浅妻昭治のマーケット・センサー

その日銀総裁が、景気判断に関してもウソを言って構わないとは誰からも聞いたこともない。しかし、8月10日の金融政策決定会合後の白川芳明総裁の発言要旨を新聞で読むと、その景気判断には首を捻った。まさか景気判断に関してもウソを言っても構わないという新しいルールが導入されたわけではあるまいと異和感を禁じえなかった。総裁は、円高については大事な点検ポイントとしつつも、国内経済は今も回復基調が続いているとの見解を固持したのである。
同じ中央銀行トップの米国のバーナンキFRB議長は、早手回しに経済の先行きについて「異例な不確かさ」を指摘して、白川総裁との判断の違いを際立たせた。バーナンキFRB議長が「当たり屋」で、白川総裁が「曲がり屋」か、それともまったく攻守処を変えることになるのかは、そう遠くない段階で結論が出ることになる。とりあえずは景気認識が異なれば金融政策にも差が出るのは当然で、米国は一段の金融緩和策に踏み切ったが、日本は追加的な政策対応を行わなかった。この日米のギャップを突いて、為替投機筋が、ドル売り・円高を仕掛け、円は1995年の史上最高値1ドル=79.75円も指呼の間にすると緊張感が走って、景気の二番底懸念も強まり、株価の急落につながった。
もっとも、避暑先から菅首相が、仙石官房長官に電話をかけたと伝わっただけで円高が一服した。いわゆる「口先介入」で、9月の民主党代表選挙を前に一部、レームダック化が懸念されている菅首相の発言でも、為替介入への警戒感が強まることになったわけだ。この警戒感が続く間は無難だが、実際に為替介入の「伝家の宝刀」を抜いたら、宝刀がさびついていて全然効かない結果となり、却って投機筋を勢い付かせてドル売り・円買いにカサをかけるようなことにならないのを祈るばかりである。
いずれにしろ、「二日新甫」の8月相場は残り半月、まだ波乱が予想される。ここは安全第一である。9月の第2四半期末の配当取りを狙う好配当利回り銘柄が、下値買いの有力株である。しかもこれに「当たり屋」、「曲がり屋」、バーナンキ議長、白川総裁の両方の顔を立てつつ、円高・円安が逆転したときに備えて、日経225銘柄に絞り込むことが次のセレクト・ポイントとなる。エーザイ<4523>、武田薬品工業<4502>、アステラス製薬<4503>、第一三共<4568>の薬品株、みずほフィナンシャルグループ<8411>、三井住友フィナンシャルグループ<8316>、三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>のメガバンクなどが浮上することになる。
浅妻昭治(あさづま・しょうじ)
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。