「一粒で2度おいしい」とは、昔懐かしいグリコ・アーモンドキャラメルのキャッチコピーである。このキャッチコピーよろしく株価が、2度動いているのが、3月期決算会社で今期業績予想を未定、非開示とした銘柄である。4月末〜5月初めの決算発表時に今期予想を未定として株価が上下どちらかに反応し、前週あたりからその未定として今期予想を開示し、また売り、買いどちらかの株価評価につながっている。
しかも、遅れて開示した今期予想が、続伸を見込んで市場コンセンサスを上回ったケースでは、株価も好感高を演じており、「2度目のおいしさ」はぜひ満喫したくなるのが投資家の当然の投資スタンスというものだ。東京エレクトロン<8035>(東1)は、今期予想が市場コンセンサス未達でその後の株価は伸び悩んだが、日立メディコ<6910>(東1)、安川電機<6506>(東1)、日立建機<6305>(東1)などは、市場コンセンサスをクリアして株価も好感高、下げた株ほどよく戻る「リターン・リバーサル」買いの有力候補銘柄に名乗りを上げているからなおさらである。
もちろん今期業績を未定と予想したのは、東日本大震災の影響である。大震災の景気全般への心理的影響、サプライチェーンの復旧・復興動向、電力使用制限の対応など不確定要因が多すぎて、合理的な算定が困難としたからである。しかしいつまでも未定のままとはいかず、今月末に集中開催される定時株主総会までには、予想を開示してくるとするのが一般的な見方となっている。日産自動車<7201>(東1)のように、業績予想と株主総会の開催予定日を未定とした例もあるが、月末接近とともに両方を同時発表の可能性も想定される。
ただ注意しなければならないのは、業績未定予想銘柄にも、純粋未定会社とそうでない会社があることだ。予想未定会社でも、決算発表の翌日付けの日本経済新聞の投資・財務ページには、しっかり今期予想の売上高、経常利益、純利益が打ち出されているケースが大半だからである。主力株のなかで今期予想が空欄となったのは、日立製作所<6501>(東1)、ルネサスエレクトロニクス<6723>(東1)、JR東日本<9020>(東1)、ソフトバンク<9984>(東1)など数少ない。
しかもこの日経の業績予想は、はなはだ的確なのである。安川電、日立建、さらに前週末27日発表の日立物流<9086>(東1)に遅れて開示した今期予想などは、日経予想とほぼ同レベルとなった。日経の担当記者の取材力、業績分析力には恐れ入るほかない。
だから遅れて開示される今期予想が、この日経予想を上回るサプライズとなるのか、それとも日経予想通りとなって好材料・悪材料出尽くしと評価されるかによって、株価も2度目の動意を示すことになる。全般相場が手詰まり感を強めるなか、個別物色銘柄として浮上する展開も想定される。
子会社が相次ぎ強気予想を打ち出した日立を筆頭にオリエンタルランド<4661>(東1)、富士フイルムホールディングス<4901>(東1)、パナソニック<6752>(東1)、TDK<6762>(東1)、アドバンテスト<6857>(東1)、日産自動車<7201>(東1)、ホンダ<7267>(東1)、日立ハイテクノロジーズ<8036>(東1)などの動向からは目を離せず、待ち伏せ余地もあることになる。
浅妻昭治(あさづま・しょうじ)
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。