浅妻昭治のマーケット・センサー
前週末26〜27日の
キヤノン<7751>(東1)の株価の動きをみると、どこかで経験したことがある既視感(デジャ・ビュ)と捉えられた。キヤノンは、7月25日に今12月期第2四半期(1〜6月期、2Q)累計決算の発表と同時に12月期通期業績を下方修正し、26日の株価は一時、370円安と急落して年初来安値を連続更新したが、週末にはその安値から230円高と急反発したのである。業績の下方修正が、年初来安値水準で悪材料出尽くし、あるいは悪材料織り込み済みとして、株価底上げのキッカケ材料となったことになる。
いまや3カ月ごとに続く決算発表は、最大の相場イベントとして数々のドラマ、悲喜劇を生んできたが、そうした過去の決算発表の数々を反芻すると、今回のキヤノンの株価の既視感は、今年2月の
ソニー<6758>(東1)の株価動向から触発されたのではないかと思い当たる。
ソニーは、今年2月2日に前3月期第3四半期決算の開示とともに、前期通期業績の3回目の下方修正を発表し、営業利益は赤字転落、純利益は赤字幅をさらに悪化させた。しかし株価は、このときの安値から500円幅の急反発を演じている。この急反発は、ソニー固有の株価材料によるものというよりは、日本銀行の強力サポートが大きく、2月13〜14日開催の金融政策決定会合で打ち出された資産買入基金の10兆円の増額とインフレ・ターゲット論の導入が引き金となった。
市場は、この追加金融緩和策を「バレンタイン・プレゼント」と歓迎し、1ドル=76円台、1ユーロ=100円台割れと円高に進んでいた為替相場は、円高修正となり、8800円台で低迷していた日経平均株価も、3月末の年初来高値1万255円まで急伸した。ソニーを筆頭に業績を相次いで下方修正した銘柄が、悪材料出尽くし感を強めて、下げた株ほど良く戻すとする「リターン・リバーサル」のテクニカル的な買いが先行した。
今回のキヤノンの株価反発には、日銀の「お中元プレゼント」はなかったが、その代わりに欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁の「リップ・サービス」があった。同総裁が、ユーロ防衛策を強く示唆したことで欧州債務懸念が緩和し、1ユーロ=94円台まで進んでいた円高・ユーロ安が一服したことが、キヤノン株買い戻しの材料となった。
キヤノンにみられた既視感が、そのまま2月の反騰相場再現を示唆しているとするのはまだ時期尚早かもしれない。3月期決算会社の第1四半期(4〜6月期)業績発表は、これから本番を迎え、米国でも4〜6月決算や重要経済指標の発表やFOMC(連邦公開市場委員会)開催などの相場イベントが、目白押しだからだ。世界的に景気減速懸念が強まるなかで、予断は許さないと捉える方が無難だろう。
しかしその様子見シナリオ、悲観シナリオが大勢を占めるなかで、キヤノンの反発が、本格反騰につながる本物であるとする楽観シナリオの可能性がいくらかでも残っているとしたら、今年2月の反騰相場をもう一度振り返ってリサーチして置く価値だけはあることになる。リサーチの最大の手掛かりは、2月相場で株価反騰のリード役としてその決算発表が、ポジティブに評価された銘柄があったことにある。
アンリツ<6754>(東1)と
ニコン<7731>(東1)である。業績の下方修正、再下方修正、再々下方修正銘柄のラッシュとなったなかで、アンリツは、業績を再々上方修正して増配、ニコンも業績を上方修正、株価は、両社株とも日経平均株価の上昇率を2倍以上、アウトパフォームしたのである。
2月相場の再現が期待できるとしたら、決算発表のなかから第2のアンリツ、ニコンをセレクトするのが、最も効率の良い銘柄戦略になるはずである。この戦略にマッチする銘柄として徹底マークしたい銘柄が、日立グループ株である。(続きと詳細は
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浅妻昭治(あさづま・しょうじ)
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 13:00
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