
政府と民間(庶民、企業)の関係は、医師と患者の関係にも似ている。急激な円高に対しては、医師の治療によって緊急事態は避けることができた。大量の円資金をマーケットに供給した。治療でいえば「輸血」に似ている。低下していた「血圧」(株価)も戻してきた。しかし、まだ、安心はできない。最近は多剤耐性菌といわれる、これまでの抗生物質が効かない強い菌が出ている。依然、患者には感染症の怖さが残っている。
「円高」を裏側からみれば、ドル安、ユーロ安である。ドル安、ユーロ安によってプラス効果を喜ぶ国は必ずあるはず。そうでないと、ここまでの相手国通過安(=円高)が起こるはずがない。円高となるだけの力は今の日本にはない。
外交の基本は国家間の損得である。当然、通貨もその交渉のひとつである。今後どこまで、新内閣が円高を抑止できるか。世界に大量に流通するドルを相手に戦うことができるか。しかも、ドル紙幣を自由に刷れるのはアメリカだけである。ここに、通貨問題=外交問題ということが横たわっている。一時、中国寄りの姿勢をみせた日本政府が新内閣において、どこまで親米姿勢を見せることができるかにかかっている。その踏み絵は、沖縄基地問題だろう。
もし、円高を押さえ込むことができないようだと、「東シナ海問題」、「北方領土問題」、「北朝鮮拉致問題」など、経済以外の領土に関連した大きい外交問題が、今がチャンスとばかりに頭をもたげてくる心配がある。果たして、菅内閣はどのような外交姿勢をとるのか。
一方、日本の経済は引き続き厳しい状況にある。大量輸血で危険な状況を一応、乗り越えた。医師は次に患者に対し、どのような体力向上の施術を行うのか。もちろん、患者自身が元気になろうという気持ちがなくてはいけない。その点は、日本の企業には、まだまだヤル気は十分ある。菅総理が選挙戦後半で打ち出した「法人税引き下げ」が本当に実現するのか。5%くらいのちまちまでなく10%程度の引き下げとなるのかどうか。これまでと同じように財源がないから出来ないというのかどうか。消費税引き上げとバーターでやろうとするのかどうか。
8月10日以来、1ヶ月超ぶりに9600円台水準を回復した日経平均。今後、新政権が庶民重視だけでなく、企業重視の政策を採るなら1万円奪回を目指した動きも予想される。菅政権の外交手腕と経済手腕を見極める動きだろう。