「レームダック」、「死に体」といわれた菅直人首相が、驚異の粘り腰を発揮している。野党も身内の与党からも誰も、首相の首に辞職の「鈴」をつけられずにいるうちに、粘り腰が強腰に変じたような趣きさえある。政治評論家のなかには、首相をバルカン政治家と呼ぶ向きがある。尊称を奉っているのは、卑称として貶めているのか詳らかでないが、月足で5月、6月と日経平均の陰線が続き、混迷の度を増している株式相場にとっても、お手本にしなくてはならない出処進退ということになる。
株式相場が、粘り腰を発揮しさらに強腰に転換するためには、どう株価環境が動いたら望ましいのか、そのためにどう対処すべきなのか?この出処進退の第一のヤマには、7月に迫った決算発表がある。3月期決算会社が、第1四半期(1Q)の業績を発表してくるが、このイベント期待である。
同イベントは、まず決算発表の一番乗り争いからスタートする。トップを争うのは、アドヴァン<7463>(東1)とあみやき亭<2753>(東1)の2社である。両社は、この1年、発表一番乗りのデッドヒートを演じてきた。昨年7月の前期第1四半期決算では、アドヴァンが、7月5日の15時50分に発表してあみやき亭より1日先んじたが、第2四半期(2Q)決算では、今度は、あみやき亭が巻き返して、10月4日寄り付き前の7時30分に発表してアドヴァンに1時間先行し、そのあとの第3四半期、3月本決算では同日・同時刻発表の同着となっている。
主力株の決算発表一番乗りは、信越化学工業<4063>(東1)と決まっている。同社の決算評価が、その後の業績相場の方向性を決定する試金石になるのも例年の恒例であった。東証は、上場会社にタイムリー・ディスクロージャーとして決算発表の所要日数として期末から45日以内を求めている。この所要日数を大幅に短縮する3社には、スピード開示プレミアムとしてご褒美の株価の上乗せがあるのも例年のことだが、今年の7月も例年通りとなるか注目されることになる。
もちろん今年の1Q決算発表は、大勢としては期待薄とするのも否定できない。東日本大震災でサプライチェーン(供給網)が寸断されたまさに渦中の決算期になるのが1Qである。今期業績は、1Q、2Qと赤字が続き、後半の3Q、4Qに急回復し3月通期で黒字転換する予想が大半となっており、1Qはボトムの決算期に該当するからである。株価にとっては業績悪として追い討ちになるか、それとも悪材料出尽くしになるか、予断を許さないことは確かである。
―――「水準より変化率」で
まず低位株価の6銘柄に先取り余地―――
ただ救いがないこともない。業績評価には、昔から「水準より変化率」とされる価値基準が厳然として存在するからだ。株価は、利益額の大小よりも利益の方向性に敏感に反応する傾向が強いのである。赤字会社が黒字転換し、無配会社が復配するときほど株価変化率が高いといわれるのはこのためだ。だから今期の1Q決算も、好決算のサプライズ銘柄が飛び出して、相場全般をリードするのがベストだが、たとえ赤字であっても、直前四半期の前3月期第4四半期(4Q)より赤字が増大しているか縮小しているか比較して、株価が歓迎高する可能性がなきにしも非ずとなる。
さて、結論である。「粘り腰」発揮から「強腰」転換が期待できる銘柄をセレクトしなければならない。取り敢えずマークするのは、今期経常利益の増益率ランキングの上位銘柄となる。業績のV字回復銘柄である。V字回復は、それだけ前期の業績が悪かった裏返しではあるが、株価的にはそれだけ意外性を強めることになるからだ。
トップはNEC<6701>(東1)である。前期の通期経常利益4100万円が、今期は550億円と高変化率が予想されている。前期1Q経常利益は、404億6100万円の赤字、直近の前期4Qは、491億8400万円の赤字であり、今期1Q決算がどう転ぶか注目される。同社のほか東証1部の増益率上位銘柄には、3月期決算会社以外も含めて日東製網<3524>、有沢製作所<5208>、東光<6801>、ユニデン<6815>、光通信<9435>などがノミネートされており、低位株価からの「粘り腰」、「強腰」の発揮も期待したくなる。
浅妻昭治(あさづま・しょうじ)
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。