浅妻昭治のマーケット・センサー
まるでアンデルセン童話の『裸の王様』のようである。2月11日に辞任したエジプトのムバラク前大統領のことだ。29年にもわたって独裁体制をほしいままにしてきたカリスマ政治家が、政権居座りを図ったものの、拡大する反政府デモと米国の圧力に抗し切れずに失脚に追い込まれたが、その追い込まれ方が何だか似ているのである。
アンデルセン童話では、「王様は裸だ!」と叫んで王様の権威を失墜させたのは小さな子どもだった。今回の政変劇は、究極のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)交流サイトといわれる「フェイスブック」に書き込まれた反政府デモへの参加を呼びかけたコメントが、発端だったという。政党にも属さずイデオロギーにも無縁の一介の市民が、個人レベルで唱えた異議が、ネット上でコミュニティを形成し、直接、政権にレッドカードを突き付ける結果となったわけで、その立場は「王様は裸だ!」と叫んだ子どもと変わらない。だから、今回のエジプトの政変も、これに先立つチュニジアの「ジャスミン革命」も、最新のITサービスを利用した「フェイスブック革命」と一括りにされているようである。
■「フェイスブック」関連株が浮上も
この「フェイスブック革命」の株式市場への影響は、もちろんすでに新聞、テレビで再三解説済みのように、エジプトで親米・親イスラエルの民主化後継政権が成立するのか、さらに政権崩壊ドミノが中東諸国に波及せずに中東情勢に波乱が起こらないかにかかっているのがポイントとみるのが基本だろう。これはもう少し、成り行きを見守るしかない。ただ、極く目先的には「フェイスブック」関連株が、テーマ株として浮上する展開も想定されるところで、1〜2月の決算発表で業績上方修正が続いたスマートフォン関連の電子部品株、電子材料株などに買い物が集まりそうだ。
しかしである。「フェイスブック」などと聞くと、旧来の携帯電話さえうまく使いこなせていないアナグロ投資家にとってはなかなか馴染み難い。「バーチャル(仮想)」が「リアル(現実)」よりもさらにリアルで、強い影響力を持つことが信じられないところで、まさに「デジタル・デバイド(情報格差)」そのものを感じさせる。この懸念を持つ市場参加者は、少なからずいるはずだ。その証拠は、例の新日本製鐵<5401>(東1)と住友金属工業<5405>(東1)とが発表した合併協議合意に際しての個人投資家の大挙・積極参戦である。この株価材料は、新聞紙面を飾った大見出しが、そのまま頭に入るリアルさゆえのインパクトを発揮したが、バーチャルな材料のように、頭のなかで2度、3度変換しなくては納得できないわずらわしさが少なかったからに違いない。
■「アナログ」投資家は「バーチャル」より「リアル」志向でホ−ムドア関連株で感触を打診
前置きがまたまた長くなって恐縮だが、そこで、同様のリアルなテーマ株として、ややスケールは劣るものの注目したいのが鉄道関連株だ。先の決算発表でも鉄道株に意外と上方修正銘柄が続出し、3月には九州新幹線が全線開通するなどの話題性にも事欠かず、その先駆株としてまずホ−ムドア関連株で感触を打診してみるのも案外、面白いかもしれない。
鉄道駅のホームドアの整備については、転落・接触事故の多発に対応して国土交通省が、今年2月9日に第1回目の検討会を開催し、6月にも中間報告を取りまとめる予定にある。かつて2006年に成立したバリアフリー新法で、駅エレベーター・エスカレーター整備関連株が相場になりかかったことがあるが、今度こそテーマ株として確立するかどうか試してみるのである。関連株としてはナブテスコ<6268>(東1)、日本信号<6741>(東1)、京三製作所<6742>(東1)などが浮上する。
もう1つ、鉄道関連の穴株としてリサーチしてみる価値のあるのが、相鉄ホールディングス<9003>(東1)である。株価は、昨年10月払い込みで実施した公募増資の発行価格252円近辺で下値もみ合いを続けているが、昨年3月に着工した相鉄・JR直通線建設をグリーンスパン前FRB議長の「100年に一度の津波」ならぬ「100年に一度の好機」と位置付けているからだ。相鉄線沿線関係者中心に期末の株主優待取りも含めて検討の余地はありそうだ。
浅妻昭治(あさづま・しょうじ)
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。