キリンホールディングス<2503>(東1)の経営トップ交代が発表された。正式には3月26日開催の定時株主総会後の取締役で決まる。昨年9年ぶりにビールシェアトップの座を奪回。今年は、サントリーとの経営統合で、さらなる飛躍を目指していた。それが、去る9日には、サントリーとの統合交渉終了、そして、10日には経営トップ交代。経営統合を期待して買われていた株価は一転して下げに転じた。投資相談の形で、Q&Aでまとめた。
(写真=右:新社長予定の三宅占二氏、左:現社長の加藤壹康氏) <Q> なぜ、サントリーとの経営統合が破談したのか。
<A> 既に、報道されているように、統合比率が折り合わなかったといえる。未確認だが、キリンHDの株式1株に対し、サントリーHD株式0.5株程度、だったといわれる。お互いに、名門企業の誇りがあり、両社とも譲れなかったようだ。キリンHDは株式を上場している。サントリーHDは非上場。上場している企業と、上場していない企業の難しさがある
<A> なぜ。
<Q> 上場して、マーケットで取引される株価には、誰にでも分かりやすさがある。財務内容、収益力、ブランド力などのほかに、企業そのものに対する、期待度という、もろもろの「人気性」も含まれている。企業が社会で営みを続ける以上、人気要因は無視できない。一方は上場企業、片方は非上場企業では、財務内容中心のデータだけで比較することは難しい。
<Q> しかし、新規に株式を上場する時は、類似企業と比較するのではないのか。
<A> もちろん、それはある。しかし、それは、あくまで「参考にする」ということにすぎない。仮に、投資家が株式公開時の株価が、割高と判断すれば購入申し込みに消極的になる。株式の新規上場は、人に置き換えれば、大学の入試みたいなものだ。その人の実力によって合否がきまる。しかし、経営統合は「結婚」のようなものだ。自分では好きだ、惚れたといっても相手が嫌だといったら成立しない。今度のキリンとサントリーは、「お見合い」までは行った。しかし、恋愛感情は生まれなかったということだろう。
<Q> だけど、キリンHDの株価は、「統合への期待」で、上がっている。特に、個人投資家としては、ハシゴを外された気持ちが残る。
<A> それは、ないとは言えない。昨年7月に経営統合交渉開始を公表した時のキリンHDの株価は1260円程度だった。今年1月には1544円の高値をつけた。22%程度上昇した。この間、消費関連の内需の影響を受けやすいTOPIX(東証株価指数)は11%しか上昇していない。キリンHDがシェア1位を奪回した評価はある。しかし、そのほかに、サントリーとの経営統合の期待分が含まれていたと見るのが普通だろう。
<Q> どこに気になる点があるのか。
<A> キリンHDには、統合への期待がマーケットで存在していたことは、当然、承知はしていたと思う。期待の度合いは別としても。そうすると、今、言われている、サントリー創業家の持株3割以上維持という話を、キリンHDがどの時点で掌握していたか。仮に、最初の段階でこの話があったのなら、交渉の入り口でストップするべきだったのではないかという見方もある。もしも、サントリーが創業家の保有株維持を図りつつ、上場もしたいのなら、キリンのような大きいところではなく、もっと小さいところを選べばいいのではないかと。そうではなく、大きいところ同士が、一緒になって、さらに大きくなりましょうというのなら、創業者の持株比率は少なくていいのではないかということだ。
<Q> この時期にトップの交代を決めたのは、責任的な意味合いはあるのか。
<A> 記者会見でも、この点への質問は多かった。「なぜ、この時期か」と。加藤社長は、「中期計画が順調に進んでいる。その流れを加速させるために、以前から社長のバトンタッチの腹を固めていた」と、何度も強調していた。庶民感情的な個人投資家の立場では、今度のことは、無関係ではないだろうという気持ちはあると思う。会社側は、09年12月期の決算発表の日にトップ交代も同時に決めていたということだ。
<Q> 新社長に就く予定の三宅占ニ氏(現副社長)は、どういう人なのか。
<A> 記者会見の応対では、キリンらしい誠実な人という第一印象はあった。1948年生まれで62歳。現、加藤社長の65歳より3つ若いけど同世代。大学は加藤氏と同じ慶応大学の出身。1970年にキリンビールへ入社。初めての転勤は大阪支社営業部で、「関西の風土も学ぶことができた」と振り返り、その後の営業に大いに役立ったということだ。東京ではロバートブラウン(ウイスキー)の販売で実績を上げるなど営業畑が中心。少年時代から大学まで野球に打ち込んだという。
<Q> 現、加藤社長は会長となる予定だが、代表権は付くのか。
<A> 代表権は返上して、取締役会長に就任の予定。加藤氏は、「会社にはツートップはよくない」というのが、以前からの持論ということだ。
<Q> 今後、個人投資家に、次なる発展の楽しみは期待できるのか。
<A> 国内の少子高齢化を考えれば、今後も国内でのM&Aは予想される。三宅氏も「食と健康の分野の領域なら、あり得ないことではない」と発言されている。海外では、オーストラリア、ニュージーランドでの営業基盤は整っているため、遅れている中国での営業展開に取り組むものとみられる。
<Q> 10年12月期の見通しは。
<A> 売上は2.6%減少の2兆2200億円と、前期に続いて減収の見通し。営業利益は3.6%増の1330億円と回復する。営業利益率は5.99%(08年12月期=6.3%、09年12月期5.6%)に若干向上する。予想1株利益は50.3円、配当は年25円(前期年23円)を予定。前期末の1株当り純資産は1029円(前々期末972円)に向上した。
<Q> 株価見通しと投資スタンスは。
<A> 10日(水)の終値1342円は、PER26.6倍、利回り1.86%、PBR1.3倍など、投資指標において、特に割安が目立つということではない。既に、1月8日の高値1544円から、去る8日の直近安値1321円まで14.4%の下げ。目先筋の投げは一巡だろう。ただ、現在、週足26週線が1340円台にある。今日の週末この水準を切るようだと売り転換する。目先は今日の動きが注目される。さらに、今後しばらくは、26週線自体が上昇するため、売り転換しやすい地合いが続く。このため、戻すなら一気に上昇しないと、高水準の信用買い残が徐々に重荷になってくるはずだ。当面は統合の期待材料が消えたため上値を買い上がる勢いは薄くなった。次ぎなる展開材料が出るまでは様子をみるのがよいだろう。仮に、信用買いの処分売りで突っ込むようなら1250円前後を目安に指値買いが有効だろう。
提供 日本インタビュ新聞社 Media-IR at 09:02
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