半信半疑

 そんなところに「南北首脳会談」合意の一報である。
「体制が保障されるなら核を保有する理由はない」と北朝鮮の金正恩委員長が合意したというのだが、どこまで信じてよいことなのか。

 6日のNY株価はやはり半信半疑――。高関税による貿易戦争懸念が拭えないという問題が残っている面があるが、「南北首脳会談」には気迷いをみせている。ドル円の為替も大きく反応することはなかったが、その後はやはり「保護主義」=貿易戦争への懸念からドル安に転じている。
ただ、ナスダックは上昇、IoTなどハイテク関連はかりそめの「平和」でも歓迎といったところである。

 トランプ大統領は、「北朝鮮は非常に前向きに行動している」と評価しながらも、「様子をみよう」としている。どちらかというと、いわばまっとうな態度をとっている。核放棄が本物かどうかを見極めるというわけである。

■常套手法に騙されることはないか

 ただし、北朝鮮が“時間稼ぎ”をしているのは間違いないところではないか。北朝鮮は韓国の文在寅大統領を抱きこんで「平和」を演出して、核放棄まで装っている。――そうみるのが現状では自然というしかないだろう。

 確かに、いまは見守るしかない。だが、北朝鮮の手法はいつも巧妙である。想像を超越するようなやり方を平気でやる面がある。

 何度も使われている常套手法だが、くっついたり離れたりで時間を稼ぎ、核とロケットの完成を進めているとみられる。ついつい騙される。“オレオレ詐欺”みたいなものである。
 ずるずると北朝鮮のペースで引きずられてまたしてもやられましたということになるのではないか。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 09:46 | 小倉正男の経済コラム
2018年03月04日

【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領への不信、金利上昇でドル安の報い

■トランプ大統領の政策に信頼が置かれていない?

kk1.jpg 3月に入ったが、その途端というべきか株価は波乱の幕開けとなっている。2月中旬の乱高下=大幅下落が「本震」とすれば、3月初めの大幅下落は「余震」のようなものか。
 いずれも、震源地はアメリカ・トランプ大統領にほかならない。

 もっとも、今回の株価下落は、高関税による鉄鋼、アルミの輸入制限が原因だ。つまりは、保護主義的な政策である――。これには内外から強い批判・反発が出ている。

 2月の乱高下では、「株価は理由もなく騰がり過ぎていたのだから調整は当然のもの」(金融証券筋)と前もって予知していたかのようなことをいう識者がいた。大したものだと呆れる、いやいや恐れ入ってリスペクトしなければならないのだが、今回も事前に予知していたのだろうか。

 たびたびの株価の乱高下は、元をただせばトランプ大統領の政策に尽きる。トランプ大統領の政策に「人望」がないというか、信頼が置かれていないことが発端にあるように思われる。

 「よいニュースが報じられたときに株式市場が下がる。大間違いだ」。トランプ大統領本人は、そう怒っている。
しかし、必ずしも「よいニュース」とばかりはいえないと思っている人々も確実にいる。

■減税に感銘が失われているとは・・・

 トランプ大統領の政策――、例えば法人税減税だが、税率は35%から20%に下がった。確かに画期的な法人税率である。

 法人税減税で、直接、恩恵を受けるのは経営者、大株主である。法人税が減れば、利益が残るから、経営者の報酬にはプラスである。利益が残れば、配当余力が高まり、配当が増加する。大株主には確実にプラスになる。法人税減税は、カネ持ちに有利に働くことになる。

 しかも、個人減税では、7段階が3段階に簡素化され、最高税率は39.6%から35%に低下した。カネ持ち減税にほかならない。

 カネ持ちを減税すれば、おカネを使うから経済には廻りまわって好循環を及ぼすというのだが――。
 ただし、この政策は、すでに何度も行われており、一握りのおカネ持ちがアメリカの資産のほとんどを握って支配しているのが実体となっている。

 ビル・ゲイツ氏は、「おカネ持ちはもっと税金をはらうべき」と異論を述べている。トランプ大統領とは異なり、減税を「よいニュース」とばかりに捉えていない。「トランプの減税」だからというより、減税そのものに感銘が失われているのかもしれない。

 トランプ大統領は、白人の中間層を救うということで大統領選挙に勝ったわけだが、今回の大規模な減税策は、ともあれ直接的に中間層に恩恵を与えるものではなかった。

■金利上昇でドル安になる始末

 財政出動によるインフラ投資、核を含む軍拡・軍備更新は、国債発行を伴うものだから金利上昇が追いかけてくる。金利上昇傾向は、株式市場を直撃することになった。

 さらに国債発行で財政赤字が大幅に拡大するからという懸念なのか、ドルが売られる始末になっている。金利上昇でドル高というこれまでの「常識」が吹き飛び、金利上昇でドル安となっている。

