
16日に政権交代して成立する鳩山新内閣では、この常識が通用するのかいまひとつ不透明である。不況を「悪」とすることについてはまず問題はないだろうが、円高、株安についてはまだ見極める必要がありそうだ。とくに円高は、海外メディアからは鳩山由紀夫首相自身が円高容認論者とみなされ、国内メディアでも円高阻止に動くかどうかについては見解が分かれているだけに、組閣される主要経済閣僚の顔ぶれや組閣後に国際舞台にデビューする新首相の一挙手一投足などをよくウオッチしなくてはならない。
しかも円高は、為替市場介入だけで阻止できるのかも次に問題となる。ドル安を前にしたオバマ米国の立場も、優れて大きな政治問題であるし、今回の円高が、ドル・キャリートレードを震源とするとも観測されているからだ。低金利の通貨を調達して高金利通貨で運用するこのキャリートレードは、かつての円キャリートレードでお馴染みで、これが米国のサブプライムローン・バブルの遠因になったことも分析されている。円キャリートレードが、「100年に一度の津波」を経てドル・キャリートレードに変質するとすれば、ジャブジャブに余るドル資金が、商品先物、不動産、新興国投資などのどこに向かい、何をしでかすのか、今後の株価の先行きも左右することになる。
その関連で注目されるのが、3月期決算会社の第1四半期業績発表で、サプライズの一つだった一部不動産株の業績上方修正である。ザッと上げるだけでも東急不動産(8815)、住友不動産(8830)、大京(8840)、フジ住宅(8860)、タカラレーベン(8897)、ファースト住建(8917・大2)、穴吹興産(8928・大1)と続き、株価は急伸した。何がサプライズかといえば、不動産株は、昨年9月のリーマン・ブラザーズ破たん以降、今年6月まで上場不動産会社の26社もの経営破たんが続き、不動産不況のど真ん中にいたはずだからである。
多くの上方修正は、まだ第2四半期業績のみにとどまり、修正要因も、完成在庫の早期売却、中古物件の販売促進、再販物件の販売拡大などと一時的な要因が大半だった。また国土交通省の8月末発表の地価動向7月調査でも、全国的に地価下落地点が減少し、地価下落が緩やかになったと報告されたが、地価水準そのものはなお下落が続いているとした。それならそれで一過性の上方修正に終わるが、しかし下半期入りの10月以降、上方修正が通期業績にまで及び、地価下落の縮小がなお続くとすれば、そこにまたマネーの再胎動の兆しを読み取らざるを得ないことになる。仮定に仮定を重ねての相場シナリオとなるが、上方修正不動産株には半年先を先取りして対処することも必要になりそうだ。
浅妻昭治(あさづま・しょうじ)
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。
株式評論家/日本インタビュ新聞社 編集部 部長
1942年生まれ、神奈川県川崎市出身。証券専門紙で新聞と雑誌のキャップを務め、マーケット及び企業の話題掘り下げ取材には定評がある。長く、旧通産省の専門紙記者クラブに所属し、クラブの幹事として腕をふるった。現在、日本インタビュ新聞社の編集長として活躍。