 株安、ドル安と、トランプ大統領の思惑は大きく外れ、「よいニュースなのに。大間違いだ」、と。

 政策も人なり――。これもトランプ大統領に信頼がいまひとつ置かれていないということなのかもしれない。トランプ大統領の政策には“懸念”や“不信”が付きまとうとマーケットは判断しているのか。

 株もドルも売られている?マーケットが常に正しいとまではいえないにしても、それがとりあえずのマーケットの判断であるということができる。この悪循環を断ち切ることができるのか。

 バブルな政策を打っても、不徳の至り、あるいは不信の報い、というかバブルに膨らむ前に警戒されて膨らまない。さてさて、3月は桜が膨らむ季節だというのに・・・。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年〜2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 09:01 | 小倉正男の経済コラム
2018年02月18日

【小倉正男の経済コラム】市場はトランプ大統領に手厳しいお仕置き!トランプ流とレーガン流の違い

■レーガン流は不況打開の経済政策

kk1.jpg 前回のこのコラムで、トランプ大統領は法人税減税、個人減税、財政出動(インフラ投資)、核など軍備更新、そして軍事パレードと、なんでもやりたがるクセ、さらにやり過ぎるクセがあると書いた。
 しかも、時や場合をわきまえているわけでなない。

 トランプ大統領がお手本にしているレーガン大統領の「レーガノミクス」――。個人減税と規制緩和を行った。さらにロシアに対抗して軍拡を行った。軍拡にはおカネが必要であり、財政出動(=財政赤字)を伴った。

 「レーガノミクス」は不況(スタグフレーション)打開を目指したものだった。
 個人減税で消費を起こそうとした。お金持ちを対象に減税すれば、消費を刺激できるという政策である。

 規制緩和は、ベンチャー企業を育成する「誕生権経済」を意識したものだった。不況打開のために、アップルなど新しい企業群を育成したのである。いまのアメリカ経済を支えるお宝のような新・主力企業は、レーガン大統領の育成策が発端となっている。

 一方、軍拡による財政出動は、国債増発を呼び込んでしまった。高金利時代となり、長期国債(トレジャリーボンド)は15%を超える高利回りだった。
 「レーガノミクス」、つまりレーガン流は、不況と悪性インフレと悪戦苦闘した経済政策といえるものだ。

■トランプ流の経済政策は時と場合を得ていない

 トランプ流は、経済が好況である時に大不況期並みの経済政策を押し広げたものである。時や場合をまったく考慮していない。
 大昔の植木等ではないが、「お呼びでない、こりゃまた失礼しました」というフェイクなキャラがトランプ流である。(若い人にはわからないか。)

 失業がないといった「完全雇用」状態で、インフレ懸念から金利が上がっている時に、大規模な景気刺激策を打ち出している。
 法人税減税、個人減税、財政出動を伴うインフラ投資、同じく核などの軍備更新・拡充とこれでもかと全部を広げ並べて悦になっている。

 これが金利上昇不安を醸成し、株式市場の乱高下、大暴落を呼び込んでしまった。バブルになる前に、経済政策があまりにバブルであるために、予防的な破裂を起こした。前代未聞の粗忽な「トランプバブル崩壊」という事態である。

 大不況時の経済政策を好況時に打ち出したわけである。トランプ流は、これでもかこれでもかと面白いのだが、キャラがいまの時期や状況に不整合である。本当に不況期になったら切るカードがないという問題も残る。

 粗忽というのか、時代に合っていない、むしろ時代を混乱させる・・・。大国を治めるは小鮮を煮るがごとしで、箸を入れないのがやり方だが、スプーンやら何やら手を入れすぎである。(前回のコラム参照)

■マーケットがトランプ大統領に手厳しいお仕置き

 私など呆然とするしかないのだが、世の中は呆然とすることが起こるものである。後付で「株価が高くなり過ぎていたわけで株価が調整された」といわれればそれはそうだが、そういわれてもあまり感銘はない。

 ただ、今回の株式市場の乱高下、大暴落はバブル崩壊、バブル破裂という構造的な悪化ということではない。
 過剰に景気がよくなる、あるいはあまりにバブルを引き起こしかねないということで金利が上昇し、バブル予防的に事前破裂を起こしたということではないか。ともあれパニックを伴って株式市場の「調整」を結果として激しく進めたという側面がある。

 アメリカの長期金利は2.87、この水準から上昇するようならリスクが再びぶりかえすという悲観論・警戒論がいまや一般的である。ただし、企業業績、景気はよいのが実体だ。金利は「正常化」に向かっているという見方も出ている。

 確かに株式市場の「調整」というには、暴落幅が激しすぎたわけだが・・・。マーケットの役割といえば役割だが、凄まじいものだった。なんでもやりたがる、やり過ぎるトランプ大統領にマ−ケットが手厳しいまでの警告やお仕置きをしたということになる。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)
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